CONTENTS
プロローグ
江戸から京へと続いた東海道。
かつて旅人たちは、五十三次の宿場を通り抜け、風土の違いを肌で感じながら、道中の食や人との出会いを味わってきた。
現代の旅はもっと速く、もっと効率的。
けれど、羽田を発ち、横浜から焼津、浜松、名古屋、そして京都へと、ゆっくりと東海道をなぞってみると、
その土地ごとに異なる香りと味わいが、しっかりと息づいていることに気づく。
港町で味わう魚の鮮烈さ、山の幸と発酵文化が育んだ旨み、職人の手が織りなす繊細な技法。
どの一皿にも、その土地の風土と歴史、そして「今」が詰まっている。
東海道を、味覚で辿る旅へ。
古き通い路に新たな記憶を刻む、美食の巡礼が始まる。
DAY1| 福岡から羽田、そして横浜へ
福岡空港から朝の便で羽田空港へ。
到着後すぐに京急線に乗り換え、京急蒲田で本線に。
そのまま横浜方面へと電車を乗り継ぎ、最初の目的地へ向かう。
みなとみらい線に乗り換えて、馬車道へ
横浜駅からみなとみらい線に乗り換え、数駅先の「馬車道」駅で下車。
1a出口を出ると、目に飛び込んできたのは赤と白のポストの上にちょこんと座る、ピカチュウとイーブイ。
ポケモンとゆかりの深い横浜らしい風景。
手紙をくわえたイーブイと、向かい合うピカチュウたちの姿に、街の遊び心が垣間見える。
郵便創業の地でもあるこの場所に設置された「ポケモンポスト」は、期間限定ながらすっかり街のシンボルに。
歴史とモダンが交差するこのエリアで、次なる目的地へと歩を進める。
最初の目的地は、みなとみらいを一望するこの場所
みなとみらい線・馬車道駅から地上に出て、徒歩数分。
最初の目的地は、存在感ある高層ビル「北仲ブリック&ホワイト」の中。
訪れたのは、46階に位置する「オークウッドスイーツ横浜」。
高層階から見渡す横浜の景色——正面にはランドマークタワー、眼下には赤レンガ倉庫へ続く広がりのある街並み。
この眺めだけで、すでに旅の非日常が静かに始まっていた。
ビジネスとレジデンス、文化と生活が交差するこの建物の中に、今日のランチの舞台がある。
ランチは、横浜の空に浮かぶダイニングで
最初の食の目的地は、「オークウッドスイーツ横浜」46階にあるレストラン
SMAAK by Jacob Jan Boerma(スマーク バイ ヤコブ・ヤン・ボエルマ)。
オランダの三つ星シェフ、ヤコブ・ヤン・ボエルマ氏が監修するモダン・ダッチキュイジーヌは、
横浜の絶景とともに、香りや酸味を巧みに重ねた洗練された味わいを体験させてくれます。
この日のランチも、驚きと調和に満ちた構成。
旅の最初の一皿から、五感がぐっと目覚める時間でした。
料理の詳細は、以下の別記事にてじっくりご紹介しています。
▼ SMAAK ランチ体験記はこちらから
食後は、みなとみらいの風に誘われて桜木町へ
ランチのあとは、ゆるやかな坂を下りながら桜木町駅まで散策。
空は高く、海風がやさしく通り抜ける午後のみなとみらい。
コスモクロック21の観覧車や、湾沿いに広がるビル群、遊歩道を行き交う人々の姿も、どこか穏やか。
途中、「YOKOHAMA AIR CABIN」や汽車道を横目に、水辺を眺めながらのんびりと歩く時間。
街全体が、港町らしい開放感と軽やかさをまとっていて、
ランチの余韻が体の奥でじんわりと続いていた。
そして、桜木町駅に到着。
次の目的地へ向かう電車に乗るその前に、もう一度だけ振り返って、横浜の空を見上げた。
新横浜から焼津へ。海と温泉のまちに到着
横浜から次の目的地・焼津へは、新横浜駅まで移動し、そこから東海道新幹線に乗車。
静岡駅でローカル線に乗り換え、海風が心地よい「焼津駅」へと向かう。
駅を出るとすぐ目に入るのは、焼津温泉の足湯。
温かい湯に浸かってひと息つく人々の姿と、のんびりとした空気が印象的だった。
東京や横浜とは異なる、もうひとつの“東海道”。
魚のまち、湯のまち——そんな焼津の表情が、駅前からすでに始まっている。
まずは、ホテルにチェックイン
駅前の足湯でひと息ついたあとは、徒歩数分のホテルへ。
この日泊まるのは、焼津駅近くにあるビジネスホテル「くれたけイン焼津駅前」。
外観はシンプルながら、館内は清潔感があり、アクセスの良さがうれしいポイント。
荷物を預けて、ひとまず部屋で小休止。
移動の疲れをリセットし、次なる“焼津の美味”との出会いに向けて、気持ちを切り替える。
再び駅前へ。バスに乗って、焼津の夜ごはんへ
ホテルでひと息ついたあとは、再び焼津駅前へ。
バス乗り場から出る路線バスに揺られて、今夜のディナーの地へ向かう。
観光地然とした派手さはないけれど、焼津の街には地元の日常に溶け込むような穏やかな時間が流れている。
車窓から見える漁港の風景、商店の看板、低くゆるやかに続く家並み。
“魚のまち”として知られる焼津で味わう、今夜の食体験への期待がじわじわと膨らむ。
住宅街を抜けた先に、凛と佇む茶懐石の名店
バスを降りて小径を進むと、ふと静かな佇まいの一軒が目に入る。
そこがこの日のディナーの舞台、「茶懐石 温石」。
土壁に絡まる緑と、控えめな木札の看板。深緋の暖簾が静かに迎える入口はまるで茶室への誘いのよう。
外観だけで、ここがただの食事ではなく、時間と空気をいただく場であることが感じられた。
料理の詳細や店内の空気感については、以下の別記事でご紹介しています。
▼ 茶懐石 温石でのディナー体験記はこちら
- ADDRESS
静岡県焼津市本町6-14-12
- OPEN
昼/Lunch:12:00〜(コース一斉スタート)
夜/Dinner:18:30〜(コース一斉スタート)
完全予約制/Advance reservations only
定休日:不定休(カレンダー等で要確認)
- AWARD
Tabelog Award 2025 Gold受賞(ゴールド)
Tabelog 日本料理 EAST 百名店 2025 選出店舗
過去受賞歴(食べログ) 2024 Gold/2023 Gold/2022 Silver/2021 Silver/2020 Bronze
ゴ・エ・ミヨ掲載 掲載点数16/20、2022~2025年掲載継続中
ディナーの余韻に包まれて、ホテルへ
店を出ると、夜の焼津はすっかり静まり返っていた。
車窓越しに流れる住宅街の灯りと、ほんのりと漂う潮の香り。
身体に残る料理の余韻を味わいながら、宿へと静かに戻る。
香り、温度、器の手触り。
「温石」でいただいたひと皿ひと皿が、記憶の中でやわらかくほどけていく。
焼津の土地の力と、料理人の真摯な姿勢に触れた夜。
その静かな感動とともに、一日がやさしく幕を閉じた。
DAY2|バスに揺られて、“朝ラーの聖地”へ
2日目の朝、焼津駅前のバスターミナルからローカルバスに乗り込む。
まだ町が静かに動き出す時間帯、目指すのは以前から気になっていた一軒。
焼津といえば、“朝ラーの聖地”としても知られる場所。
そのなかでも、料理人たちがこぞって通うと噂される店がある。
昨夜訪れた「茶懐石 温石」の大将も常連だという、地元で信頼される実力派。
向かったのは、黄色い暖簾が目印の「麺創房LEO(レオ)」。
静かな高揚感を胸に、念願の暖簾をくぐる。
もち小麦の香りが立つ、冷香麺からスタート
まず一杯目に選んだのは、店の人気メニュー「冷香麺」。
しっかりと冷水で締められた太めの麺は、国産のもち小麦を使用しているそうで、
ひと口すすった瞬間、その名前のとおり餅のような香りと弾力が口いっぱいに広がる。
モチモチとした弾力のある食感に加えて、表面はつるりと滑らか。
繊細なタレが麺に心地よく絡み、麺そのものの香りと甘みがしっかりと引き立てられている。
添えられた具材は、低温調理されたチャーシュー、ワンタン、メンマ、青ねぎ、そして香ばしい焼き海苔。
トッピングに合わせて味変できる薬味皿も用意されていて、食べ進めるごとに味の表情が変わるのも楽しい。
正直、かなり好みの一杯だった。
食材の選び方も、仕立ても、ラーメンというよりむしろ一皿の料理として完成されている印象。
巴醤油の深みと自家製麺の調和。隙のない一杯
続けていただいたのは、特製醤油ラーメン。
ベースとなるのは、店自慢の特製・巴醤油。
レンゲにすくった瞬間から、まろやかでコク深い香りがふわりと立ち上る。
スープは醤油の輪郭をはっきりと感じさせつつも、刺々しさは一切なく、旨みの層がじんわりと押し寄せてくるような味わい。
合わせるのは、自家製の中太ストレート麺。
つるりとした口当たりに、しっかりとしたコシ。スープとの相性が抜群で、噛むごとに小麦の風味が広がる。
トッピングにも一切の妥協はない。
低温調理のチャーシューは柔らかくジューシーで、味玉の火入れも完璧。
ワンタン、青菜、白髪ねぎ、糸唐辛子と、それぞれが構成の一部として見事に機能している。
一切の無駄がなく、隙のない構成。
「美味しいラーメン」という言葉の上に、「丁寧さ」と「芯の強さ」が乗ったような一杯だった。
ひと皿の記憶とともに、特製の醤油を手に
食後、ご紹介いただいた方のご縁で、大将と少しお話をさせていただく機会に恵まれた。
そしてなんと、お店特製の「巴醤油」をお土産にいただくという、思いがけない贈り物まで。
店のメニューは、冷やしから温かい清湯、そして限定まで実に多彩。
それにもかかわらず、それぞれのスープに合わせて、店内併設の製麺所で麺を打ち分けているというのだから驚くほかない。
味だけでなく、構成力と完成度の高さにおいても、全国的に見ても間違いなくトップクラスのラーメン店。
焼津に来る理由がまたひとつ、確かにできたと思える朝だった。
そしてもうひとつの“聖地”へ──しかし…
LEOでの至福の朝ラーを終え、胃も心も満たされたまま、もうひとつの目的地へと歩を進める。
向かったのは、焼津を語る上で欠かせない存在、「サスエ前田魚店」。
言わずと知れた名店であり、全国の一流料理人たちが信頼を寄せる魚の仕入れ先。
昨夜訪れた「温石」も、ここの魚なしには語れない。
暖簾をくぐるその瞬間を想像しながら店舗前へ到着——
しかし、掲げられた札には「12時開店」の文字。
時間はまだ午前。
このあたりで時間を潰す場所もなく、次のスケジュールも迫っていたため、
泣く泣く、その場を後にすることに。
マンホールの蓋には、焼津らしく鰹と富士山。
それだけでも、この町が海と魚のまちであることを静かに物語っている。
「次こそは」という思いとともに、焼津をあとにした。
焼津から、次なる目的地・浜松へ
次なる目的地は浜松。
JR焼津駅から東海道線でゆったりと西へと向かう。
電光掲示板には「浜松・豊橋方面」の文字。
列車に揺られながら、風景が少しずつ変わっていくのを眺めていると、まるで“東海道”という物語の続きを旅しているような気分になる。
そして到着した浜松駅。
駅前には平日の昼らしい活気が漂い、人々が思い思いに行き交う。
ここからは、また新しい街の空気と食に出会う時間のはじまり。
ホテルにチェックインして、夕食までのひととき
荷物を置き、少し一息ついたら、まだ日が高いうちに軽く散策へ。
向かったのは、浜松の中心部にある「浜松城公園」。
かつて徳川家康が築いた城としても知られる浜松城は、“出世城”としても有名。天守閣の脇には若き日の家康像が立ち、桜が残る石垣越しに町を見下ろしていた。
この日は花の見頃も終盤。
風に揺れる葉桜と、ところどころに残る可憐な花びらが、静かな春の余韻を感じさせてくれる。
観光客もまばらで、落ち着いた空気の中、しばしゆるやかな時間を過ごすことができた。
夕暮れが近づき、そろそろ今夜のディナーの時間へ。
日常の喧騒を離れたこうした観光もまた、旅の醍醐味のひとつ。
出世城・浜松城を歩き、緑の中のスタバでひと休み
浜松城の石垣をあとにし、周辺の公園をゆるやかに歩いて向かったのは、「スターバックス 浜松城公園店」。
まるで森の中に溶け込むように佇むガラス張りの建物。
周囲の木々が映り込むこのロケーションは、観光地にあるカフェというより、どこか美術館のような静けさすら感じさせる。
園内のベンチに腰を下ろしてもよし、窓際の席から緑を眺めるのもまた良し。
カフェラテ片手に、少し汗ばんだ体と心をゆるめて、ディナーまでの時間を整えていきます。
ディナーは浜松・元城町にある日本料理の名店「勢麟(せいりん)」へ
旅の締めくくりは、浜松駅からほど近い元城町に佇む完全予約制の割烹、「勢麟(せいりん)」へ。
静かに灯る提灯と、鯛の描かれた暖簾が出迎えてくれる端正な店構え。
※お料理の詳細は別の記事にまとめていますので、そちらをご覧ください。
店主の巧みな手仕事で、浜松ならではの旬の食材をじっくり堪能。
そしてこの夜は、ちょっとした出会いにも恵まれた、心に残る時間となりました。
旅はまだ続く。
明日に備えて、静かな気持ちで宿へと戻る。
DAY3|浜松名物といえば——名店「あつみ」で鰻を堪能
旅の締めくくりに選んだのは、浜松を代表する鰻の名店「あつみ」。
昭和9年創業、90年近くにわたり地元でも愛され続ける老舗で、
あらかじめ予約をして伺いました。
店内に入ると、炭火で鰻を丁寧に焼き上げる香ばしい香りが広がっていて、自然と期待が高まります。
注文したのは、肝焼きと鰻重(上)を、肝吸い付きに変更したセット。
使用されているお米は秋田県産あきたこまちで、甘辛のタレと相性抜群。
鰻の焼き方は、関東風の蒸し焼きをベースに、皮目をパリッと仕上げる独自のスタイル。
ふっくらと柔らかく蒸された身に、香ばしい皮のコントラストが絶妙で、
一口ごとに浜名湖産うなぎの旨みが口いっぱいに広がります。
香ばしくてほろ苦い肝焼きは酒の肴にもぴったりで、
肝吸いの中にはしっかりと肝が入り、滋味深さを感じさせてくれました。
そしてもう一つ印象に残ったのは、落ち着いた接客と、丁寧なおもてなし。
食事のクオリティはもちろんのこと、静かな時間が流れる空間の居心地の良さにも癒されました。
浜松の名物を、地元の老舗で味わえたことがこの旅の大きな喜びのひとつとなりました。
もうひとつの浜松名物を求めて
浜松に来たからには、やっぱり“餃子”も外せない。
うなぎの名店を後にして向かったのは、浜松餃子の超人気店「むつぎく」。
お昼前に着いたものの、すでに店頭には長蛇の列。
地元の方も観光客も、みんなこの味を目指して集まってくる様子に期待が高まります。
このあとも予定があったものの、並んででも食べておきたいと思わせてくれるお店。
注文したのは餃子12個とライスのセット。
円形に美しく並べられた焼き餃子の中央には、浜松スタイルの象徴でもある茹でもやし。
香ばしくパリッと焼き上げられた皮の食感、
餡にはキャベツなど野菜がたっぷりで、軽やかな甘みと旨みが広がります。
見た目以上にあっさりとした後味で、うなぎの後でもぺろりと完食。
個人的にもかなり好きなタイプの餃子でした。
観光としての満足度も、味としての完成度も高い、まさに「浜松に来たら一度は寄ってほしい」名店です。
ローカル線でちょっと遠出
浜松名物を満喫したあとは、新浜松駅から遠州鉄道に乗り込み、さらに天竜浜名湖鉄道へ。
向かったのは、レトロな木造駅舎が人気の天竜二俣駅。
1935年開業のこの駅は、全国的にも珍しい扇形機関庫(登録有形文化財)を備えた鉄道遺産。
ホームや駅舎も当時のままの姿を残しており、電車を待つ時間さえもどこか懐かしく心地いい。
のどかな単線の線路、ホームに流れるゆるやかな時間、
駅に併設された展示スペースやカフェスペースなど、鉄道ファンはもちろん、そうでなくても楽しめる雰囲気があります。
移動も含めて「旅の体験」として心に残る、そんな小さな遠出になりました。
浜名湖をぐるり、ゆる鉄道旅
天竜二俣駅からは、ローカル列車に揺られて浜名湖沿いをぐるりと一周。この日乗ったのは、なんと「ゆるキャン△」のラッピング列車。カラフルなデザインが旅の気分をさらに盛り上げてくれます。
途中、すれ違ったのはエヴァンゲリオン仕様のラッピング車両。鉄道ファンならずとも思わずカメラを向けたくなるコラボ列車にテンションが上がります。
車窓には、穏やかな浜名湖の景色。波間を舞うカモメの姿や、湖岸を走る道も絵になる風景で、
ゆったりと進むローカル線の旅が、この上なく心地よいものに。
浜名湖の魅力を列車でゆっくり味わえるこの区間は、まさに「移動が目的になる」ような時間でした。
なお、電車の運行本数には限りがあるため、スケジュールにはゆとりを持って訪れるのがおすすめです。
思わぬハプニングも旅の一コマ
終着駅に到着し、次の電車へとスムーズに乗り換え…と思ったその瞬間、
改札を通ったところで、先ほどの列車の網棚にキャリーバッグを置きっぱなしにしていたことに気づく。
一気に血の気が引いて、慌ててホームへ引き返し。
すでに列車は発車の準備に入っていたものの、なんとかギリギリでバッグを回収できて一安心。
冷や汗ものの出来事ではありましたが、こういうハプニングもまた、旅の思い出に。
皆さんも乗り換えの際は、荷物の置き忘れにご注意を…。
名鉄線で名古屋へ
浜名湖鉄道の終着駅・新所原駅からは、名鉄線に乗り換えて名古屋へ。
無事キャリーバッグも手元に戻り、ほっとひと息。
揺れる車窓を眺めながら、浜松での出会いや食の余韻をかみしめつつ、次の目的地を目指します。
いよいよこの旅も後半戦へ。
名古屋ではどんな出会いが待っているのか、期待が膨らみます。
名古屋に到着、ホテルへチェックイン
名鉄線に揺られ、名古屋駅に到着。
本日のお宿は「三井ガーデンホテル名古屋プレミア」。
駅から徒歩圏内という好立地ながら、
モダンで落ち着いたエントランスは、旅の疲れをすっと癒してくれる静けさ。
キャリーバッグ事件の余韻を引きずりつつも(笑)、
ひとまず無事にチェックイン。
ここから名古屋の夜がはじまります。
ディナーは名古屋・久屋大通のモダンイタリアン「Lito」へ
ホテルでひと息ついたあとは、タクシーで夜の名古屋・久屋大通へ。 この日のディナーに選んだのは、静かなビルの2階にひっそりと構える完全予約制のモダンイタリアン「Lito」。
店主はイタリアでの修行を経て、東京や軽井沢「Restaurant Naz」の立ち上げにも関わった経験を持つ料理人。 “料理人でありソムリエ”としての理想を体現すべく、自身の名を冠した「Lito」をオープン。 発酵や香りの技法を取り入れたモダンなイタリア料理を、丁寧な構成で提供しています。
季節の野菜や鮮魚、地元の食材を使いながら、調味料や火入れにいたるまで繊細なコントロール。 ひと皿ごとに香りと温度、テクスチャーの変化が仕込まれ、味わうごとに記憶に残るような構成になっていました。
料理に合わせたナチュラルワインやノンアルコールペアリングも見事で、 ドリンク単体というより、料理の一部として完成されたペアリング体験だったのが印象的です。
空間は静かで柔らかな灯りに包まれ、席数を絞った店内は、料理に集中できる穏やかな空気感。 サービスも心地よく、名古屋での一夜をじっくり味わうのにふさわしい一軒でした。
名古屋の夜景とともに、ゆったりと一日を振り返る
美味しいイタリアンで満たされた身体と心を連れて、帰りは電車でホテルへ。
名古屋の夜は思ったよりも静かで、どこか落ち着いた空気が流れています。
部屋に戻ると、窓の向こうにはライトアップされた名古屋城が。
遠くには白く輝く名古屋テレビ塔も浮かび、今日一日の出来事がじんわりと身体に染みていくような、そんな夜でした。
鰻と餃子に始まり、浜名湖の車窓からの眺め、そして名古屋の街並みとLitoのディナー。
一瞬一瞬が、ちゃんと記憶に残る一日でした。
DAY4| 名古屋の街を見下ろす朝、旅は最終日へ
名古屋のホテルの窓から見える朝の街並み。
ビルの谷間から顔を出す名古屋城が、ひっそりとした存在感を放っている。
最終日とはいえ、ゆっくりしてはいられない。
昼には京都へ到着予定なので、さっと荷造りを済ませて身支度を整える。
まだまだ旅の余白を味わい尽くしたい気持ちとともに、一日のスタート。
名駅で朝の買い出し「天むす千寿」
名古屋駅の地下街、エスカにある「天むす千寿」へ。
創業は昭和の中頃、いわゆる“名古屋めし”として地元民にも観光客にも愛される老舗。
小ぶりの海老天むすは一口サイズながら、ぷりっとした海老の存在感とほんのり甘めのタレが絶妙で、ご飯とのバランスも完璧。
移動中に軽く食べられるのも魅力で、旅の途中にちょうどいい頼もしさ。
名古屋らしい名物をお土産がわりに手に入れ、次なる目的地へ向かう準備も万端です。
名駅ホームで朝の〆、JR「住よし」のきしめん
新幹線に乗る前に、やっぱりここに寄ってしまう。
名古屋駅JRホームにある立ち食いきしめん「住よし」。
全国的にも“駅ホームグルメ”として知られる有名店。
この日は天ぷら入りの一杯を注文。
ふわっと香るかつお節、甘めのだし、そしてツルリと滑らかな幅広のきしめん。
これでワンコイン、というのも嬉しいポイント。
駅のざわめきと発車ベルをBGMにいただくその味わいは、旅情をより一層深くしてくれる
名古屋滞在のラストバイト。
食べ終える頃には、しっかり満たされた気分で新幹線ホームへと足が向かっていました。
京都・北区紫竹で至福の中華料理体験
京都の中心地から少し離れた北区・紫竹。観光の喧騒から解き放たれたこの住宅街に、まるで隠れ家のように佇む中華料理店「仁修樓(にんしゅうろう)」があります。
カウンター8席のみの完全予約制。扉を開けた瞬間から、特別な時間が始まります。
▶ 仁修樓でのランチ体験の詳細は、別のブログ記事にてご紹介しています。
まさに、かつての旅の記憶を彩る素晴らしいエピソードにふさわしいランチ体験でした。京都での昼食に選ぶならば、妥協なく味わえる最高峰の中華として「仁修樓」は間違いなくおすすめです。
個展へ —— ランチのあとに向かったもうひとつの目的地
仁修樓での食事を共にした陶芸家・今村能章さんの個展へ。
お店を出たあと、タクシーに乗り込みギャラリーへと向かう。
車窓からは、春の陽射しに照らされた京都の町並みが流れていく。
鴨川沿いを走りながら見えたのは、河川敷でゆったりと過ごす人々や、川沿いの桜並木。
観光客の賑わいとは少し離れた、京都の穏やかな日常が広がっていた。
会場に到着すると、すでに多くの来場者が。
展示された作品たちは、どれも強い存在感を放ち、ひとつひとつに独自の表情がある。
器としての用途を持ちつつも、オブジェとして成立する造形や質感。
中には大胆なフォルムや鮮やかな釉薬が印象的な作品もあり、空間全体が放つエネルギーにただ圧倒された。
静けさと熱気が同居するような空間で、作品と対話するようにゆっくりと時間を過ごす。
食後の余韻に浸りながら、またひとつ特別な記憶が刻まれた。
旅の終わりに ——「美食の通い路」を振り返って
静岡、愛知、そして京都へ。
羽田空港から横浜を経て、焼津、浜松、名古屋、そして最後は京都・紫竹まで。
「東海道」と聞いて思い浮かぶのは、五十三次の浮世絵や旧街道の石畳。
けれど今回の道のりは、それぞれの土地で受け継がれる食文化と、地元に根差した料理人たちの技と情熱を味わい尽くす、美食の通い路でした。
印象に残ったのは、どの街にも“地のものを深く理解し、丁寧に扱う料理人”がいたこと。
名産や旬をただ並べるのではなく、その素材が生きる構成と火入れ、味の重ね方で、土地ならではの一皿に仕上げてくれる。
どこかの有名な何かではなく、「この場所でこの人がつくる料理」にこそ、旅の価値があると実感した日々でした。
移動を重ね、景色が変わり、会話を交わし、食卓を囲み、ふとした瞬間に触れる何気ない風景や出会い。
それらすべてが、点ではなく線として繋がっていく——そんな実感のある旅でした。
地図上ではただの移動でも、その間にこそ、旅の記憶が刻まれていく。
美味しさと出会いに満ちた、忘れられない通い路でした。