BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

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Spice & Dining KALA(スパイス & ダイニングカーラ)について

コンセプト

Spice & Dining KALA は、もともと福岡・中間市で南インド料理のミールスを中心に展開していたレストラン。現在は小倉に移り、カウンターのみのスタイルで営業しています。

「モダンインディアン」という未開拓のジャンルを掲げ、和食・フレンチ・タイ料理などを自在に取り込みながら、砂糖不使用・低糖質・無添加にこだわったコースを構成。完全予約制・一組限定という緊張感の中で、料理と音楽を融合させた特別な体験を届けています。

さらに2027年の閉店をすでに宣言しており、限られた時間の中で挑戦を続ける場としての意味合いも強く感じられます。

シェフについて

福岡のスパイス業界で“BOSS”と呼ばれ慕われる存在。南インド料理をはじめ、タイなどの東南アジア、中国、フレンチやイタリアンに至るまで多国籍な料理への知見を持ち、さらにワインの世界にも精通しています。

その幅広いバックグラウンドを基盤に、スパイスの効かせ方だけでなく、食材の組み合わせや構成力、一皿ごとのストーリー性でゲストを引き込みます。料理を音楽のように指揮し、味の配置や余白まで計算するアプローチは、ジャンルを超えて“体験そのもの”をデザインするもの。唯一無二の存在として、福岡の食文化に強い影響を与えています。

レストランの評価

Spice & Dining KALA は、中間市時代から日本のスパイス界に強烈な印象を残し続けてきた存在です。2016年にはJAPANESE CURRY AWARDSを受賞し、ミールス文化の普及に貢献したことが評価されました。さらに、その独自の世界観と料理への哲学性で食通たちを魅了し、「Bronze(銅賞)」の実力店として食べログアワードでも認定されています。

小倉に移転後も、その影響力は健在です。2024年には「食べログ アジア・エスニック WEST 百名店」に選出され、ジャンルを代表する名店としての地位を確保。グルメ媒体からは「日本を代表するモダン・インディアン」としても名が挙がり、遠方から足を運ぶファンも少なくありません。

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

小倉・秋月街道沿い、鮮やかなオレンジ色の外壁が目印のKNビル。その角に小さく置かれたプレートに「Spice & Dining KALA」とだけ記され、目印はそれだけです。

階段下を進むと、簡素な灰色のドアが現れます。かつて掲げられていた「不慣れな人には、不味い店」の張り紙はなく、今はドアが常時ロックされており、予約を済ませた人だけがその日の暗証番号をシェフから知らされます。その番号を入力してはじめて扉が開き、カウンターだけの空間へと招き入れられる仕組み。

店に入る前からすでにひとつの演出が始まっていて、“特別な体験をするための入り口”という緊張感と高揚感が漂っています。

ダイニングスペース

扉を開けると、そこにはカウンターだけの親密な空間が広がっています。
白く長いカウンターの下には青いライトが仕込まれ、非日常感をさりげなく演出。壁には牛の頭骨のオブジェが飾られ、スパイス料理というジャンルにふさわしい異国の気配を漂わせています。

椅子は余裕を持った間隔で並べられ、ゲストはシェフと真正面で向き合うスタイル。背後にはワインやリキュールがずらりと並び、スパイス料理に合わせて多国籍なペアリングが展開されることを予感させます。

外観の素朴さからは想像できない、都会的で洗練された空間。小倉という街の一角にいながら、まるで別世界に足を踏み入れたような高揚感が漂います。

メニュープレゼンテーション

テーブルに置かれるのは、鮮やかな赤のカード。そこに並ぶのは料理名ではなく、まるで楽曲のタイトルのようなフレーズの数々です。

「Wake Up」「Born from Acid」「Invisible Shoreline」…。
皿の内容を直接示すことはなく、代わりにゲストの想像力を掻き立てる抽象的な言葉とアイコンで構成されています。

これは単なる献立表ではなく、ひとつのアルバムのトラックリストのよう。シェフが“指揮者”となり、ゲストを物語の流れへと導くためのガイドです。料理が出るたびに、「この皿がどの曲なのか」と照らし合わせていく体験自体が演出の一部になっています。

音楽と料理を融合させるという店のコンセプトが、このメニュープレゼンテーションに凝縮されているように感じられます。

実際に味わった料理

WAKE UP

コースの幕開けは、タイ東北部イーサン地方の朝食をイメージした一皿。
砕いたジャスミンライスを出汁に吸わせ、リゾットのようにとろりと仕上げ、生姜のアクセントが体を揺り起こすように効いています。

中央に添えられるのは、うずらのピータン。その殻ごと口に含むという大胆なスタイルで、独特の旨みと香りが広がる。まわりには揚げたセンミーが鳥の巣のようにあしらわれ、朝の情景を思わせます。

“Wake Up”――文字通り、最初の一皿からお腹も目覚めるような高揚感を与えてくれるスターターでした。

Tiny Claw Trap

二皿目は、揚げた沢蟹を使った ソムタム
表には香ばしく揚げた沢蟹が添えられ、下には塩漬けした生の沢蟹が隠されています。

薄く削いだきゅうりの下には、細切りにしたパパイヤなどの野菜が重なり、ソムタムらしいシャキシャキとした食感に辛味の刺激が加わります。そこへ沢蟹特有の香りが立ち上がり、ひと口ごとに鮮烈な余韻を残す構成。

“Tiny Claw Trap”――小さな爪に仕掛けられた罠のように、軽やかさと鋭さを併せ持つ一皿でした。

Born from Acid

三皿目は「パテ・ド・ネーム」。
フランスのパテ・ド・カンパーニュを下敷きにしながら、熊本の「走る豚」の生ソーセージ(ネーム)を芯に据えて仕上げたテリーヌです。

添えられるのは、パクチーを主体にレモングラス、こぶみかん、青唐辛子を効かせた鮮烈なグリーンソース。酸味と辛味が重なり、タイトルの “Born from Acid” をそのまま体現するような構成。

クラシックなフレンチの技法に、東南アジアの酸味と香りを重ね合わせたスタイルは、まさにモダンを象徴する一皿でした。

Ruler of Future

ここで登場したのは「Ruler of Future」。
タイ・イーサン地方で食される アリ を、日本の技法で茶碗蒸しに仕立てた一品です。

ベースはプーパッポンカレーの発想。蟹の旨みに、イーサンのツムギアリとその卵を用いることで、酸味と香りに加え、卵特有のぷちっと弾ける食感が広がります。
なめらかな茶碗蒸しに、スパイスの辛味とアリの独特の風味が重なり、口に含むたびに未知の感覚を呼び起こす構成。

タイトルの「Ruler of Future」は、“アリが支配する未来”という発想から。
伝統的な郷土食と日本の技法を重ねながら、その先を示唆するような一皿でした。

料理の合間に頼んだのは、ニュージーランド発のオーガニックジンジャービア 「Karma Drinks Gingerella」
レトロポップなラベルに目を引かれつつ、味わいはしっかりとした生姜の辛味と爽快な炭酸。甘さは控えめで、料理との相性もよく、口の中をリセットしてくれる存在感がありました。

Do Miso

秋刀魚を使ったタイ風なめろう。
細かく叩いた秋刀魚に香味野菜を合わせ、まずはそのまま、次に味噌を添えて味の変化を楽しみます。

上にはカリカリに揚げた秋刀魚をのせ、食感にコントラストを。添えられた味噌は、熊本の「卑弥呼」をベースに、タイの発酵調味料を幾重にも重ねた特製。旨みと発酵の複雑さが、秋刀魚の脂を軽やかに引き締めます。

“Do Miso” という名の通り、和とタイをつなぐ発酵の力を感じさせる一皿でした。

Global Warming

ここで登場したのは、タイ東北地方のスープ トムセープ
澄んだ酸味に香りと辛味を重ね、新鮮なハチノスやミノサンドを具材にした、力強さと軽やかさを併せ持つ一杯です。

中にはセロリをはじめとする野菜類が入り、その上にパクチーを重ねることで、清涼感と食感のコントラストを生み出しています。飲み進めるほどに、辛味と酸味がじんわりと体に広がっていきます。

タイトルの「Global Warming」は、“地球温暖化は牛のゲップが原因”という説をもじった着想から。
伝統料理をユーモアと批評性を交えて再構成する、この店らしい切り口が印象的でした。

Invisible Shoreline

続いては、赤貝のラープ
赤貝に赤玉ねぎとパクチーを合わせ、さらにカオクア(炒り米粉)で香ばしさを添えたサラダ仕立てです。瑞々しい赤貝の食感に、香草の清涼感と香辛料の刺激が重なり、軽快ながらも奥行きのある味わいに。

このカオクアは、他の料理にもシェフが効果的に取り入れており、香りと食感に厚みをもたらす要素として機能しています。

本来はここで度数の高いウイスキーと合わせる狙いがあるそうで、強い酒精と料理の鮮烈さが響き合うように設計された一皿でした。

Cock a Doodle Do

メインは、タイ・イサーン料理とメキシコ料理を掛け合わせた一皿。
ベースになっているのはタイのガイヤーン(焼き鳥)。そこにシェフがメキシコで食べたワカモレの記憶を重ね、異なる食文化をフュージョンさせています。

仕上げにはテキーラをフランベし、ライムの香りをまとわせて。焼き上げた鶏手羽を手でかぶりつき、ワカモレを添えて頬張るスタイル。横には焼いただけのシンプルなピーマンが添えられ、力強さと素朴さを同居させています。

“Cock a Doodle Do” の名の通り、にぎやかに鳴き声が響くような、勢いと楽しさを感じさせるメインでした。

Final Grain

ここで登場したのは、漬けマグロ丼。
タマリンドを効かせたジャスミンライスに、ナンプラーで漬け込んだマグロを重ねています。実山椒のピクルスが爽やかな刺激を添え、味に奥行きを与えていました。

三切れあるマグロのうち、最後の一切れにシェフが針で何かを注入しているところを目撃。食べてみて「当ててみて」と促されましたが分からず、答えはデトラのオレンジ。ほんの一滴でも強烈な香りを放つ果実を、隠し味のように仕込んでいたのです。

魚の味わいを変化させるそのひと工夫に、またひとつ知識が増えた瞬間でした。

Rustle of Forest

続いては、猪肉のラープ
雌イノシシの腕肉を挽き、炒り米とハーブを合わせたひと皿です。

香ばしい炒り米の風味に、ハーブの香りが重なり、ライムの酸味が全体を引き締める。噛むほどに野趣と爽快さが交互に立ち上がり、森のざわめきを想起させるような味わいでした。

タイトル「Rustle of Forest」が示す通り、山の気配を一瞬にして感じさせる料理でした。

デザート & フィナーレ

Lazy Firefighter

デザートとして供されたのは、シャインマスカットとメロン。
その下にはスイカをベースに、唐辛子などの刺激を閉じ込めたジュレが隠れています。

瑞々しい果実の甘みに、じんわりとした辛さが追いかけてくる構成は、まさにタイトル通り“怠け者の消防士”のよう。火を消すどころか、デザートの位置付けでありながら辛味を仕込むという遊び心が効いています。

甘さと刺激を一皿に同居させる、大胆かつユーモラスな締めくくりでした。

Azure Meadow

食後に供されたのは、透き通るような青の ハーブティー
淡い光をたたえたその色は、まるで草原に広がる青空をそのまま閉じ込めたよう。

穏やかな香りと優しい口当たりが、スパイスと刺激の余韻を静かに包み込み、コースを心地よく締めくくってくれました。

タイトル「Azure Meadow」の名が示す通り、青の草原を思わせる一杯で、長い旅のような食体験に余韻を与えるフィナーレでした。

まとめと感想

小倉〈Spice & Dining KALA〉でのひとときは、シェフのルーツや思想が洒落を交えながら随所に組み込まれた、まさに物語を辿るようなコースでした。

料理や食材へのこだわりと知見の深さが、一見遊び心ある仕掛けの中にも滲み出ていて、独自の世界観を確立しています。今回はモダンタイ料理を中心に展開されましたが、背景には積み重ねてきた多国籍な経験と柔軟な発想があり、ひと皿ごとに異なる角度から食の可能性を示していました。

本来であれば、シェフが精通するワインや酒とのペアリングこそがこの店の醍醐味。しかし一皿単体でも、その繊細さと奥行きに心を揺さぶられる時間でした。

豪快さや力強さの印象とは裏腹に、見た目以上に緻密で繊細な料理人。
遊び心と哲学を自在に行き来するシェフの姿勢こそ、この店を特別な場所にしていると感じました。

そして〈KALA〉は2027年に閉店を迎えることが決まっています。
だからこそ、この唯一無二の世界観を体験できる“いま”を逃したくないと思わせてくれる時間でした。

予約とアクセス情報

予約方法
  • 完全予約制。予約なしでの来店は基本的に受け付けていません。

  • オンライン予約サイト(AutoReserveまたは食べログ 経由)で予約可能です。

オートリザーブで予約する
  • 電話予約も対応: 090-7159-3045

  • 予約を完了したゲストには、当日ドアの暗証番号がシェフから送られてくる仕組み。到着後にその番号を入力して入店するため、最初の一歩から特別感と緊張感が演出されています。
  • 予約は早めにしておくのが望ましく、キャンセルポリシーの記載もあるため注意が必要です(直前のキャンセル等に課金される可能性あり)

アクセス情報
  • 住所:福岡県北九州市小倉北区馬借3-3-30 KNビル馬借 1F

  • 最寄駅:北九州モノレール「旦過駅」から徒歩約4分(約298m)

  • JR小倉駅からはタクシーで約8分程度。「モノレール沿いの黄色いビル」と伝えるとわかりやすいようです。

  • 駐車場はなし。近隣のコインパーキングを利用する必要があります。

営業時間
時間帯 営業時間
ランチ 12:00 – 16:00 (ドリンク L.O. 15:00)
ディナー 18:00 – 23:00 (ドリンク L.O. 22:00)
定休日 不定休
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「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

食を愛するすべての人へ、新しい美食の発見と感動をお届けします。