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Peg(ペグ)について
コンセプト
「自然と共に生きるフレンチ」
熊本県玉名郡和水町に佇むPeg(ペグ)は、地元の自然と調和したオーガニックフレンチを追求するレストラン。シェフ・冨永博美氏が掲げるのは、「土に還る料理」という哲学。地元の生産者と密接に関わりながら、固定種・在来種の野菜や放牧牛など、生命力あふれる食材を用いた料理を提供する。
料理に使われるのは、化学肥料や農薬に頼らず、自然のサイクルの中で育てられた食材。素材本来の味わいを活かすために、極力シンプルな調理法を採用し、火入れや発酵などの技術で旨味を引き出す。
Pegの建物自体もまた、「土に還る」というコンセプトのもと、自然素材を活かした設計がなされている。最大8名までの完全予約制で、シェフとの距離が近く、料理のストーリーを直接感じながら食事を楽しめる。
Pegのフレンチは、単に「美味しいものを食べる」だけではなく、「自然の循環を感じる体験」そのもの。食材の生まれた場所や育った環境、その背景にある人々の想いまでを味わう、そんな五感で感じるフランス料理を提供している。
冨永博美シェフ
熊本県和水町出身の冨永博美シェフは、福岡で調理を学び、東京のフレンチレストランやフランスでの修行を経て帰国。熊本市で「Peg」を開業し、地元食材を活かしたオーガニックフレンチを追求。
その実力が評価され、熊本県観光連盟/熊本県観光振興課の「熊本『食』のプレミアムシフト導入事業」プレミアムシェフに選ばれるなど、地域の食文化の発展にも貢献。2023年春、より自然に寄り添う料理を目指し、玉名郡和水町へ移転。完全予約制の空間で、生産者と共に「食材の命を活かすフレンチ」を提供し続けている。
レストランの評価
Peg(ペグ)は、熊本市内での営業時にビブグルマンに選出されるなど、高い評価を受けてきた実力派フレンチレストラン。2023年春に和水町へ移転し、より自然に寄り添った料理を追求する新たなステージへと進んでいる。
移転後のPegは単なるフレンチに留まらず、食を通じたサステナブルな哲学を表現している。
今後は、ミシュランの再評価や、ゴ・エ・ミヨなど国内外のグルメガイドへの掲載も期待される。
ダイニングプレリュード
外観・エントランス
竹藪に囲まれた静寂な場所にあり、外観は木の温もりを感じさせるシンプルで洗練されたデザインとなっています。エントランスは、竹林の緑と建物の自然素材が調和し、訪れる人々に落ち着きと特別な雰囲気を提供します。
ダイニングスペース
Pegのダイニングスペースは、自然と調和した温もりある空間で、細部にまでシェフ・冨永博美氏のこだわりが詰まっている。
建築には、釘を使わない宮大工の技法が取り入れられ、木材の組み方ひとつひとつに職人の技が光る。壁は、画家ジョージア・オキーフの住まいからインスパイアされた土壁を採用し、温かみのある質感が特徴的。
ダイニングには薪ストーブが置かれ、料理だけでなく空間全体に心地よい温もりをもたらす。さらに、レコードが流れることで、料理を五感で楽しむための特別な雰囲気が演出されている。
オープンキッチンは広々とした設計で、高さまでもシェフ自身が細かく設定し、料理を作る動線や手の動きまで考え抜かれたデザインになっている。ゲストとの距離が近く、料理のライブ感を楽しめるのもPegならではの魅力。
建築、音、温もり、全てが調和したこの空間は、Pegの料理とともに「食の体験そのものを楽しむ」ための舞台となっている。
メニュープレゼンテーション
Pegでは、決まったメニュー表は存在しない。
Pegの料理は旬の食材が主役であり、その時期にしか味わえないものを最大限に生かした構成となるため、固定されたメニューを用意するのではなく、その日最高の組み合わせを考えるスタイルをとっている。
ゲストは「何が出てくるか」を知らずに席に着く。しかし、一皿ずつ供されるたびに食材の背景や料理の意図がシェフから語られ、目の前でメニューが形を成していく。 それは、まるでストーリーが展開していくような食の体験とも言える。
スタータードリンク
Pegでの食事は、いきなり料理が提供されるのではなく、まず最初にシェフが淹れるお茶を2煎ほど味わうところから始まる。
この時間は単なるウェルカムドリンクではなく、ゲストとシェフがゆっくりと対話を交わすための大切なひととき。
宮崎茶房さんの香駿烏龍茶は、日本国内では珍しい品種の烏龍茶で、華やかな香りとすっきりとした味わいが特徴。
お茶をゆっくりと味わいながら、シェフとの会話が自然と生まれる。
実際に味わった料理
鹿児島南国元気鶏のパテサンド
Pegの食事は、まず鹿児島県産「南国元気鶏」のパテを使った特別なサンドイッチから始まる。シェフの奥さんが焼き上げる自家製パンで、パテと干し柿、冷たいバターを挟み、パンの内側には香り高いマスタードが塗られている。
げんき鶏のパテは、しっとりとなめらかな舌触りで、鶏の旨味がぎゅっと凝縮された濃厚な味わい。一方で、自家製の干し柿の自然な甘みがアクセントとなり、パテのコクを優しく包み込む。さらに、冷たいバターのまろやかさとマスタードのピリッとした刺激が加わることで、味わいのバランスが見事に整えられている。
このサンドイッチは、シンプルながらも奥行きのある味わいで、食べることで「甘味・塩味・酸味・コク」のハーモニーを感じる一品。食感も、カリッとしたパン、なめらかなパテ、ほのかにねっとりとした干し柿が一体となり、噛むごとに味の変化が楽しめる。
Pegの食事のスタートとして、最初のひと口で心を掴む一皿となっている。
新玉ねぎの蒸し焼き
春の訪れを感じさせる新玉ねぎを丁寧に蒸し焼きにし、その甘みと柔らかな食感を引き出す。新玉ねぎ特有の瑞々しさが残るよう、じっくりと火を入れることで、噛んだ瞬間にじゅわっと広がる甘みが際立つ仕立てに。
その上には、晩白柚(ばんぺいゆ)のほのかな酸味と苦みを添え、爽やかな香りをプラス。さらに、出始めの兵庫県産ホタルイカを合わせることで、春の海の風味を重ねる。ホタルイカの濃厚な旨味とトロッとした食感が、新玉ねぎの甘みと見事に調和する。
仕上げに散らされるのは、自家製の実山椒の塩漬け。ピリッとした刺激とほのかな発酵の香りが全体の味を引き締め、ひと口ごとに異なる表情を生み出す。
春の始まりを感じる、甘み・香り・旨味が一体となった一皿。シンプルながらも、季節の移ろいを味覚で楽しめるPegらしい料理となっている。
天草の鯵のタルタル
脂の乗った天草の鯵を使い、パクチー、大根のピクルス、自家製のガリを加え、ビネガーと塩、粒マスタードで仕上げたタルタルとして提供。
鯵の豊かな旨味に、パクチーの爽やかな香り、大根のピクルスのシャキッとした食感、自家製ガリのほのかな辛みと甘みが加わり、口の中で味のコントラストが繊細に広がる。
ビネガーの酸味と塩のシンプルな下味が、脂の乗った鯵を軽やかに引き立て、粒マスタードの優しい辛みが全体の味をまとめる役割を果たす。
このタルタルの上には、たから農園の長崎赤株のスライスを折りたたみながら幾重にも重ね、まるで花びらのような美しい層を作り出す。
赤株の優しい甘みとわずかな苦みが、タルタルの奥行きをより豊かにし、一口ごとに違った表情を見せる。
小長井牡蠣とほうれん草
長崎・小長井産の牡蠣を蒸し上げ、身の締まりをしっかりと保ちながらも、旨味を最大限に引き出した仕立てに。
一口噛むごとに凝縮された旨味が広がる。
付け合わせの菊池産ほうれん草は、バターでソテーし、たから農園の紫色のじゃがいも(グランドペチカ)は一度茹でてから冷凍し、繊維と水分を分離させ、繊維だけを丁寧に残すという独自の手法を採用。じゃがいものほのかな甘みと独特の食感が、牡蠣の濃厚さに寄り添うように配置される。
仕上げには、ケッパーの酸味と粒マスタードの香りがアクセントとなり、さらに自家製の唐辛子と山椒を使ったオイルをほんのりとかけることで、ほのかにスパイシーな余韻が加わる。ピリッとした辛みが後味に心地よい刺激を与え、全体のバランスを引き締める役割を果たしている。
牡蠣のミネラル感・野菜の甘み・スパイスの刺激が絶妙に調和し、味わいに奥行きを持たせた一皿。
食材ごとの個性を際立たせながら、Pegらしい独創的なアプローチで完成された料理となっている。
原木椎茸のフラン
原木シイタケのフランは、シイタケの香りと車海老の旨味が凝縮された、フレンチ風茶碗蒸し。
刻んだ原木シイタケをニンニクとともに炒め、水分をしっかり飛ばすことで、シイタケの濃厚な旨味を引き出し、このエッセンスをフランのベースとして使用。
そこに生クリーム・出汁・卵を合わせて蒸し上げることで、なめらかな舌触りに仕上がっています。
仕上げには、車海老の殻を丸ごと使って取った濃厚な海老のエキスを茶碗蒸し全体に染み込ませることで、陸と海の旨味が見事に融合する。
上には香ばしいゴボウのフリットをトッピングすることで、カリッとした食感が加わり、フランの柔らかさとのコントラストを生み出している。
さらに、フランの中にはサッと火入れした熊本産の車海老の身を忍ばせ、海老特有の甘みと弾力を感じさせるアクセントが加わる。
Pegのパン
カンパーニュのような力強さと、食パンの柔らかさのちょうど中間に位置する仕上がりで、Pegの料理の流れを邪魔せず、それぞれの味わいを引き立てる役割を果たしている。
太刀魚のフライ
パン粉には、生のあおさが練り込まれていて、ひと口ごとにほのかな潮の風味が広がる。揚げることで香りがより際立ち、衣そのものがひとつの味わいになっている。
下には、ほどよい塩気が残る塩漬けの青梗菜と小松菜を出汁で温めたもの。青菜の甘みがフライの香ばしさをやさしく包み込み、さらに茎わかめを刻んだものが混ざることで、シャキッとした食感とほのかな磯の香りが加わる。
仕上げに、周りには春菊のオイルを回しかけ、ほのかな苦味と香ばしさを加える。揚げたての太刀魚のフライに、爽やかで香り高いオイルが絡むことで、全体に軽やかな余韻を残す。
揚げることで引き出される太刀魚の旨味と、海と山の食材が融合した奥行きのある味わいが、一口ごとに楽しめる一皿。
自家製カボスソーダ
キリッとしたカボスの酸味を活かしながら、自家製のシロップで優しい甘さをプラス。炭酸で割ることで、カボスの香りがふわりと広がり、すっきりとした爽快感のあるジュースに仕立てている。
玉名牧場の仔牛
メインには、完全グラスフェッド(牧草のみで育てられた)玉名牧場の雄の仔牛を使用。一般的に価値が低いとされる仔牛の肉だが、穀物ではなく自然の草だけを食べて育ったことで、脂肪分が少なく、タンパクでありながらしっかりとした旨味を持つ。サステナブルな畜産の視点からも、こうした肉を料理として昇華させることに意味がある。
付け合わせには、甘みが強くなめらかな三郷かぼちゃのピュレを添え、仔牛の淡泊な味わいに自然な甘みとコクを重ねる。
そこに山鹿で発酵のプロフェッショナルによる酒粕を使った粕漬けを加えることで、深みのある発酵の香りと塩味をアクセントに。
シンプルな構成ながら、それぞれの要素が調和し、仔牛の持つ本来の味わいを引き立てる一皿。余計な装飾をせず、素材の個性とサステナブルな価値を感じる料理となっている。
デザート & フィナーレ
デザートとともに、コーヒー・ハーブティー・チャイの中から好きな一杯を選ぶことができる。
チャイは、静岡から熊本に移住した「HAIYO」さんがPegのために特別にブレンドしたもの。
スパイスの香りが豊かで、甘さを抑えつつ、じんわりと広がるコクと温かみが心地よい仕上がり。
ハーブティーは、シェフ自らがその場で摘みに行き、新鮮な香りと個性を感じられる一杯に。その日の気候やゲストの雰囲気に合わせてハーブを組み合わせるため、まさにその瞬間だけの味わいを楽しめる。
コロンビアチョコレートと金柑のゼリー
食事の締めくくりは、コロンビア産チョコレートを刻み込んだアイスにナッツのキャラメリゼとお酢を加えた金柑の甘露煮のゼリーをのせ、仕上げに薄焼きのチュイルをのせる。
チョコレートの深みと、口どけの良いアイスが合わさることで、リッチながらも軽やかな仕上がりに。
ナッツのキャラメリゼでカリッとした食感と香ばしさをプラス。
柑橘の爽やかな酸味がチョコレートのコクを引き締め、余韻を軽やかにまとめる。
甘み、香ばしさ、酸味がバランスよく調和し、食事の最後にふさわしい一皿となっている。
まとめと感想
Pegの料理は、熊本の自然と生産者、そして食べ手のすべてを結びつけるような体験だった。
最初に供される宮崎茶房の香駿烏龍茶を飲みながら、シェフとの対話が始まる。料理をただ「食べる」のではなく、何を感じるのか、どのように味わうのか、そのプロセスを大切にする時間。
その後の料理の流れも、単なるコースの進行ではなく、素材ごとの個性を引き出しながら、次の皿への期待が自然と高まるように構成されている。
メニュー表がなく、すべての料理がその瞬間に生まれる一皿であることが、Pegの食体験をより特別なものにしている。
シェフと生産者、そして食べる人の間にある見えないつながりを、料理を通して感じられる場所。
熊本の風土と、ここに集まる人々の想いがひとつになり、Pegという空間でひとつのストーリーを紡いでいく。
食べ終えた後、ただ「美味しかった」だけではなく、この土地の恵みや人の手仕事への敬意が、自然と心に残るような時間だった。
予約とアクセス情報
予約は公式サイトの専用フォームから、コース開始日の5日前までにお申し込みください。
住所: 熊本県玉名郡和水町藤田560
営業時間: 12:00からコース開始
定休日: 日・月・木曜日
アクセス: 最寄りのバス停は「前原(玉名郡和水町)」で、九州産交バスから徒歩約9分の距離にあります。
詳細や最新情報は、公式サイトやSNS(FacebookやInstagram)をご確認ください。
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