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天ぷら たけうちについて
コンセプト
福岡県那珂川市、博多南駅から少し離れた静かな住宅街に佇む「天ぷら たけうち」。カウンター9席だけの小さな店は、昼夜ともに完全予約制。提供されるのは、天ぷらを核に据えた和食のコースです。穴子やハゼは揚げる直前に捌き、魚は天然物、野菜は厳選した国産。衣は驚くほど軽やかで、素材の持ち味をそのまま引き立てます。揚げ物の合間には、季節の鮮魚を使った前菜や握り寿司、出汁を生かした料理が挟まれ、最後まで緩急のある流れ。郊外にありながら、全国から食通が足を運ぶ理由は、ひと皿ごとの完成度と全体を貫く統一感にあります。
大将・竹内貴之さんについて
料理人は竹内貴之氏。熊本に生まれ、福岡で育ち、東京の老舗日本料理店で修業を積んだのち、26歳で那珂川の地に自らの店を構えました。開業当初から「一人で切り盛りできること」を大切に、天ぷらを軸に据えながら独学で技術を磨き、やがて鮨や和食を組み込んだ独自のコースを形づくってきました。開業から20年を経た今もなお、理想のかたちを追い求め、日々スタイルを更新し続けている。その姿勢が、この店の大きな魅力となっています。
レストランの評価
「天ぷら たけうち」は、食べログの「天ぷら 百名店」に複数年選出され、2022年から2025年にかけては連続でBronze賞を受賞。さらに、ミシュランガイド福岡・佐賀版(2019年)では、調査員おすすめの「ミシュランプレート」に掲載されています。星付きではないものの、ミシュラン調査員から「訪れる価値のある店」として認められた証であり、地元の食通だけでなく全国からも客を呼び寄せる存在です。特に評価されているのは、天ぷらの軽やかさと素材の持ち味を引き出す揚げ方、そしてコース全体の構成力。油の重さを感じさせず、食後まで心地よい余韻が続くと評され、郊外にありながら全国区の知名度を誇る一軒です。
ダイニングプレリュード
外観・エントランス
福岡県那珂川市の郊外、一見すると住宅地の一角に溶け込んでいるような控えめな外観。「天ぷら たけうち」は幹線道路沿いに佇む二階建ての一軒家で、その佇まいはまるで「知る人ぞ知る」隠れ家的な存在です。着飾らず、しかし静かな品格を感じさせる佇まいに、ただならぬ料理体験への期待が自然と高まります。
ダイニングスペース
店内はカウンター9席のみ。木目の美しいカウンター越しに、大将の手元や揚げ台の動きがそのまま視界に入ります。艶のあるステンレスの揚げ台は磨き込まれ、照明の光を柔らかく反射。背後の壁には「たけうち」と刻まれた木札がさりげなく置かれ、余計な装飾を排したシンプルな空間が広がります。赤い布地のカーテンや間接照明が落ち着きを添え、訪れた人の意識を自然と料理へと向けさせます。
メニュープレゼンテーション
「天ぷら たけうち」のおまかせコースは、素材と構成に応じていくつかの価格帯で用意されています。例えば6,500円コースは、天ぷら約10品を中心としたシンプルな構成。一方、8,500円コースには季節の食材を使った前菜や握り鮨、天ぷら10品ほどが含まれ、料理の幅が豊かになります。さらに上位には10,500円(11,550円税込)ほどのコースもあり、その日の旬を存分に楽しめる内容です。過去の体験記には、有明の浅蜊や石川の岩もずくなど、季節ごとに厳選された食材が織り込まれており、一品一品に丁寧な仕事が見られます。
実際に味わった料理
先付
先付には、とらふぐの糸くず、石川産の岩もずく、有明のくらげを合わせた小鉢。とらふぐはねっとりと舌に絡み、岩もずくはするりと喉を抜ける心地よさ、くらげは小気味よく弾む歯ごたえが際立ちます。異なる食感が一口ごとに切り替わりながらも、やわらかな酸味と出汁が全体をまとめ、序盤ながら印象に残る一品です。
お造り
朝締めのイシガキダイを程よい厚みに引き、山葵を添えて。噛みはじめに感じるしっかりとした歯ごたえと、徐々に滲み出る上品な甘み。身にのった脂は控えめながら旨みが濃く、山葵の香りがそれをきれいに引き立てます。シンプルな構成ゆえ、魚の状態と仕事の確かさがそのまま伝わる一品です。
スペシャリテ アカムツの昆布締めとヤリイカ
アカムツの昆布締めとヤリイカを重ねた一貫。アカムツは表面をバーナーで炙り、香ばしさを添えつつ脂をにじませる。下には包丁を細かく入れてねっとりとした舌触りに仕上げたヤリイカ。アカムツの豊かな脂と、ヤリイカのまろやかな甘みが重なり、食感は柔らかさとわずかな弾力が交互に現れる。噛み進めるほどに旨みが溶け合い、鮨というよりも“二つの海の恵みを一度に味わう”ような贅沢なひと口です。
盛り合わせ
炭火で香ばしく焼き上げた愛知産の鰻は、脂の甘みと香りが凝縮。お好みで高知・仁淀川の山椒を添えれば、清涼感が後を引く。燻製にした蛸は、噛むほどに燻香と旨みが広がり、柔らかさの中に心地よい歯ごたえ。対馬の鯖は軽く締めて、脂の旨みと酸味のバランスを生かし、ヤリイカはオイル漬けにしてまろやかな甘みとコクを纏わせている。ひと皿の中で異なる海の表情を味わわせる盛り合わせです。
鯵の握り
天ぷらに入る前、たけうちでは本格的な握りも楽しめる。脂ののった鯵は、表面に細かく包丁を入れ、薬味と生姜をのせて手渡しで供される。口に運べば、身の柔らかさと脂の甘みがほどけ、薬味が後味をきりりと引き締める。握り鮨専門店さながらの仕立てが、これから続く天ぷらのコースに向けて心を高ぶらせるひと口です。
ネギトロ手巻き
青森産本鮪のネギトロを芯に、天草産の赤ウニをたっぷりとのせた手巻き。脂の甘みとウニの濃厚さを、有明産の香り高い海苔が包み込む。噛むたびに海苔の香りがふわりと立ち、口いっぱいに広がる海の旨みと甘みが一体となる、贅沢なひと口です。
茶碗蒸し
ずわい蟹のほぐし身と有明産海苔をあしらった茶碗蒸し。ふるりとやわらかな卵地の中に蟹の甘みが溶け込み、上から散らした海苔が香りを添える。出汁の旨みと磯の風味が一体となり、ほっとする温かさでコースの流れをやさしくつなぎます。
天ぷらのはじまり
大将が穴子を捌きはじめると、そこからが天ぷらの合図。
目の前には、お出汁と塩、そして塩麹が静かに用意される。澄んだ出汁は素材の旨みを引き立て、塩はシンプルにその味を際立たせる役目。塩麹はまろやかな甘みとコクを添え、揚げたての天ぷらにひと味違う表情を与える。すべてはこれから揚がる一品ごとに合わせ、最良のかたちで味わうための準備です。
糸島の朝獲れ鯵
スタートを飾るのは、糸島の朝獲れ鯵。衣は薄く軽やかに揚げられ、噛めば中からふわりとした身が現れる。鯵の持つ青魚らしい香りと旨みを、揚げ油の香ばしさがやさしく包み込み、初手から期待感を高めてくれる一品です。
車海老の頭
二品目は車海老の頭。殻ごと高温で揚げ、香ばしさと甘みを凝縮。カリッとした食感のあとに、海老味噌の濃厚な旨みが広がります。小さなひと口ながら、海老の魅力を余すことなく味わえる、香り高い一品です。
車海老の身
立派なサイズの車海老の身。衣は薄く、噛んだ瞬間に弾けるようなぷりぷりとした食感と、ほのかな甘みが広がる。高温でさっと揚げることで、身の透明感を残しつつふっくらと仕上がり、海老の旨みを存分に味わえる一品です。
佐賀・白石蓮根
衣は薄くサクッと軽やかに揚げられ、中はしっとりとした粘り気を帯びた瑞々しい食感。噛みしめるほどに蓮根特有の甘みが広がり、素朴ながらも滋味深い味わいが感じられる一品です。
大分・九重のハマグリ
衣の中にはふっくらと膨らんだ身が収まり、噛めば弾力のある歯ごたえと共に濃厚な旨みがあふれ出す。海の香りと甘みが口いっぱいに広がり、シンプルながら記憶に残る存在感を放つ一品です。
箸休めは、水菜とツブ貝
シャキシャキとした水菜、磯の香り豊かな岩のり、そして旨煮にしたツブ貝のコリッとした食感が三位一体となり、天ぷらの合間に口をリセットしてくれる一皿。
玄海産のキス
衣は薄く軽やかで、中はふっくらとした白身がほろりとほどける上品な一品。
熊本産「とろとろ炒め茄子」
衣の中には、炒めて甘みとコクを引き出した茄子がとろとろの状態で閉じ込められています。ひと口かじれば、熱々の果肉から水分と旨みがじゅわっと広がり、野菜天ぷらの中でも特に印象に残る仕立てです。
マナガツオ 大葉巻き
淡白なマナガツオを大葉で包み、香り高く仕上げた天ぷら。ふんわりとした身質と大葉の爽やかさが絶妙に調和。
地元産アスパラガス
みずみずしい那珂川産アスパラガスを天ぷらに。シャキッとした歯ごたえと、穂先の香りが広がる。
対馬産穴子
天ぷらの締めは、ふっくらと揚がった対馬産穴子。外は香ばしく、中はふんわりとした食感。
松茸とマナガツオの炊き込みご飯
締めは旬を先取りした香り高い松茸と、旨味豊かなマナガツオを合わせた炊き込みご飯。
1杯目はそのままで、2杯目は出汁をかけてお茶漬けにして、異なる味わいを楽しむ趣向。
デザート & フィナーレ
水菓子
シャインマスカット、瑞々しい梨、濃厚な甘みのマンゴーを彩り豊かに盛り合わせ。
まとめと感想
序盤から供される小鉢や造り、箸休めまでの流れは、天ぷらが始まる前から十分な満足感を与えてくれる構成でした。旬の食材を活かしながらも、味付けや盛り付けに一皿ごとの個性があり、食事のプロローグとしての役割をしっかり果たしています。
そして始まる天ぷらは、独学で積み重ねられた経験と工夫が随所に感じられるものでした。衣の軽さ、揚げの温度管理、素材との距離感——その一つひとつが型にはまらず、けれど芯の通ったアプローチでまとめられています。奇をてらうのではなく、素材を最大限に活かすための引き算と、食べ手を飽きさせない緩やかな変化が心地よく続いていきます。
最後のご飯と汁物、そして果物までの流れは、まるで余韻を描く筆致のように静かで丁寧。全体を通して、季節ごとに変わる食材や表現を味わいたくなり、「また違う時期に訪れたい」と自然に思わせてくれます。一度きりではなく、何度も通ってこそ、その変化と積み重ねの妙を堪能できるお店でした。
予約とアクセス情報
予約方法
「天ぷら たけうち」は完全予約制。予約は電話のみの対応で、訪れる前に必ず事前連絡が必要です。遅れる際も必ず連絡するようお願いされており、限られた席数ゆえ、予約時にコース内容や提供時間を確認しておくと安心です。
営業時間
昼は12時から14時、夜は18時から22時まで。いずれも時間を区切った二部制の営業です。定休日は月曜日で、ゴールデンウィークやお盆、年末年始には休業する場合もあります。完全予約制のため、営業時間に合わせて訪問を計画する必要があります。
アクセス情報
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住所:福岡県那珂川市今光6-64-1
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電話番号:092-953-1699
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最寄り駅:博多南駅(JR博多南線)から徒歩15分前後。
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車アクセス:高速大宰府インターより車で約20分。
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駐車場:専用駐車場あり(2台)
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