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Gresca(グレスカ) について
コンセプト
バルセロナのエンサンチェ地区に位置する「Gresca(グレスカ)」は、スペインの伝統料理にモダンなツイストを加えた“小皿スタイル”のガストロバル。
2006年のオープン以来、カジュアルながら洗練された空気感と独自のセンスで地元グルマンから熱い支持を集めてきた。
かつては10席ほどのミニマムなビストロだったが、現在は壁を抜いてワインバーと統合。より自由で、より柔軟に楽しめる空間へと進化している。
メニューはアラカルトが中心で、クラシックなフランス料理の技法をベースに、スペインの郷土色や旬の食材を軽やかに取り入れている。
例えば、コンソメのように澄んだスープに繊細な旨味を凝縮した皿や、素材のコントラストを生かした大胆なプレゼンテーションなど、飾り立てすぎない“知的な遊び心”が随所に感じられる。
決して気取らず、けれど味の記憶には深く残る。
そんな“バルセロナの日常の中の非日常”を体現する一軒。
Rafa Peña(ラファ・ペーニャ)シェフ
カタルーニャ出身のシェフ、ラファ・ペーニャは、スペイン国内外での修業を経て2006年に「Gresca」をオープン。
若い頃にパリの名店でも研鑽を積み、フレンチの基礎とカタルーニャの風土を融合させた独自のスタイルを築き上げた。
彼の料理には、技巧を誇示する派手さはない。むしろ一見シンプルに見える皿にこそ、技術と感性のバランスが凝縮されている。
素材を読み解く鋭さと、それをどう見せるかという構成力、そしてワインとの相性をも常に意識した設計。
また、料理人としてだけでなくワインへの造詣も深く、自身でナチュラルワインのセレクションにも関わっている。
“食べ手の記憶に残る料理”をテーマに、日々のインスピレーションを大切にしながら、常に変化を恐れずアップデートを続けているシェフ。
レストランの受賞歴や評価など
Grescaは、ミシュラン星を獲得しているわけではないものの、スペイン国内外の美食ガイドやグルメ誌で高い評価を受けており、「バルセロナで最も信頼されるレストランのひとつ」としてたびたび紹介されています。
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ミシュランガイド・スペイン&ポルトガル版
星の獲得はしていないものの、長年にわたり「おすすめレストラン」に選出。 -
The World’s 50 Best Discovery(50 Best Discovery)
世界的なレストランランキング「The World’s 50 Best Restaurants」の姉妹プロジェクトにて掲載。
ローカルの優良レストランとして国際的にも注目されていることの証明。 -
Repsol Guide(レプソルガイド)
スペインの権威あるレストラン評価ガイドにて、長年“Recomendado(推奨)”としてリストアップ。 -
Time Out Barcelona や Condé Nast Travelerなどの媒体でもたびたび「バルセロナで訪れるべきレストラン」に選出。
Grescaは、星付きレストランとは異なる立ち位置で、バルセロナのガストロノミーシーンに深く根差した存在です。
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ローカルの食通やシェフたちがプライベートで通う店として知られ、「観光客向けでない、本当に美味しい店」として評価されている。
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“ワインと料理のペアリングにおける先駆者”として、ナチュラルワインの導入やワインバーの併設など、スペインのレストラン文化に影響を与えてきた存在でもあります。
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また、ラファ・ペーニャシェフの料理は、素材の表現力と構成の巧みさにおいて業界関係者からの支持が特に高く、
「味わうたびに新しい角度が見える料理」とも評されています。
ダイニングプレリュード
外観・エントランス
バルセロナ・エンサンチェ地区の一角に、まるで日常に溶け込むように佇む「Gresca」。
通りに面した控えめなグリーンのファサードに、白いネオンサインで記された「GRESCA BAR」の文字。
ガラス越しにはバーカウンターと壁一面のワインボトルが並び、店内の熱気が外まで漏れ出すような活気が漂っています。
石壁をそのまま活かした無骨な内装が、外からでも見える開放感。
背筋を伸ばしすぎない、けれど感度の高い大人たちが集う空間であることが、ひと目で伝わってきます。
メインエントランスの扉を開けると、すぐにカウンターとオープンキッチン、奥にはテーブル席が広がり、レストランとワインバーがひと続きに。
以前のビストロ空間と隣接する形で設計されており、ひとつの世界観の中に異なるリズムが共存しています。
“街と店内が地続き”になるようなこの開かれた入口が、グレスカの“日常の中の特別”という哲学を象徴しています。
ダイニングスペース
扉を開けた瞬間に広がるのは、バルセロナの温かな喧騒がそのまま溶け込んだようなライブ感あふれる空間。
テーブル席とカウンターが横並びに続く細長い造りで、壁面のナチュラルな素材感と控えめな照明が、モダンでありながら落ち着いた雰囲気を演出しています。
ガラス越しにも外から賑わいが伝わる店内は、まさに街と地続きの空間。
赤いベンチシートとグリーンのテーブルがクラシカルな色合いを醸し出しつつも、無駄のないセッティングが“食”の主役性を際立たせています。
オープンキッチンの前には数席のカウンターがあり、シェフやスタッフの動きがダイレクトに感じられる特等席。
大型のレンジフードの下、音と蒸気、火と香りが交錯するキッチンでは、スタッフが黙々と仕事に打ち込み、料理の構築過程がそのまま演出として成立しています。
空間全体が“バルとレストランのあいだ”を行き来するような感覚。
それぞれの席で違った時間の流れが生まれ、思い思いの食事が静かに進んでいきます。
メニュープレゼンテーション
グレスカのメニューは、カタルーニャ語・スペイン語・英語の3言語で記載されており、地元客から世界中の美食家までを迎える開かれたスタイル。
構成はプリフィックスやコースではなく完全アラカルト。季節の食材や食欲に応じて、自由に組み立てられるのが魅力です。
スタータードリンク
この日の一杯目に選んだのは、カタルーニャの造り手「COSMIC Vinyaters(コズミック・ヴィニャテール)」によるナチュラルワイン「Via Fora」。
実際に味わった料理
パン・コン・トマテ
グレスカでの食事は、やはりこの一皿から始めたい。
トマトの果肉をすり込んだカリッと香ばしいパンに、たっぷりのオリーブオイルとほんのひとつまみの塩。
一見シンプルながら、パンの焼き加減と酸のバランス、オイルの質感に至るまで、計算され尽くしている。
香り立ちが豊かで、手をつけた瞬間に会話が止まり、口が静かに忙しくなる。
“パンにトマトを塗っただけ”という言葉の裏に、カタルーニャの土地と料理人のセンスが確かに宿る。
軽やかで、どこまでも誠実なスターター。
バカラオのギルダ
「ギルダ」とは、バスク地方発祥のピンチョススタイルの一種で、オリーブ・唐辛子・アンチョビなどを串に刺したものが基本形。
その名を冠しながら、グレスカでは塩鱈(バカラオ)を主役に据えたアレンジ版として登場。
白身のしっとりした塩鱈を丁寧に火入れし、細かく刻まれたピーマンや玉ねぎ、軽やかな酸味をともなう香味野菜のソースとともに串に。
エクストラバージンオイルが香りとつやを与え、トマトの赤がリズムを添える。
カジュアルなピンチョスの形式でありながら、料理としての完成度の高さと余韻にグレスカの真骨頂が垣間見えるひと皿でした。
ビーツとピスタチオ、リコッタのサラダ
見た瞬間に心をつかまれる、鮮やかなコントラスト。
赤・黄の2種のビーツはそれぞれ食感と火入れが異なり、単なる彩り以上の役割を果たしている。
そこに寄り添うのは、優しい酸味をまとったリコッタと、香ばしいピスタチオの粒。
なめらか・カリッ・しっとりといった質感のバリエーションが一皿の中に共存し、
仕上げにまわしかけられたオイルとビネガーが全体を軽やかにまとめあげる。
甘味・酸味・ナッツのコク、それらをつなぐ塩の粒感。
サラダでありながら“味の構築”を楽しめる、グレスカらしい余韻を残す一品でした。
ピルピル風の塩鱈とトリッパ(牛の胃)
ひと目見てまず驚かされるのは、身厚でゼラチン質をたっぷり湛えたバカラオ。皮目はしっかりと火が入り、身はふっくらと蒸されたように柔らかく、口の中でほろりとほどけます。
ソースはピルピル特有の乳化したオリーブオイル。にんにくと唐辛子の風味が溶け込み、そこに微かに感じるのは内臓の旨み。そう、細かく刻まれたトリッパ(牛の胃)がソースに忍ばされているのです。見た目にはその存在を主張しないながら、全体の味わいを奥行きのあるものへと導いています。
赤ピーマンのような柔らかな酸味と、チャイブの香味がアクセントに。皿全体が一体となって、まるでバスク料理を思わせる郷愁と、バルセロナらしい自由さを共存させたような印象を残します。
焼き茄子とパルメザンクリーム
この一皿のために、バルセロナのGrescaを訪れた。
「Albergínia lacada amb crema de parmesà」——焼き茄子とパルメザンクリーム。
丸ごと炭火で火を入れた茄子は、艶やかにラッカーソースをまとい、香ばしくとろけるような果肉。
添えられたのは、ふわりとしたパルメザンの泡。
深みと軽やかさの対比が美しく、静かに、強く、記憶に残る味。
肉や魚ではなく、野菜の一皿で感動を覚える体験。
この店を象徴する、確かなるスペシャリテだった。
うずらの炭火焼
皮を香ばしく焼き上げたうずらのグリル「Guatlla a la brasa」。
シンプルながらも丁寧な火入れで、外はパリッと、内側はほどよくしっとり。
噛むごとに、じんわりと旨みが広がる。
ごく軽くまとわせたオリーブオイルがその余韻をやさしく引き立てていた。
派手さはないけれど、素材と向き合う姿勢が伝わってくるような一皿。
炭の香りが、静かに記憶に残る。
デザート&フィナーレ
スペイン風フレンチトースト(トリハ)
最後に選んだのは、スペイン伝統のデザート「Torrija(トリッハ)」。
卵液をたっぷりと含ませて焼き上げたパンは、外は香ばしく、中はとろけるような食感。
添えられた濃厚なチョコレートアイスが、シンプルな甘さにほんの少しのほろ苦さを重ねてくれる。
コースの締めくくりにふさわしい、静かな満足感をもたらしてくれるひと皿でした。
まとめと感想
バルセロナを訪れたら、いつかここで──
そんな思いを抱き続けていた「Gresca」に、ようやく足を運ぶことができました。
なかでも、どうしても味わってみたかったスペシャリテ──
焼き茄子とパルメザンクリームの一皿。
ずっと思い焦がれていたメニューにようやく出会えたことが、何より嬉しかった。
静かな火入れと香りのバランス、余白のある盛りつけ。
シンプルな構成のなかに、この店の感性が確かに宿っていました。
ピルピルのバカラオや炭火焼きのうずらも、華美にならず、でも心に残る。
料理の流れもサービスも、終始穏やかで気持ちの良い時間が流れていたと思います。
この日はシェフは不在でしたが、次はぜひ、カウンターでその手仕事を見てみたい。
長く願ってきた一皿と出会えたこと、そしてまた新しい楽しみができたこと。
そんな余韻の残る夜でした。
予約とアクセス情報
■ 営業時間
ランチ:営業なし(2025年現在はディナー営業のみ)
ディナー:
月曜〜金曜 19:30〜22:30(L.O.)
※土曜・日曜は定休(祝日は不定休の場合あり)
■ 予約方法
公式サイトまたは外部予約サイト(The Fork(旧ElTenedor)など)からのオンライン予約推奨。
人気のため、特にカウンター希望やスペシャリテ狙いの場合は2〜3週間前の予約がベター。
電話での予約対応もあるが、混雑時は繋がりにくい。
英語可/スペイン語対応。
■ アクセス情報
住所:
Carrer de Provença, 230, 08036 Barcelona, Spain
最寄駅:
・地下鉄 L5(青)「Hospital Clínic(オスピタル・クリニック)」駅から徒歩約5分
・L3(緑)「Passeig de Gràcia」駅からもアクセス可能(徒歩10〜12分)
周辺環境:
エンサンチェ地区内の静かな通り沿い。近くにホテルやカフェも多く、滞在中にも訪れやすい立地。
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