BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

天ぷら 浅沼 について

コンセプト

日本橋のビル6階にひっそりと佇む「天ぷら浅沼」。ここで味わえるのは、これまでの常識を軽やかに越えていく“衣を楽しむ天ぷら”です。

多くの天ぷら店が素材の良さを引き出すために衣を極限まで薄く仕立て、塩でいただくスタイルを採るなか、浅沼さんはあえて衣そのものを主役に据えるというアプローチを選択。素材ごとに衣の配合を調整し、サクサクとした香ばしさと軽やかさの中に、独自の味わいを宿らせています。

油は100%ごま油(大香+太白)を使用。香ばしさと繊細さを両立させるバランスに、衣の空気の含ませ方、ツノが立つような打ち方など、細部へのこだわりが際立ちます。

さらに特筆すべきは、水分コントロールの妙。野菜や魚介の持つ水分量を見極め、下処理によって食材の旨みや香りを最大限に引き出します。
昼夜ともにおまかせコースで構成される一連の流れは、天ぷらの“奥行き”を感じさせる静かな物語のよう。まさに、衣と素材の対話を楽しむ、新しい天ぷら体験がここにあります。

大将・浅沼努武氏:素材と真摯に向き合う、若き天ぷら職人

「天ぷら浅沼」の大将・浅沼努武(あさぬま・つとむ)氏は、1994年生まれ。山形県出身の若き職人です。

18歳で上京し、老舗「銀座 天一」に入社。帝国ホテル店や日本橋高島屋店などで修業を積み、天ぷらの基礎を徹底的に学びました。
実は元々、天ぷらがあまり好きではなかったという浅沼さん。そんな彼が「銀座 天一」で食べた天ぷらに心を動かされ、職人としての道を決意したというエピソードは印象的です。

修業時代には、調理技術だけでなく、お客さまとの間合いや所作、会話の流れなど、まるで落語のように“間”を大切にする接客姿勢も身につけていきます。

2022年9月、自らの名を冠した店「天ぷら浅沼」を日本橋にオープン。オープン直後から注目を集め、今では予約困難な人気店に。2024年にはミシュラン東京にも選出され、ますますその存在感を強めています。

現在は女性スタッフとの二人体制で、テンポよく展開される揚げと提供の流れ、カウンター越しの臨場感あるやり取りにも、浅沼さんらしさがにじみ出ています。
若き職人が手がける、新時代の天ぷら。その真摯な姿勢と技の冴えが、心を掴んで離しません。

レストランの評価

2022年9月にオープンした「天ぷら浅沼」は、開店からわずか数年で天ぷら界の中でも確かな地位を築き上げた、まさに新星と呼ぶにふさわしい存在です。

その実力は、数々の受賞歴と専門家からの評価にも如実に表れています。
まず2025年には、「The Tabelog Award 2025」シルバー賞を受賞。全国約87万店舗の中からわずか151店しか選ばれない狭き門であり、天ぷら専門店としては異例のスピード受賞です。さらに同年、「天ぷら百名店 2025」にも選出され、名実ともに業界内外から一目置かれる存在となりました。

また、「ミシュランガイド東京」でも継続的に評価されており、職人・浅沼氏の技術と感性、そして構成力あるコース展開が評価の軸となっています。若き職人が築き上げた「天ぷら浅沼」は、いまや“新しい天ぷら体験”を求める人々にとって、間違いなく訪れるべき一軒となっています。

 

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

東京・日本橋のオフィス街、その一角にひっそりと佇む「オーディン日本橋ビル」。
1階の落ち着いたガラス扉を抜け、エレベーターで6階へと上がると、木の温もりに包まれた小さな看板が出迎えてくれます。

店内に入ると、杉材を基調とした優しい色合いの空間が広がり、白い暖簾の奥からは静かな緊張感と心地よい空気が漂います。まるで都会の喧騒から一歩だけ離れた場所に足を踏み入れたような、そんな特別な感覚を味わえる導入です。

ビルの外には、階数ごとに並んだテナントの案内板が控えめに存在し、「天ぷら浅沼」の名もその中のひとつとして掲げられています。
見逃してしまいそうなほど控えめでありながら、一度足を運べばその場所の“特別感”はしっかりと記憶に残るはず。

「ここにあるべくしてある」そんな納得感をもたらす、静かな隠れ家です。

ダイニングスペース

扉をくぐると現れるのは、L字型に伸びた美しいカウンター。
素材には山形県産の木材がふんだんに用いられ、整えすぎない自然な木目と温かな色味が、空間全体にやさしい空気をまとわせています。

椅子はすっきりとした白の張り地で統一され、足元には柔らかな照明が灯る。
天井の格子や格子窓からは自然光がやわらかく差し込み、昼と夜とで表情を変える空間演出も印象的です。

全8席ほどのカウンター越しには、ステンレスの揚げ台と調理道具が整然と並び、過不足のない設計。
料理が揚がる音、香ばしい香り、湯気や煙——すべてがダイレクトに伝わるこの距離感こそが、「天ぷら浅沼」ならではのライブ感です。

さらに、配膳には角盆に器が整えられ、凛とした佇まいと余白の美学を感じさせます。
一皿ずつをじっくり味わう時間と空間が、心を自然と調えてくれるような、そんな静けさに満ちたダイニングです。

メニュープレゼンテーション

「天ぷら浅沼」のカウンターに座ると、まず目に入るのは丁寧に並べられた食材たち。
籠に盛られた旬の野菜たち——とうもろこし、赤ナス、ズッキーニ、谷中生姜、そして皿に盛られたホタルイカやホタテといった海の幸。それらが静かに、けれど確かに「これから始まる一皿」に向けて語りかけてくるような存在感を放っています。

その日の食材が目の前に置かれることで、季節感がダイレクトに伝わり、食べ手の気持ちは自然と高まります。
揚げる直前に軽く仕立てられた食材が、その場で衣をまとい、香ばしい香りとともに供される——五感で楽しむライブ感は、まさに「天ぷら浅沼」ならではの醍醐味です。

決して過剰な演出ではなく、素材の静かな力を“そのまま”見せることで始まるプレゼンテーション。
ここには、食材と向き合い、丁寧に揚げるという行為そのものを魅せる、浅沼さんの美学が宿っています。

実際に味わった料理

スタートは定番のハトシから

コースの始まりを告げるのは、店の顔とも言える「ハトシ」。
揚げたパンの間に海老のすり身を挟み込んだ一品で、外はカリッと香ばしく、中はふわりとした弾力。シンプルながらも、浅沼氏の技とセンスが滲む定番です。

車海老2本、異なる味わいの二段構え

続いて供されるのは、鮮度際立つ車海老を2本。
まず1本目はお塩で。ぷりっとした身の甘みが際立ち、衣の香ばしさとともに口の中に広がります。
2本目は天つゆと大根おろしでさっぱりと。異なる味わい方で、素材の表情を引き出します。

赤ナス

赤ナスはふたつに割られ、立ち上る湯気とともに供されます。
中心はとろりと熱を帯び、噛むたびにたっぷりの水分が広がる。香ばしさとみずみずしさが同居する、野菜の力をまざまざと感じさせるひと皿です。

キス

続いてはキス。衣の中から現れる白身はふっくらと柔らかく、ジュワッと溶けるように広がる上品な旨み。
天つゆと大根おろしを添えることで、脂の甘みがほどよく引き締まり、軽やかな余韻を残します。

椎茸

椎茸は揚がったあとに醤油をさっとひと垂らしして提供。
肉厚な傘にじんわりと染み込んだ香ばしさが際立ち、何もつけずにそのままで十分な満足感。素材の力強さと控えめな調味が見事に調和したひと皿です。

季節の食材からは蛤が登場。火入れは絶妙で、ふっくらとした身を噛むほどに、奥深い旨味が滲み出します。
仕上げに醤油と黒七味をひとふり。貝の甘みにスパイスの香りが重なり、浅沼さんならではの感性が光る一皿です。

髭つきヤングコーン

髭付きのまま供されるヤングコーン。
髭を内側に閉じ込めたまま揚げることで、噛んだ瞬間にふわりと甘みが立ち上り、ほのかな香ばしさが後を引きます。見た目の素朴さを裏切る、奥行きある味わいが印象的です。

ズッキーニ

揚げたて熱々のズッキーニは、口に運ぶのもためらうほどの温度感。
薄衣の内側にはみずみずしさが閉じ込められ、噛むとじゅわっと広がる。うまみ塩のひとつまみが甘みを引き立て、シンプルながら素材の力を感じるひと皿です。

ホタルイカ

季節の味わいとして登場したのは、ふっくらと揚げられたホタルイカ。
噛めば濃厚なワタの旨みがとろりと広がり、そこに醤油の香ばしさと黒七味のアクセントが重なります。春を感じる一品に、浅沼さんならではの余白が添えられています。

ホタテ

海苔で巻かれたホタテは、磯辺揚げのような趣で。
中心はほんのりレアに火が入り、貝柱の甘みと海苔の香りがふわりと重なります。カウンター越しに手渡しされることで、揚げたての温度と香りをそのまま味わえる一品です。

百合根

4ヶ月寝かせて甘みを引き出した百合根は、コースの中でもひと際印象的な存在。
水分はぎりぎりまで落とされ、噛むとほろりと崩れながら、凝縮された自然な甘みが広がります。素材の力と手間が凝縮された、まさにハイライトのひと皿です。

穴子

締めくくりは穴子。揚がったばかりの一本を、目の前で真ん中からカット。
包丁が入る音、立ち上る煙、広がる香ばしい香り——五感を刺激する演出に、自然と背筋が伸びます。ふわりとほどける身と香ばしい衣が一体となった、余韻を残すラストです。

〆のご飯

食事の締めには、天丼、卵天丼、そして明太子の海苔巻きから好みで選ぶスタイル。
王道の天丼は香ばしい天ぷらと甘めのタレが絶妙に絡み、卵天丼はとろりとした黄身がご飯に溶け込むやさしい味わい。


明太子の海苔巻きはぴりっとした辛みと香りが立ち、最後まで満足感のある一皿に。

まとめと感想

「天ぷら浅沼」でのひとときは、まさに“天ぷら”という料理の概念を更新する体験でした。

伝統的な江戸前の型にとらわれず、衣そのものを一つの味わいとして構成するコース。
そこには若き職人・浅沼努武さんが、ひとつひとつの食材と丁寧に向き合い、試行錯誤を重ねてたどり着いた唯一無二のスタイルが息づいています。

印象的だったのは、調味のアプローチ。
ただ塩で食べさせるのではなく、素材ごとに最適な“味の重ね方”が選ばれています。
蛤やホタルイカには香ばしい醤油と黒七味、椎茸には揚げたあとにさっと醤油をかける。ホタテには海苔の香りを添え、百合根には一切の調味を排した素材勝負。
どれも決して奇をてらうことなく、それでいてはっとさせられるような味の引き出し方。浅沼さんならではの感覚が滲んでいました。

また、料理そのものだけでなく、提供のタイミングや演出、器の余白、美しいカウンターや静謐な空間もすべてが一貫した「浅沼さんの世界」として整えられています。

コース終盤、揚げたての穴子を目の前でカットする瞬間。音と香り、立ち上る煙に包まれながら感じたのは、“技術”だけではない、“覚悟”のようなもの。

派手さはなくとも、一皿一皿に宿る誠実な仕事と美意識。
そして、「調味」という要素すら再構築する柔軟な発想。
それこそが、「また季節が変わった頃に、もう一度訪れたい」と思わせる理由だと感じました。

日本橋という街にしっくりと馴染みながらも、明らかに異彩を放つ存在。
「天ぷら浅沼」は、ただ美味しいだけでなく、“心に残る天ぷら”を求めるすべての人に薦めたくなる、そんな一軒です。

予約とアクセス情報

 予約方法(※要注意)

現在、「天ぷら浅沼」では電話・オンラインともに予約受付を停止中
予約再開の時期は公表されておらず、再開のタイミングを見守る必要があります。
最新情報は店舗公式InstagramまたはWebサイトにて随時ご確認を。

 アクセス
  • 住所:東京都中央区日本橋2-10-11 ordin日本橋ビル6階

  • 最寄駅
     ・東京メトロ銀座線・東西線/都営浅草線「日本橋駅」C4・C6出口より徒歩1〜2分
     ・茅場町駅・三越前駅からも徒歩圏内

  • エレベーターで6階へ上がると、白い暖簾と木の看板が静かに出迎えてくれます。

 営業時間・定休日
  • ランチ:12:00〜15:00頃

  • ディナー:18:00〜21:00頃(または終了まで)

  • 定休日:水曜
    ※その他、不定休あり。最新スケジュールはInstagramでの確認がおすすめです。

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「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
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