BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

クッカーニャについて

コンセプト

「クッカーニャ(CUCCAGNA)」は福岡・春吉に位置する 完全会員制イタリアン。2015年4月に緒方俊文シェフが独立開業し、その後2020年に紹介制から会員制へと移行しました。目前は約700名の会員が登録されていて、会員費は無料ですが、年4回以上の来店が条件となっています

店内はカウンター10席のオープンキッチンのみ。素材の持ち味を大切にしたおまかせコースが中心で、旬の野菜や魚介、希少食材を繊細に調理し、一皿ごとに味と意匠のバランスが緻密に計算されています。訪れるたびに変わるコース内容に、リピーターも多く、ソムリエによるペアリングも充実し、ワインと料理の調和を楽しめる設計です。限られた席で、緊張感と温かみが共存する独特な時間を提供する、まさに“隠れ家のような”イタリアンです

緒方 俊文シェフについて

オーナーシェフの緒方氏は、東京や福岡の一流店で修業を重ね、特に中洲の「リストランテ・ヒロ博多」で料理長を務めた経験がありました 。2015年春、福岡・春吉に「クッカーニャ」を開業し、2020年以降は会員制へとスタイルを変更しています

 

レストランの評価

「クッカーニャ」は、食べログによるグルメアワードにおいて、Tabelog Award 2025 Bronze(ブロンズ賞)を受賞しました。また、「食べログ イタリアン WEST 百名店」 に 2023年・2025年と2度選出されており、西日本のトップクラスの実力を示しています

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

福岡・春吉の路地に溶け込むように建つ「クッカーニャ」の店舗は、静けさを纏ったモダンな佇まいです。外壁はグレーのタイル張りで統一され、派手さはなくとも落ち着いた存在感を放っています。大きな窓からは柔らかな光が漏れ、店内の温かい空気をほのかに感じさせます。

店への入り口は、建物の側面に設けられた白い階段を上がった先にあり、まるで隠れ家へ誘うような静謐さ。エントランス周りには装飾を極力排したシンプルなデザインが貫かれ、余計なものを削ぎ落とすことで料理への期待感を自然と高める設えになっています。

表通りの喧騒から一歩離れた場所にありながら、訪れる者に特別な時間の始まりを告げるその空間は、まさにクッカーニャの世界観そのものを象徴しています。

ダイニングスペース

福岡・春吉の「クッカーニャ」は、カウンター10席のみの小箱。
客席は調理が間近に感じられるオープンキッチンを囲む形で配置されており、料理人の手さばきや火の香り、調理の音までもが五感に届きます。

壁や天井は木目調の落ち着いた色味で統一され、照明は柔らかく、空間全体に温かみと緊張感が共存。おまかせコースの一皿ずつに向き合うにはちょうどよい密度感です。

目の前で料理が仕上がるライブ感と、カウンター越しの対話によって、訪れる者はただ食べるだけでなく、料理の背景やシェフの思いを自然と受け取ることができます。

 

メニュープレゼンテーション

席に着くと、メニュー表などはなく、特にあらたまった説明もありません。
「おまかせで進んでいく」ということが、自然と伝わってくる静かな始まり方。

季節に合わせて組まれたコースが、大将の手から淡々と、けれど丁寧に供されていく。
その流れに、こちらも言葉ではなく、自然と身をゆだねるような感覚があります。

決め込まず、説明しすぎず、けれど流れに迷いがない。
そんな静かな導入から、この店の料理に対する姿勢がそっと立ち上がってくるようでした。

「クッカーニャ」のおまかせコースは3種類に分かれており、それぞれ料金に応じてメインや使用される食材が変わります。旬を大切にするスタイルゆえ、季節ごとに提供される素材も異なり、訪れるたびに新しい発見があります。

写真のように、ディナー開始時にはその日の主要な食材がカウンターに並べられ、ゲストは目の前で選び抜かれた素材と対面します。例えばこの日用意されていたのは、鮮度と質感が際立つ肉塊。食材の存在感を間近に感じることで、料理が始まる前から期待が膨らみます。

シェフの丁寧な仕込みと火入れによって、その素材の魅力が最大限に引き出されるのが「クッカーニャ」の魅力の一つ。素材選びへのこだわりと調理技術の融合が、コースの随所に光っています。

スタータードリンク

食事の始まりは、シンプルにハイボールを選びました。この日はダイエット中だったため控えめにしたのですが、通常はシェフ自らが厳選したワインペアリングを提案してくれるのが「クッカーニャ」のもう一つの魅力です。

ワインは料理の一皿ごとに合わせて選ばれ、その繊細なマリアージュが素材の旨味を引き立て、味わいの幅を広げます。シェフとの対話を交えながら進むペアリングは、単なる飲み物の提供を超えた体験として、多くのゲストの記憶に残っています。

 

 

実際に味わった料理

自家製チャバタ

最初の料理に合わせて供されたのは、自家製のチャバタです。
スタッフから「飛び上がるほど熱いのでお気をつけください」と案内され、焼きたての熱々の状態で提供されました。

表面はこんがりと香ばしく、噛みしめるともちもちとした食感が広がります。添えられたオリーブオイルはまろやかで、シンプルながらも料理の合間に味覚をリセットする役割を果たします。

焼きたての温度と食感がしっかり伝わるパンは、序盤のひと皿として絶妙なバランスでした。

鮎のフリット

この日のコースで最初に提供されたのは、「鮎のフリット」です。
鮎は3枚におろされ、その頭と身をまとめて、内蔵を使ったソースと合わせています。
その素材をパスタ生地で包み、カリッと揚げた一品。

揚げたての生地は薄く香ばしく、魚の旨味を内側にしっかり閉じ込めています。
内蔵のソースが深みを添え、骨の部分も一緒に味わえるよう工夫されています。

シェフの技術と素材の活用が感じられる料理で、手の込んだ構成がうかがえます。

スペシャリテ 徳谷トマトのカプレーゼ

緒方シェフの修行元のスペシャリテをオマージュした一皿。
高知県高知市の徳谷地区で生産されるフルーツトマトの甘みと酸味が際立ち、そこにフレッシュなブラッタチーズが重なります。

トマトの瑞々しさとチーズのクリーミーさが織りなすハーモニーは完成されており、いつ食べてもその美味しさに裏切られることがありません。

シンプルながらも味わい深く、シェフの技術と素材への愛情が感じられる、まさにクッカーニャの顔とも言えるスペシャリテです。

自家製フォカッチャ

一緒に供されたのは、自家製のフォカッチャです。
ふっくらとした生地は程よい塩気と弾力があり、シェフの丁寧な焼き上げが感じられます。

おかわりが無限に可能なこのパンは、リピーターにも嬉しい一皿。
カプレーゼのトマトソースやオリーブオイルをつけても美味しく、料理の合間に味覚をリセットしてくれます。

軽やかでありながら満足感のあるフォカッチャは、コースの良いアクセントとして重宝されている様子です。

有明の天然うなぎ

この日は土用の丑の日に合わせて、魚料理にまさかの鰻が登場しました。
有明海で獲れた天然うなぎを使い、シェフの腕によって素材の魅力が存分に引き出されています。

うなぎの下には、サフランの風味が香る焼きリゾットが控え、アスパラガスが彩りを添えています。
バルサミコソースのほのかな酸味が全体を引き締め、トッピングされたサマートリュフが芳醇な香りを漂わせます。

天然うなぎならではの繊細な味わいを生かした仕立てで、季節感と驚きを兼ね備えたサプライズの一皿でした。

メイン 熊本あか牛ランプ

メインディッシュには、熊本県で年間約20頭ほどしか飼育されないという希少なあか牛のランプ肉が登場しました。
生産者は井信行さん。赤身ながらも柔らかく、旨味が凝縮されています。

ソースはシェリービネガーを使用し、程よい酸味が肉の味わいを引き立てます。

付け合わせは、ジロール茸と帯広産の2年熟成メークイン。
特にメークインの甘みが印象的で、肉とともに口の中で豊かなハーモニーを奏でていました。

肉の味わいと野菜の甘さ、ソースの酸味が絶妙に調和した贅沢な一皿です。

スパゲッティ ペペロンチーノ

続いてのパスタは、北海道産の塩水雲丹を使ったペペロンチーノです。
ドライトマトがアクセントになり、見た目はクリーミーながら、生クリームは一切使用していません。

素材の旨味と塩味、雲丹の濃厚さが融合し、味わいは深く繊細。
麺の茹で加減も絶妙で、一本一本にソースがよく絡んでいます。

シンプルなペペロンチーノの概念を超えた、贅沢な一皿でした。

パスタの替え玉:徳谷トマトの特製アラビアータ

コースの締めに、リクエストで提供されるパスタの替え玉があります。
徳谷トマトを使った特製アラビアータで、辛さは調節可能。今回は控えめに仕上げられていました。

ピリッとした辛味がアクセントとなり、クセになる味わいです。
毎回この替え玉を楽しみにするリピーターも多く、リクエストを入れて初めて味わえる一皿です。

デザート & フィナーレ

桃のコンポート デザート

デザートには桃のコンポートが登場しました。
桃の外側2~3mmにだけ火を通し、表面はコンポート、内側はほぼフレッシュの状態で仕上げられています。
切ったときには中の桃に火が入っているかどうか分からないほど、瞬間的な火入れがなされています。

間にはヨーグルトと自家製のジェラートが挟まれ、上からはミントの爽やかなソースがかけられています。
また、グラニテはかき氷のようにふんわりと添えられ、全体のバランスを引き締めます。

口に含むと最初はコンポートの甘みを感じ、噛むとフレッシュな桃の瑞々しさが広がる、繊細で計算されたデザートです。

バスクチーズケーキ

最後に提供されたのは、プレーンと白トリュフの2種類のバスクチーズケーキです。
こちらは会員のみが購入可能な特別なスイーツで、クリームチーズをベースにしています。

甘さは砂糖ではなくホワイトチョコレートで調整されており、控えめながらも深みのある味わい。
中央に添えられた塩をつけると、チーズの濃厚さがさらに引き立ちます。

お酒とともにゆっくり楽しむのに適した、洗練されたデザートでした。

まとめと感想

福岡・春吉の会員制イタリアン「クッカーニャ」は、素材選びと丁寧な調理に重きを置いた店でした。
地元を含む各地から選ばれた食材を、シェフが繊細な手仕事で一皿一皿に仕立てていることが伝わります。

料理はそれぞれに工夫が凝らされており、素材の持ち味を生かすだけでなく、味の重なりや食感の変化にも配慮されていました。
デザートの火入れやソースの使い方など、細部に至るまで計算されていることを感じさせる内容です。

店内はカウンター中心で落ち着いた空間。シェフの仕事ぶりを間近に感じながら、会話を楽しみつつ食事をするスタイルです。
接客は過度に主張せず、程よい距離感で心地よく、自然体のサービスが印象的でした。

会員制というスタイルも相まって、ここでしか味わえない特別な体験を提供する場だと感じました。
シェフとの対話を楽しみながら、料理の背景や意図に触れつつ味わう、食の時間をじっくり味わいたい方におすすめの店です。

予約とアクセス情報

予約方法
  • 完全予約制のお店です。会員登録している方のみ予約を受け付けています。

  • 会員以外の方は予約できません。

  • コース料金は複数選択肢あり。

アクセス情報
  • 住所:福岡県福岡市中央区春吉3-25-21 (2F)

  • 最寄駅:天神南駅より徒歩約 4 分(約 320〜385m)

  • その他の駅からも比較的近く、渡辺通駅から徒歩約6分、西鉄福岡(天神)駅からも徒歩圏内です。

営業時間
  • ディナー営業のみ 17:30 ~ 23:00 が基本。

  • 定休日は日曜日

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「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

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