CONTENTS
プロローグ
今回の旅は、美食をめぐる一日。
下関では市場で新鮮な寿司を頬張り、津和野では清流の鮎料理に触れ、締めくくりには洋の技法を活かしたコース料理を堪能する予定です。
海の幸から川の恵み、そして歴史ある空間で味わう現代的な一皿まで──。
その土地でしか出会えない味覚と、背景にある文化や風景が重なり、どんな記憶を残してくれるのか。
これから始まる、美食と街の魅力をめぐる小さな旅。
どんな味わいが待っているのか、胸を高鳴らせながら出発しました。
旅の参考にしてみてください。
博多駅から旅の始まり
今回の旅は、九州の玄関口・博多駅からスタート。
中央改札を抜け、新幹線のりばへと向かいます。朝の駅構内はすでに多くの人で賑わい、出張や旅行に向かうそれぞれの足取りが交差していました。
乗り込むのは「こだま」。のぞみやさくらに比べるとゆったりとしたペースで各駅に停まり、車窓から流れる風景をじっくりと楽しむことができます。
ホームに立つと、発車案内板に並ぶ行き先と時刻。旅の始まりを告げるその文字を眺めながら、気持ちが次第に切り替わっていくのを感じます。
目的地は下関。港町の空気と、そこで待つ食や人との出会いを楽しみに、新幹線の扉が開く瞬間を心待ちにしました。
下関に到着
博多から新幹線に揺られて約40分。こだまはゆったりとしたペースで進み、新下関駅に到着しました。
ホームに降り立つと、大きなガラス窓から広がる青空が迎えてくれます。瀬戸内と日本海を結ぶ町に来たのだという実感が、じわじわと湧き上がってきました。
駅構内には、ふぐや「万福の旅」といった山口らしいモチーフが飾られ、到着早々に土地の文化や空気を感じさせてくれます。観光の玄関口らしい華やかさと、どこか親しみのある雰囲気。
ここからいよいよ下関の町へ。港町としての顔、歴史の舞台としての顔、そして食の都としての顔。いくつもの表情を見せてくれる場所を歩いていきます。
タクシーで最初の目的地へ
駅前のロータリーで待っていたタクシーに乗り込み、まずは下関の町を目指します。
車窓からは、青空を映した海や唐戸市場の建物、さらに関門橋が姿を現し、この街が港とともに歩んできた歴史を感じさせます。
運転手さんは気さくに話しかけてくださり、「次に行かれる津和野町は、小京都と呼ばれる美しい城下町ですよ」と観光情報を教えてくれました。石州瓦の赤い屋根、殿町通りの掘割に泳ぐ鯉、そして森鴎外の生家や太皷谷稲成神社など。町並みの魅力を聞くうちに、次の目的地への期待がますます高まります。
移動の合間にも、旅の楽しみは広がっていく。そんなことを感じさせてくれるひとときでした。
唐戸市場へ
タクシーに揺られて辿り着いたのは、下関を代表する観光スポット「唐戸市場」。
関門海峡に面した港のすぐそばに建つ市場で、早朝から多くの人々で賑わっています。
建物の外にはいけすが並び、魚やふぐが泳ぐ姿がそのまま見えるのも港町ならでは。潮風とともに漂ってくる海の匂いに、下関に来たことを改めて実感します。
市場の中では、水揚げされたばかりの魚介が威勢のいい掛け声とともに並び、訪れる人々の目を引いていました。地元の人の日常と、観光客の高揚感が同じ空間で交差する独特の空気感。ここからこの旅の本格的な食の体験が始まります。
唐戸市場「タケショー」で開店待ち
友人が迎えに来るまでの時間を利用して、唐戸市場の人気店「タケショー」へ。
時刻は午前8時45分。オープンは9時半ですが、すでに数組のお客さんが並んでいました。地元の人から観光客まで、期待の表情を浮かべながら列に加わっています。
市場全体は活気に満ち、威勢のいい声と人のざわめきが響き渡る中、行列に並んで待つ時間さえも不思議と旅の一部に感じられました。
新鮮なネタを使った寿司や海鮮丼で知られるタケショー。その味に出会えるまでのひとときは、これから始まる下関の食の体験への序章のようでした。
並んでいるあいだに手渡されたメニューには、マグロの大トロや中トロ、地元・下関ならではの炙りのどぐろ、ふぐの白子や天然ふぐといった豊富なネタがずらり。値段も一貫ごとにわかりやすく書かれていて、選ぶ楽しさが広がります。
注文は左右のマイクに分かれて順番に伝えるスタイル。初めてでも戸惑わないよう案内が整っていて、市場ならではの臨場感を保ちながらもスムーズに進んでいきます。
ショーケースには次々と寿司が並べられていき、艶やかな赤身や光り物、たっぷりのウニやイクラが目の前で輝きを放ちます。その光景を眺めているだけで食欲が刺激され、開店の瞬間が待ち遠しく感じられました。
この日選んだ寿司
好きな寿司をトレーに並べて購入したら、そのまま2階の飲食スペースへ。
ここは1時間あたり大人300円の利用料がかかりますが、ゆったりとテーブルに腰を下ろし、落ち着いて食べられるのが魅力です。
市場の喧騒を眺めながら、広々とした空間でいただく寿司はまた格別。立ち食いの活気も市場らしく楽しいですが、テーブル席なら友人と会話を楽しみながら、ひとつひとつの味をゆっくり堪能することができます。
潮風の余韻をまとった下関の寿司。その一貫ごとに、港町の息づかいが感じられる時間でした。
この日選んだのは、雲丹・大トロ・トロタク・炙りのどぐろ・真あじ・鯛・ヤリイカ・ふぐ白子・ヒラソ腹身・ジャンボカキフライ。さらに、ふぐのアラ入り味噌汁も添えて。
どのネタも厚みがあり、噛みしめるたびに海鮮の旨みがストレートに伝わってきます。
特に印象的だったのは雲丹と白子。雲丹はとろりと溶け出す甘みが広がり、白子は濃厚でクリーミーな舌ざわり。口の中で静かにほどけていくような余韻がありました。
一方、ジャンボカキフライは市場ならではの豪快さ。衣の香ばしさと牡蠣のジューシーな旨みが重なり、ひとつで十分な満足感がありました。
ふぐのアラが入った味噌汁は、出汁の旨みが溶け出し、温かさとともに体に染み渡る一杯。市場での朝食を締めくくるのにふさわしい味でした。
- ADDRESS
山口県下関市唐戸町5-50 唐戸市場内
- OPEN
土曜日:9:30 ~ 15:00
日曜日・祝日:7:00 ~ 15:00(※お寿司が無くなり次第終了)
定休日:月~金曜日(祝日は営業)
- COMMENT
- 行列・注文の様子
週末・祝日には特に混雑:開店前から長い行列ができることも。例えば、「8:45には外まで行列ができていた」という報告もあります 。
回転は比較的速い:並びながらメニューを選べたり、既に握られた寿司をショーケースから選ぶスタイルで、スムーズな注文が可能です 。
注文方法:ショーケース前にマイクが設置され、それぞれでオーダー → 後方で会計という流れ 。
調味料提供:しょうゆ・わさび・割り箸は各10円で有料 。
価格例:「寿司10貫で2,350円、しょうゆ・わさび・割り箸を加えて合計2,380円」というリーズナブルさも話題
市場をあとに
気づけば時計はお迎えの時間。
夢中で寿司を頬張っていたせいで、あっという間に時間が過ぎていました。
最後の一貫を急いで口に運び、味噌汁をすすり終えると、慌ただしくトレーを片付けて外へ。
市場の活気に後ろ髪を引かれつつも、友人の車に乗り込み、次の目的地へと向かいます。
津和野町へ
唐戸市場での朝食を終え、友人の車に乗り込み一路津和野へ。
高速道路を抜けると、やがて山あいの景色が広がり、赤瓦の家並みや緑の棚田が車窓を彩ります。
瀬戸内の港町から山陰の小京都へ。わずか数時間の移動で、こんなにも風景が移り変わるのは山口・島根の魅力のひとつだと感じます。
青空の下、山々の稜線がくっきりと浮かび、やわらかな陽射しに包まれた田園風景が続く。津和野の町が近づくにつれ、これから出会う土地の文化や食に対する期待が、自然と高まっていきました。
津和野に到着
下関を出発して車でおよそ2時間。高速道路から山道へと進むにつれ、車窓に広がる景色は次第に緑濃く、田園や赤瓦の家並みが点在するのどかな風景へと変わっていきました。
やがて川沿いの道に入り、橋を渡ると、山陰の小京都と呼ばれる津和野の町が姿を現します。背後を山々に囲まれ、清流が流れる静かな町並み。その穏やかな空気に、長距離移動の疲れも自然と癒されていくようでした。
白壁の建物や石州瓦の赤屋根が織りなす景色は、初めて訪れるのにどこか懐かしさを覚える佇まい。港町・下関からわずか2時間で、まったく異なる世界へと連れてきてくれるのが、この土地の魅力です。
高津川を渡って目的地へ
町の入口に差しかかると、目の前に現れたのは清らかな流れをたたえる高津川。
豊かな自然に囲まれ、古くから津和野の人々の暮らしを支えてきた川です。
その橋を渡りきると、いよいよ目的地に到着。
山あいの町の静けさと、水のせせらぎが合わさり、この土地ならではの空気が身体にすっと馴染んでいくのを感じました。
美加登家に到着
高津川を渡り、町の中心部に入ると、木の温もりを湛えた落ち着いた外観の「美加登家」が見えてきました。
青い暖簾を掲げた入口は凛とした雰囲気で、旅人を迎える静かな気配に満ちています。
脇の水槽には鮎が泳ぎ、津和野の清流とこの土地の食文化を象徴するよう。
ここで代々受け継がれてきた鮎料理をいただけることを思うと、自然と胸が高鳴ります。
実際の料理については、別の記事で改めて詳しく紹介していきます。
- ADDRESS
島根県鹿足郡津和野町日原221-2
JR山口線「日原駅」から徒歩15~19分(約1.5km)、または車で約3分唐戸市場から美加登家へは、車で約2時間~2時間30分。
- OPEN
昼:11:30~13:00(最終入店)
夜:17:00~19:00(最終入店)月曜日定休 ※8月14日~16日は休業の場合あり
- CONTACT
0856-74-0341
- AWARD
食べログアワード
2017年~2025年にかけて Silver/Bronze を継続受賞
2025年:Silver
2024年:Bronze
食べログ 日本料理 WEST 百名店
2021年、2025年 選出
ゴ・エ・ミヨ(Gault & Millau)
16点/20点で掲載
メディア出演
三代目料理人・山根一朗氏が TBS「情熱大陸」出演、「日本一の鮎料理人」と紹介
津和野の街中へ
美加登家を後にし、車はさらに津和野の街中へ。
山あいを抜けると、赤い列車が緑の中を走る姿や、柳の木が揺れる川沿いの風景が広がり、どこか時間がゆっくり流れているように感じます。
やがて見えてきたのは、SLの姿を残す津和野駅周辺。
白壁の建物や石州瓦の赤屋根が連なる町並みは、まさに「山陰の小京都」と呼ばれるにふさわしい景観です。
山と川に抱かれた小さな城下町。その落ち着いた風情は、訪れる人を自然と旅の余韻へと誘ってくれます。
和菓子処 三松堂 津和野本店
津和野で立ち寄ったのは、老舗の和菓子処「三松堂」。
名物の 源氏巻、そして愛らしい形の最中 こいの里 を購入しました。
源氏巻はふんわりとした生地に餡を包み、素朴ながらも飽きのこない甘さ。
一方のこいの里は、しっかりと練り上げられた羊羹でやわらかな餡を包んだ構成で、甘さは控えめながら輪郭がはっきり。口にすると職人の技術と誠実さが伝わる一品でした。
また、店頭では「津和野ジェラート」も目を引きました。石見ミルクや地元の抹茶・果物を使っていて、和菓子とはまた違うかたちで土地の素材と向き合っているのが印象的。
次回は喫茶スペースで味わってみたいと思わせる、魅力あるお店でした。
太皷谷稲成神社
津和野の町を見守るように高台に鎮座する「太皷谷稲成神社」。寛政の時代に津和野藩主・亀井家が城下の繁栄を願って創建したと伝わり、日本五大稲荷のひとつにも数えられています。
参道には、奉納によって並ぶ千本鳥居。朱色の連なりは京都・伏見稲荷を思わせる壮観さで、歩みを進めるたびに俗世から切り離されるような感覚を覚えます。
社殿に辿り着くと、立派なしめ縄が掲げられた拝殿と、きりりとした狐像が迎えてくれました。眼下には赤瓦の町並みと高津川が広がり、津和野全体を一望できるのもこの神社ならではの魅力。
商売繁盛や開運のご利益があるとされることから、地元の人々だけでなく全国から参拝者が訪れるそう。
鮮やかな朱の社殿と深緑の山々の対比が美しく、津和野を訪れるなら外せない場所だと感じました。
SLやまぐち号との遭遇
神社をあとにした帰り道、ちょうど SLやまぐち号 の運行に遭遇。
山あいに響く汽笛の音、白い蒸気を勢いよく吐き出しながら赤い鉄橋を渡っていく姿は、どこか映画のワンシーンのよう。
カメラを構える人々の間に混じって、その勇姿を見送ります。
津和野の自然と歴史的な町並みに、このSLの存在は不思議と調和していて、旅の締めくくりにふさわしい光景となりました。/p>
瑠璃光寺 五重塔
津和野から下関へ戻る途中、山口市でひと休み。向かったのは 瑠璃光寺。
日本三名塔のひとつに数えられる五重塔は、室町時代に建立された国宝で、漆黒の山と池泉庭園の緑に映える姿が圧巻でした。
静かに佇む庭園を歩きながら塔を仰ぐと、旅の喧騒がすっと遠のいていくような感覚に。
津和野の活気ある町並みやSLの汽笛とは対照的に、ここでは時の流れがゆるやかで、旅の終盤にふさわしい安らぎを与えてくれました。
- ADDRESS
〒753-0081
山口県山口市香山町7-1(香山公園内)
アクセス
JR山口線「山口駅」からバス約10分「香山公園前」下車すぐ
車:山口ICから約15分(駐車場あり)
- OPEN
境内自由(拝観料無料)
参拝可能時間:24時間開放(ライトアップは夜間22:00頃まで)
隣接施設:香山公園・枕流亭・中原中也記念館(徒歩圏内)
- AWARD
国宝:1952年に指定。日本三名塔のひとつにも数えられる。
- COMMENT
- 全国屈指の美塔
複数様式を融合させた調和のとれた美しい姿から「日本三名塔」(法隆寺・醍醐寺と並ぶ)とされる。
四季の彩りと共演
春:桜と塔の競演
夏:新緑に映える姿
秋:紅葉ライトアップ
冬:雪化粧の幻想的な光景
夜間ライトアップ
日没から22:00頃まで照明点灯。幻想的な雰囲気で人気の撮影スポット。
レトロなお土産屋 たつみや
看板には「フジカラー」「テレホンカード」の文字が並び、時代を感じさせる風合い。
山口名物「外郎(ういろう)」や「舌鼓(したつづみ)」の看板が目を引き、ソフトクリームのオブジェが店先を彩っていました。
旅の最後にふと立ち寄りたくなるような、懐かしさと温かみのある佇まい。
参拝帰りの人々や観光客を優しく迎える、町のランドマークのような存在でした。
下関に戻って
瑠璃光寺からの帰路、車窓に流れる山々の緑を眺めながら再び下関へ。
朝の市場の賑わいとは対照的に、夕暮れの街はしっとりと落ち着き、旅の終盤を感じさせる空気に包まれていました。
最後に訪れたのは、高台に佇む 「レストラン高津」。
昭和初期に銀行として建てられた建物をリノベーションしたレストランで、重厚な石造りと赤レンガの風合いがそのまま残され、歴史を感じさせる佇まい。旅を締めくくるのにふさわしい特別な空間でした。
料理や体験の詳細は、別の記事で改めてご紹介しています。
旅の締めくくり
夜の下関、海峡タワーがライトアップされて浮かび上がる姿を眺めながら、ゆっくりと駅へ歩いていく。
昼間の賑わいとは対照的に、海辺の風は涼しく静かで、旅の余韻に浸るにはちょうどいい時間。
そして下関駅へ到着。
朝から津和野へと足を伸ばし、唐戸市場や美加登家、太皷谷稲成神社にSLと、盛りだくさんの一日を振り返りつつ帰路につきました。
エピローグ
朝に市場で味わった新鮮な寿司、山あいの町でいただいた清流の鮎料理、老舗の和菓子、朱の鳥居が連なる神社、そして夜に楽しんだ洋の技法を活かしたコース料理。
一日のなかで、海・川・山、それぞれの恵みと文化が折り重なり、豊かな物語を描いてくれました。
美食を軸にしながらも、その一皿の背景にある風土や人々の営みに触れることで、旅はより深いものへ。
下関と津和野という異なる土地の魅力が響き合い、心に残る時間となりました。
次に訪れるときもまた、この町の食とともに、新しい出会いが待っているはずです。
旅の参考にしてみてください。