BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

船越(ふなこし) について

コンセプト

築70年超の一軒家を再生した畳敷きのカウンター8席のみ。余分な装飾を排し、自然光と木の温もりだけが残る極めてミニマルな空間は、訪れる人の五感をすっと鎮め、目の前の一貫に集中させます。料理は、季節の表情を映し出す“引き算の美学”と、研ぎ澄まされた江戸前×博多前の技法を掛け合わせた新たな寿司体験。福岡の海山が育んだ素材の純度を、潔く・そしてしなやかに引き出す一貫一貫が、一連の流れとして静謐な舞台を紡ぎます。

船越 久生(ふなこし・ひさお)大将について

船越さんは、金沢の老舗料亭である玉泉邸にて、四季折々の素材を余すところなく見せる懐石の“引き算”を習得。その後、師匠の独立に伴い日本料理店「片折」でさらに腕を磨き、懐石から鮨まで一貫して学び続けました。帰郷後は福岡・春日市の「菊鮨」に身を置き、“博多前寿司”の軽やかな所作と米と魚が響き合う潔さを体得。こうした長年の修練を経て、2024年11月20日に野間の一軒家で独立開業。金沢で培った繊細な季節感と、博多で鍛えられた握りのダイナミズムが交差する一貫には、食材への敬意と生産者との信頼が静かに息づいています。

レストランの評価

2024年11月に開店したばかりのため、現時点でミシュランやゴ・エ・ミヨといった公式な受賞歴はまだありません。
しかし、金沢「片折」の立ち上げから「菊鮨」の二番手までを歩んだ経歴は業界内でも広く知られ、オープン直後から「福岡で最も期待される新しい鮨屋」として注目を集めています。

食べログなどのグルメサイトでも高評価のレビューが増えつつあり、摘みは金沢仕込みの懐石クオリティ、握りは博多前を基礎にした構成が「個性と誠実さを兼ね備えている」と評されています。

受賞歴はこれから積み上げていく段階ですが、その背景と実力を踏まえると、今後ミシュランなどに掲載される可能性も大きく、ますます目が離せない一軒です。

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

築70年超の一軒家をリノベーションした敷地には、ゆったりとした専用駐車スペースが設けられています。車を降りると、石畳のアプローチが視界に入り、手入れの行き届いた植栽を眺めながら一歩一歩進むうちに、日常の喧騒がすっと遠ざかっていきます。門前の木製格子戸と白壁の行灯に浮かぶ「船越」の文字が、余計な装飾を削ぎ落としたミニマルな美意識を静かに告げ、扉を開ける前から心が落ち着く—そんな序章を迎えるエントランスです。

ダイニングスペース

門をくぐって一歩足を踏み入れると、まずは靴を脱ぎ、畳敷きの床に直接触れる――そんな所作が、この場の非日常を予告します。

脱いだ靴を脇に置き、目に入るのは白木の一枚板で造られたカウンター。8席分の椅子は低めに設えられ、その背もたれ越しに見上げる格子天井と間接照明が、柔らかな光の陰影を描き出します。壁面に切り込まれたニッチには季節の草花を生けた小さな花器がひとつだけ。余分な装飾を削ぎ落としたミニマルな空間は、木と光と影の調和によってぬくもりと静寂を両立させ、訪れる人の五感をすっと鎮めます。ここでは、目の前の一貫に意識を集中させること以外に、何も求められません。

スタータードリンク

カウンターに腰を下ろすと、まず熱々に温められたおしぼりがそっと手渡され、一口のほうじ茶が穏やかに差し出される。その所作には師匠譲りのおもてなしが込められ、手を温め、香り高い茶を啜るひとときが、自然と心を落ち着け、目の前の一貫への集中へと誘います。

実際に味わった料理

削りたての一番出汁と地物の鮑

最初に供されたのは、削りたての一番出汁に地物の鮑をそっと泳がせた椀物。香り高い枯節の旨みがすっと立ち上がり、澄んだ琥珀色の汁が口中でふわりと広がります。ひとくち含むごとに、鮑の歯ごたえからにじみ出る海の滋味と、滋味深い出汁の余韻が重なり、一碗に込められた丁寧な仕事が伝わってきます。師匠譲りの出汁取りは、素材の声を最大限に引き出すための所作と、温度管理まで行き届いた匠の手腕を感じさせました。

コチとシャコのお造り

透き通るように薄造りされたコチと、程よく蒸し上げたシャコを一皿に。

コチはまず塩だけでひと切れ。身のほんのりとした甘みと潮気がダイレクトに伝わります。続く二切れ目は、自家製ちり酢を軽くくぐらせて。穏やかな酸味がコチの甘みをすっきりと引き締め、塩との対比が印象に残ります。

シャコも同じく二段階で。まず塩で、その緻密な身の甘みとプリッとした歯ごたえをストレートに楽しみます。続いて醤油。旨みがほどよく強調され、違った表情を見せるシャコの豊かな味わいを堪能できるお造りです。

焼き物

目の前で丁寧に串打ちされた太刀魚を、ゆっくりと炭火で焼き上げます。皮目が香ばしくパリッとした頃合いを見極め、その場でふっくらとした身を一口大に切り分けて提供。まずは何も添えず、そのままの塩気と魚の旨みをじんわりと味わいます。続いて、爽やかな酸味を添えるへべすをひと搾り。柑橘の涼やかな香りが身の甘みをきゅっと引き締め、二つの表情を楽しむ一皿です。

博多春菊の白和え

春菊のほろ苦さに、白味噌のまろやかな甘みと宮崎産国産胡麻の濃厚な香ばしさが溶け込み、琥珀色の和え衣が素材の持ち味を優しく引き立てる一皿。なめらかな舌触りと奥深い余韻が、季節の青菜をより豊かに感じさせます。

鱧の鳴門巻き

白のらせんを描く鳴門巻きは、まず昆布塩だけでひと切れ。潮の香りがすっと立ち上り、鱧本来のほろほろとした身の甘みが際立ちます。続く二切れ目からは、自家製の梅肉ソースをほんのひと塗り。梅の爽やかな酸味が淡泊な旨みをきゅっと引き締め、二つの味わいのコントラストが印象的です。

添えられているのは揚げたてのトウモロコシの天ぷら。薄い衣の間から溢れるジューシーな甘さは、そのままで十分に楽しめる一品です。

おこげとあん肝

香ばしく焼き上げられた薄いおこげは、一口かじるごとに立ち上る米の香りと軽やかな歯ごたえが印象的。そこに添えられた余市産あん肝は、濃密な旨味と磯の香りがふわりと広がり、下に敷かれた奈良漬がほのかな甘みと酸味のアクセントを添えます。

おこげとあん肝を別々に味わえば、それぞれの香ばしさと濃厚さをストレートに堪能でき、合わせればあん肝のコクをおこげがやわらかく受け止めて、絶妙なハーモニーを生み出します。箸が止まらない、余韻深い一皿です。

冬瓜饅頭

透き通るような冬瓜の皮に包まれた饅頭は、みずみずしいほのかな甘みが口に広がります。中には瑞々しいパプリカ、旨みを含んだ椎茸、ぷりっとした車海老が折り重なり、一口ごとに異なる食材のコントラストが楽しい一品。上からかけられた淡い餡が全体をそっとまとめ、涼やかな余韻を残します。

握りの準備

漆黒の長丸盆に置かれた焼締めの平皿。その隣には、程よい塩気の胡瓜の浅漬け、ほのかな甘みの生姜漬け、艶やかな昆布。清らかな浅漬けが口中をすっと整え、これから始まる一連の握りへと意識をすみやかに誘う、静かな序章です。

メイチダイの握り

シャリには福岡・大川の庄分酢を使った赤酢と米酢のブレンドを用い、ほんのりとした甘みとまろやかな酸味が米粒ひとつひとつに染み込んでいます。そこにのせられたメイチダイは、淡い桃色の身がしっとりと艶めき、噛むほどに柔らかな旨みが広がり、シャリのコクと穏やかな余韻が静かに重なります。

メダイ(ダルマ)の握り

九州で「ダルマ」と呼ばれる脂の乗ったメダイは、淡いピンクがかった身がしっとりと艶めき、口に含むとじわりと広がる甘みが特徴です。庄分酢ブレンドのシャリと寄り添うと、ほのかな酸味が魚の旨みをそっと引き立て、磯の余韻がふわりと口中に漂います。地元ならではの呼び名と個性を感じる一貫です。

新子の握り

初夏だけに許された一貫、新子は繊細な身が舌にほどける軽やかな口当たり。銀色の皮目に映る淡い透明感と、ほんのり効いた酢の余韻が、季節の儚さをそっと運んできます。儚くも印象深い、一碗の余韻が続く一貫です。

上五島産シマアジの握り

肉厚に切られた身はしっとりとした弾力があり、噛むほどに爽やかな海の香りと上質な脂の甘みがじんわりと広がります。一貫で感じる豊かな旨みと瑞々しさが印象的です。

鮪の握り(宗像・大島産 173kg)

宗像・大島で揚がった173kgの鮪を用いた一貫。瑞々しく溢れる水分をまとった夏らしい赤身は、しっとりとほどける舌触りのあと、ほのかな甘みがすっと広がり、あっさりとした旨みが初夏の涼やかな余韻を残します。

大将の鮪に対する考え方
    • 産地重視
      鮪の花形としての存在感を大切にしつつ、豊洲には頼らず、九州近海で揚がったものだけを選ぶ。

    • 潔い選択
      魚体の状態やその日の気候が揃わないと判断した場合は、あえて鮪を休ませ、別の旬魚へ切り替える勇気。

    • 季節の表現
      冷凍や通年提供に頼らず、その一貫で移ろいゆく季節を感じさせる──鮨を通じた“旬の海”のおもてなしを貫いています。

アオリイカの握り

薄く透ける身には繊細な格子状の包丁目が入り、口に含むとしっとりと滑らかな舌触りからほどけるようにほのかな甘みが広がります。軽く塗られた煮切り醤油のまろやかな余韻が、イカ本来の甘みをそっと引き立て、噛むほどに海の清涼感を感じさせる一貫です。

ヨコワ(幼鮪)の握り

赤身と脂のバランスが絶妙なヨコワは、薄く入った包丁目が身のほぐれを助け、口に含むと柔らかな甘みとともにほどけます。若い鮪ならではの軽やかな脂が心地よく広がり、後味にはすっきりとした旨みが残る一貫です。

アラの握り

皮目を軽く炙ることで香ばしさが立ち、脂ののった身は口に含むとほろりとほどけながら、じんわりとした甘みとコクが広がります。炙られた香りと脂の余韻が相まって、深い味わいを感じさせる一貫です。

志賀島産 車海老の握り

夏限定で漁獲される志賀島の天然車海老は、透き通るような身の甘みと程よい弾力が魅力。口に含むとぷりっと弾ける食感とともに、じんわりとした海の甘みが広がります。季節を告げる、華やかで心に残る一貫です。

大分産 赤ウニの軍艦

濃い橙色に輝く赤ウニは、口に含むととろけるようなクリーミーさと凝縮された甘みが弾けます。軍艦のパリッとした海苔がウニの香りを際立たせ、シャリのほんのりした酸味が後味をすっきりとまとめ上げます。大分の海が育んだ濃厚な旨みを、ひと口で余すところなく楽しめる一貫です。

蛤の出汁 味噌汁

炊き立ての味噌汁は、濃厚な蛤の出汁がふんわりと立ち上り、一口啜るごとにじんわりと広がる旨みが心地よい余韻を残します。ほんのり甘い味噌の香りが貝の風味をそっと引き立て、締めくくりにふさわしい、やわらかな温もりを感じさせる一椀です。

対馬産 穴子の握り

対馬の海で育まれた肉厚な穴子は、口に含むとほろほろとほどけるほど柔らかく、濃密な旨みがじんわりと広がります。甘めのタレが身に絡みつき、穴子本来の繊細な甘みとコクをしっかりと引き立てる、締めくくりにふさわしい一貫です。

追加の握り

透明感のある白身はしっとりとした舌触りで、噛むほどにじんわり広がるほのかな甘みが印象的です。淡い旨みがシャリのまろやかな酸味と溶け合い、清涼感のある余韻を残す一貫です。

サバ

程よく〆られたサバは、光沢を帯びた皮目の下にしっとりとした身が隠れ、一口でほろりとほどける柔らかな食感が特徴です。酢の酸味がサバの濃厚な旨みをすっきりと引き立て、鮮度の良さと熟成のバランスを楽しめる一貫です。

アジ

しっとりとした身にほどよい旨みが染み込み、口に含むと脂の甘みとともにキレのある酸味がすっと抜けます。鮮度と熟成のバランスが際立つ、一貫です。

トロタク巻き

先ほどの大島産鮪の赤身と風味豊かなタクアンを合わせた一本を半分に。くるりと海苔に包まれた断面からは、瑞々しい鮪の旨みとシャキッとしたタクアンのコントラストが見事に調和します。噛むほどに赤身の深い味わいが口中に広がり、タクアンのほのかな甘酸っぱさが後味をすっきりと整える締めの逸品です。

干瓢巻き

ほんのり甘くふっくらと炊き上げた干瓢を、摘みで供された宮崎産の濃厚な国産胡麻とともに海苔で巻いた一貫です。干瓢のやわらかな甘みと胡麻の香ばしさが、シャリのほのかな酸味に寄り添い、後口を軽やかに整えます。シンプルながらも奥行きを感じさせる、締めにふさわしい逸品です。

玉子焼き

卵本来の風味を活かしつつ、ほどよい甘みで仕上げられており、最後に頬張るたびにほのかな余韻が舌に残ります。コースの締めくくりにふさわしい、職人技が光る一貫です。

まとめと感想

店の摘み(つまみ)は、片折氏や金沢の懐石料理で学んだ日本料理の礎がしっかりと感じられるクオリティ。その流れをくみながら、鮨は菊鮨で身につけた“博多前”の握りがベース。季節や土地の恵みを、その時に最良と思う形で一貫ごとに丁寧に表現しているのが印象的でした。

鮪ひとつ取っても、豊洲頼みや冷凍保存に頼らず、自分の目で選び抜いた地元の鮪だけを使う。その日の状態に納得できなければ、花形の鮪をあえて休ませるという潔さも、この店らしさ。ほかにも、志賀島の天然車海老や上五島のシマアジ、ダルマ(メダイ)、大分の赤ウニなど、九州の魚介を主役に据えたラインナップ。摘みでは宮崎産の国産胡麻を使うなど、地元食材へのこだわりが随所ににじんでいます。

おじいちゃんの住まいだった家を、大工のお父さんがリノベーションし、孫である大将がその場に立つ――親子三世代のストーリーが空間にも料理にも自然に溶け込んでいて、暖かさと誠実さが感じられるのも魅力。33歳という若さながら、10年以上の研鑽を積み重ねてきた背景はもちろん、人柄の良さや柔らかい所作、穏やかな空気感も心に残りました。

季節やその日の魚と誠実に向き合い、鮨も摘みも奇をてらわず“今”を誠実に表現する。肩肘張らず、それでいて芯の通った一軒。家族と土地と、師の技と自身の感性――いろんなものが自然体で重なりあう、福岡らしい鮨体験でした。

予約とアクセス情報

予約方法

完全予約制。電話にて予約を受け付けています。開店間もないこともあり、席数も限られるため、希望日の数週間前から問い合わせるのが安心です。

営業時間

昼:12:00〜
夜:18:00〜
(いずれもおまかせコースのみ)
※定休日:日曜・月曜(不定休あり)

アクセス情報

住所:福岡市南区野間(詳細は予約時に案内)
最寄駅:西鉄高宮駅から徒歩圏内
駐車場:敷地を活かした専用駐車場を完備

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MIZUMACHI
「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

食を愛するすべての人へ、新しい美食の発見と感動をお届けします。