プロローグ
レストランを目的地に、その土地の歴史や文化、生産者に触れる旅——それが「BISHOKU QUEST」。今回の旅の舞台は、熊本・鹿児島・福岡を繋ぐ有明海沿岸。名店の料理を求めながら、各地の風土や人々の営みに出会う旅となった。
DAY1
福岡から熊本へ—旅の始まりと荒尾でのランチタイム
福岡市内から車で熊本市内へ向かう途中、高速道路を降りて熊本県荒尾市へ向かいました。大牟田市のすぐ隣に位置するこのエリアは、普段は通り過ぎてしまうことが多いのですが、今回はランチタイムに立ち寄ることにしました。
目的地は 「PIZZERIA AVENTO(ピッツェリア アヴェント)」 です。以前、荒尾に寄った際に食べログで調べて気になっていたお店 で、薪窯で焼き上げる本格ナポリピッツァが楽しめると知り、ずっと訪れてみたかった場所です。
こちらのお店は InstagramのDMから予約が可能で、予約の際には 訪れる時間と事前に食べるピザの枚数を伝える必要があります。人気店のため、確実に食べるためには早めの予約が必須です。
PIZZERIA AVENTO(ピッツェリア アヴェント)
店の外観はシンプルで落ち着いた雰囲気。
入り口には「完売」の文字が。やはり予約しておいて正解だったと、ほっと胸をなでおろしました。
店内は広々としていて、開放感のある空間が広がっています。 カウンター席、テーブル席、そしてテラス席も用意されており、シーンに合わせて利用できるのが魅力的です。カウンター席では、ピザを作る様子を間近で見ることができ、職人の手さばきや生地が焼き上がる様子を楽しめます。
そして目を引くのが、店内に設置された 「ステファノ・フェラーラ社」のピザ窯 です。ナポリの伝統的な職人技で作られたこの窯は、均一な火加減で生地を一気に焼き上げ、理想的なナポリピッツァを生み出すのだそう。見るからに存在感があり、これから提供されるピザへの期待がますます高まります。
薪窯で焼き上げる絶品ピッツァとこだわりの食材
注文は席についてからメニューを見て決めるスタイルです。どのピザも魅力的で迷いましたが、今回は 「マルゲリータ」と「香心ベーコンのビスマルク」 を選びました。
注文後、店員さんから 店内入口で販売されている熊本・成松農園さんのトマトの試食 をすすめられました。一口食べると、甘さと酸味のバランスが絶妙で、フレッシュな旨みが広がります。このトマトがピザのトマトソースのベースになっていると聞き、ピザへの期待がさらに高まりました。
マルゲリータ
まず運ばれてきたのは 「マルゲリータ」。成松農園さんのトマトを使ったソースに、とろけるモッツァレラチーズ、バジルの香りが加わり、シンプルながらも奥深い味わいです。
香心ベーコンのビスマルク
次に登場したのは 「香心ベーコンのビスマルク」。半熟卵が中央にとろりと乗り、ナイフを入れると黄身がピザの上に広がります。香ばしいベーコンの旨みと相性抜群で、贅沢な味わいを楽しめました。
この 香心ベーコン は、熊本の天然水と無添加飼料で育てられた「香心ポーク」を使用し、お店で丁寧に燻製をかけたもの。肉の旨みが凝縮されており、しっかりとした風味とほどよい塩気が感じられます。
ピザ生地は大判ながらもふっくらモチモチで、驚くほど軽い食感。 パンのような柔らかさもありながら、表面は香ばしく焼き上げられており、噛むたびに小麦の風味が広がります。大きめサイズにもかかわらず、ひとりで2枚をあっという間にペロリと完食。最後まで飽きることなく楽しめました。
シェフの想いと、また訪れたい理由
食べ終わったあと、シェフとお話しする機会がありました。東京で就職したものの、地元・荒尾に戻ることになり、何をしようか考えていたときに YouTubeでピザ作りを学び、自宅の庭にピザ窯を作って研究を重ねた のだそう。
特に パンのように軽い食べ心地を目指した生地 にはこだわりがあり、天候や気温の変化によって発酵の具合が変わるため、日々試行錯誤しながら理想の仕上がりを追求しているとのこと。試行錯誤の末に生まれたピザには、シェフの熱い想いが込められているのを感じました。
また、この日は通常使用している ダイワファームさんのモッツァレラチーズ ではなかったとのことで、「本来のマルゲリータやカプレーゼも食べてほしかった」と残念そうに話していたのが印象的でした。次回はぜひ、そのチーズを使ったピザも味わってみたいと思います。
さらに、桜の時期にはテラス席から美しい桜並木が眺められる そうで、「その季節に改めて訪れたい」と心に決めました。
ピザの美味しさはもちろんのこと、シェフの情熱とこだわり、そして四季折々の風景も楽しめる 「PIZZERIA AVENTO」。また一つ、特別なお店が増えました。
美味しいピザを堪能し、お店を後にして向かったのは 世界遺産・三池炭鉱。かつて日本の近代化を支えた炭鉱として知られ、歴史的な価値のある場所です。
しかし、到着してみると まさかの定休日…。せっかくの機会でしたが、今回は訪れることが叶いませんでした。次回リベンジを誓い、熊本市内へ向かうことにしました。
旅の拠点・熊本市内へ
この日の宿泊は 熊本市内のホテル。旅の本番は翌日からなので、今日は市内でゆっくり過ごすことにしました。
熊本の夜—メキシコ料理「トルタコス」でディナー
夕食は、ホテルから徒歩3分の場所にある メキシコレストラン「トルタコス」 を予約していました。お店は 熊本市電「慶徳校前」電停からRKK方面へ向かって約40m の位置にあり、アクセスも便利です。
「トルタコス」は、本格的なメキシコ料理を楽しめるお店として評判のレストラン。
現地さながらのタコスやメキシコのストリートフードが楽しめると聞いて、今回の旅でぜひ訪れたいと思っていました。
店内はカジュアルで温かみのある雰囲気。
メキシコの陽気なムードが漂い、旅先の気分をさらに盛り上げてくれます。
壁にはカラフルな装飾が施され、まるでメキシコの街角にあるタコス屋に迷い込んだような気分に。
最初の一杯はメキシコのビールで乾杯
まず注文したのは、メキシコのビール 「TECATE(テカテ)」。
メキシコを代表するビールの一つで、爽やかな飲み口とすっきりとした後味が特徴です。
タコスのメニューを見ると、想像以上に種類が豊富で迷ってしまうほど。どれも美味しそうで選びきれなかったため、お店の方におすすめをお願いすることにしました。
生地の種類もバランスよく選んでくれるとのことで、まずは 5種類のタコスを注文。
目の前に運ばれてきたタコスは、見た目も華やかで、それぞれ個性のある具材が詰まっています。
まず運ばれてきたのは、ピカディージョのタコスマサ。
ホクホクのジャガイモとジューシーな黒豚の挽肉が、トマトの酸味と甘みをまとい、しっかりとした味わい。
トウモロコシの香ばしいトルティーヤに、ジューシーな肉やフレッシュな野菜がたっぷり詰め込まれ、スパイスの香りが食欲をそそります。
続いて チョリソのタコス。黒豚の挽肉に特製スパイスがしっかりと染み込み、一口食べるとジューシーな肉の旨みとスパイスの刺激が広がります。ピリッとした辛さが後を引き、ビールとの相性も抜群。
挽肉の旨み、野菜のフレッシュさ、トマトの爽やかな酸味、スパイスのアクセント。どの要素もバランスよく組み合わさり、トルティーヤとの相性も抜群です。
次に運ばれてきたのは 豚バラのタコスマサ。使用されているのは、熊本のブランド豚 「あそび豚」 のバラ肉。シンプルに塩コショウで炒められ、素材の旨みが引き立つ一品です。
この豚バラ肉は、低温調理でじっくりと火を入れられているため、驚くほど ホロホロと柔らかい食感。噛むたびに肉汁がじんわりと広がり、スパイスを効かせた前のタコスとはまた違った、素材の良さを活かしたタコスになっていました。
4つ目は小麦粉のタコス「Tacos Harina」—「オンゴス」
トウモロコシの生地とは異なる小麦粉生地のタコスでしっとりとしていて柔らかく、もちっとした食感が特徴的です。
具材は 「オンゴス」。キノコと玉ねぎをメキシコ唐辛子とともに炒めたタコスで、シンプルながらも香り豊か。
最後に登場したのは、小麦粉生地で包まれた 「ブリトー」。肉を使わず、たっぷりの野菜が詰め込まれたベジタリアン仕様の一品です。
ひと口頬張ると、シャキシャキとした新鮮な野菜の食感が広がり、それぞれの素材が持つ甘みや旨みがしっかりと感じられます。
シンプルながらも奥深い味わいで、スパイスの効いたタコスとはまた違った美味しさを楽しめました。
生地はもちろん、何より野菜が美味しすぎる。 使われている食材一つひとつにこだわりを感じ、ただの「野菜だけのブリトー」ではなく、しっかりと満足感がある仕上がりになっています。
ワカモレ は、メキシコ料理の定番ディップ。一緒に提供されたのは、かなりハードタイプな トルティーヤチップス。
豚の皮をカリッと揚げたメキシコ版ポーククラッカーのような料理。揚げたてのチチャロンは香ばしく、サクサクとした軽い食感で、一口かじると豚の旨みと塩気がじんわり広がります。
続いて注文したのはメキシコの伝統的なスープ「ソパ・アステカ」。トマトをベースにメキシコ唐辛子を加えた、スパイシーで奥深い味わいの一品です。
タコスやスープを楽しんだあと、メインとして注文したのは「エンモラーダ」。モレソースをたっぷりとかけた鶏ムネ肉のタコスで、メキシコ料理の中でも特に伝統的な一品です。
今回、この料理を選んだ理由は 「モレソースを一度食べてみたかったから」。
メキシコでは特別な日に食べられることも多いモレソースは、チョコレートやスパイス、ナッツ、唐辛子など、何十種類もの材料を煮込んで作られる濃厚なソース。
甘み・辛味・苦味・コクが複雑に絡み合う、独特な味わいが特徴です。
タコスをひと通り味わったものの、その美味しさが忘れられず、つい もう少し食べたくなって追加注文 することにしました。
今回おかわりに選んだのは 「ビーフのタコス」と「コチニータピビルのタコス」。すでにお腹は満たされていたものの、どちらも気になっていたので、やはり食べておきたいところ。
続いて登場したのは、「コチニータピビル」 のタコス。これは メキシコ・ユカタン地方の伝統料理 で、豚肉をオレンジ果汁やスパイスでマリネし、バナナの葉に包んで蒸し焼きにする料理です。
トッピングには ピクルスされた赤玉ねぎ が添えられており、この酸味が豚肉の甘みを引き立ててくれます。さらに、メキシコの唐辛子のソースを少し垂らすと、ピリッとした辛さが加わり、味の変化も楽しめました。
最後まで大満足のタコスナイト
追加で頼んだタコスも想像以上の美味しさで、気づけばお腹いっぱいに。どのタコスも、それぞれ異なる個性があり、食べるたびに新しい発見があるのがメキシコ料理の魅力。
こうして、タコスから始まり、スープ、ブリトー、モレソースのエンモラーダ、そして追加注文のタコスまで、メキシコの味を存分に堪能した夜。
大満足のディナーを終え、お店を後にしてホテルへ戻ることにしました。メキシコ料理の奥深さを改めて実感しながら、翌日の旅の本番に備えて、ゆっくり休むことにしました。
DAY2
2日目の旅程—鹿児島県出水市へ
旅の2日目は、朝から鹿児島県出水市へ向かいます。熊本県の御船インターチェンジ(IC)から高速道路に入り、目的地である 「出水市ツル観察センター」 を目指します。
御船ICから出水市ツル観察センターまでは、車で約2時間半の道のりです。
途中、九州自動車道を南下し、出水ICで降りて一般道を進むルートとなります。道中は、九州の豊かな自然や風景を楽しみながらのドライブとなりました。
出水市ツル観察センターに到着
鹿児島県出水市の「出水市ツル観察センター」に到着しました。
道中、田んぼ道を走っていると、至る所にたくさんのツルが佇んでおり、その光景に驚かされました。
センターの駐車場に車を停め、環境保全のための協力金を支払いました。この協力金を納めると、センターへの入館料が無料になります。
通常の入館料は、大人220円、小・中学生110円です。
「出水平野のツルの総合案内板」 が設置されていました。ここには、出水平野に飛来するツルの種類や、それぞれの特徴、渡りのルートなどが詳しく説明されています。
出水市に飛来するツルの代表種は、「マナヅル」と「ナベヅル」。
ロシアのシベリア地域で繁殖し、秋になると日本へ飛来することが分かります。特に出水平野は、日本国内で最大級のツルの越冬地であり、国の特別天然記念物にも指定されています。
この案内板を読むことで、目の前にいるツルたちがどこからやって来たのか、なぜこの場所を選んでいるのかをより深く理解することができました。実際に飛来しているツルを観察しながら、その壮大な旅路に思いを馳せると、より一層感慨深くなります。
入館後、すぐに2階の展望室へ向かいました。ここからは、広大な干拓地が一望でき、数多くのツルが優雅に舞う姿や、餌をついばむ様子を間近で観察することができます。
特に、朝の時間帯にはツルたちの活発な動きを見ることができるため、早めの来館がおすすめです。
展望室からツルたちの姿を眺めたあとは、さらに下に降りて、ツルのいる場所に近づいてみることにしました。
広大な出水平野に降り立つと、周囲には驚くほどの数のツルが広がり、鳴き声が響き渡ります。少し距離はあるものの、観察センターの敷地内からでも十分にその姿をはっきりと見ることができます。
ここでは、望遠レンズを使ってツルの姿を撮影。肉眼では捉えきれなかった細かな羽の模様や、ツル同士が戯れる様子、長い脚でゆったりと歩く姿などを鮮明に記録することができました。
特に、マナヅルとナベヅルの違いがはっきりと分かるのが面白く、カメラ越しにくっきりと映し出されました。
また、飛び立つ瞬間や、羽ばたく姿を捉えるのもこの場所ならではの醍醐味。優雅に舞い上がる姿をカメラに収めるために、何度もシャッターを切りました。
ツルたちが冬を越すために、この場所を選んで飛来する理由が分かるような、静かで穏やかな環境。カメラを構えながら、じっくりとツルたちの生態を観察する貴重な時間となりました。
ツルを観察したあとは、出水駅近くの薪火イタリアン「KAI」へ
広大な出水平野でツルたちの優雅な姿を観察し、望遠レンズでの撮影も満喫したあとは、ランチタイムへ。向かったのは 出水駅近くの薪火イタリアン「KAI」。
ツル観察センターから出水駅までは車で約15分ほど。田園風景を抜けながら、のどかな道を走り、出水の中心地へ向かいます。
ランチの余韻を楽しみながら、次の目的地へ
薪火を駆使した調理によって、食材のポテンシャルを最大限に引き出した、ハイレベルなイタリアン を堪能。
火入れの技術が光る料理の数々は、それぞれの素材が持つ旨みを際立たせ、薪火ならではの奥行きのある味わいを生み出していました。
食後のコーヒーを飲みながら、じっくりと味わった余韻に浸ります。
出水平野の自然に触れ、ツルの姿を眺めたあとの贅沢なランチは、また格別のもの。美味しい料理と穏やかな時間に満たされながら、次の目的地へと向かうことにしました。
人吉市内へ—「HASSENBA」に到着
出水市でツルの観察と薪火イタリアンのランチを楽しんだあとは、車を走らせて 人吉市内にある「HASSENBA」 へ向かいました。
人吉は熊本県南部に位置し、球磨川 の清流が美しい歴史ある町。特に、かつて川の物流の拠点だったこの場所は、現在では地域の食や文化を発信するスポットとして生まれ変わっています。
「HASSENBA」は、そんな球磨川沿いにある施設で、カフェやショップ、観光案内所が併設されたおしゃれな空間。外観はシンプルで洗練されたデザインながらも、どこか温かみを感じる佇まいです。
店内に入ると、大きな窓からは 球磨川の雄大な景色 が広がり、開放感たっぷり。木の温もりを生かしたインテリアが、落ち着いた雰囲気を演出しており、旅の合間にホッと一息つくにはぴったりの場所です。
せっかく人吉に来たのだからと 球磨川下り を体験しようと受付へ向かいました。
受付には、熊本の人気キャラクター 「くまモン」 が飾られており、球磨川くだりならではの装い。しかし、受付スタッフの方から 「15時が最終受付」 との案内が…。
時計を見ると、すでに受付時間を過ぎており、今回は川下りを体験することができませんでした。
人吉の名物アクティビティを楽しみにしていただけに、少し残念な気持ちになりつつも、「次こそは早めに来て、ぜひ乗りたい」とリベンジを誓いました。
ここでは、地元の食材を生かしたスイーツやドリンク を楽しむことができ、カフェメニューも充実。コーヒーやクラフトビール、特産品を使ったジュースなど、どれも魅力的なものばかり。
球磨川下りはできなかったものの、HASSENBAの外に出ると、目の前には球磨川の雄大な流れが広がっていました。
川沿いには、球磨川下りで使われる船が停泊しており、乗ることはできなかったものの、その佇まいを眺めるだけでも風情を感じます。穏やかな川の流れに反射する陽の光が美しく、しばらくの間、その景色を楽しみました。
そして、ふと視線を向けると、すぐ近くに 「人吉城跡」 が見えます。人吉城は、かつてこの地を治めた相良氏の居城で、今は石垣や城門跡が残るのみですが、歴史を感じさせる趣のあるスポット。
繊月酒造で酒蔵見学—伝統の球磨焼酎に触れる
「HASSENBA」でゆっくりしたあとは、人吉を代表する焼酎蔵 「繊月酒造」 へ向かいました。
繊月酒造は、創業120年以上の歴史を誇る 球磨焼酎の老舗。清らかな球磨川の水を使い、伝統的な製法で造られる焼酎は、多くの焼酎ファンに愛されています。
受付を済ませ、さっそく 酒蔵見学 へ。館内には、仕込みのための大きな甕や蒸留器が並び、職人たちが丹精込めて焼酎を造る様子を学ぶことができます。
ただし、館内は撮影禁止。貴重な酒造りの工程を目にしながらも、カメラを構えることはできず、目と心にしっかりと焼き付けることにしました。
酒蔵見学の後は、お楽しみの お土産会場 へ。ここでは、繊月酒造が手がける多種多様な焼酎がずらりと並び、試飲をしながらお気に入りの一本を選ぶことができます。
特徴的なのは、各テーブルに無料で試飲できる焼酎が並べられていること。米焼酎ならではのスッキリとしたものから、長期熟成の芳醇な香りが楽しめるものまで、さまざまな味わいを試すことができます。
人吉市を代表する歴史的スポット 「青井阿蘇神社」 へ
繊月酒造で球磨焼酎の魅力を学んだあとは、人吉市を代表する歴史的スポット「青井阿蘇神社」へ向かいました。
青井阿蘇神社は、熊本県内で初めて国宝に指定された神社で、約1200年の歴史を持つ由緒ある神社です。人吉の街の中心部に位置し、訪れる人々を迎える堂々とした佇まいが印象的。
茅葺き屋根の楼門が出迎える、歴史ある神社
神社の境内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが 見事な茅葺き屋根の楼門。神社建築としては珍しい茅葺きの造りで、どこか温かみを感じる雰囲気が漂います。
楼門をくぐると、境内には本殿をはじめ、落ち着いた佇まいの社殿が点在。どの建物も江戸時代初期に建てられたもので、 400年以上の歴史 を感じさせる風格があります。
本殿の中ではちょうど 祈願の儀式が執り行われており、厳かな雰囲気 が漂っています。
さらに境内の敷地内には ひな祭りのシーズンならではの「お雛様」の飾り が並んでいました。
豪華な段飾りのひな人形が並び、歴史ある神社の落ち着いた空間の中で、日本の伝統文化を感じられる演出があり、訪れたタイミングの特別感を味わうことができました。
青井阿蘇神社の境内に佇む、青井大神宮 内宮・外宮
本殿での祈願やひな祭りの飾りを眺めた後、境内をさらに歩いていくと、神社の奥に 「青井大神宮」 が静かに佇んでいました。
ここは、伊勢神宮を分祀した 内宮・外宮 が並ぶ、格式ある神聖な場所。
青井大神宮の内宮・外宮を参拝し、境内を巡っていると、「熊ヶ嶽猪之介」 の像が目に留まりました。
この像は、人吉の相撲文化にゆかりのある力士 「熊ヶ嶽猪之介(くまがたけ いのすけ)」 を称えるもの。熊ヶ嶽猪之介は、人吉出身の力士で、その力強い取り組みで名を馳せた人物です。
青井阿蘇神社での時間を満喫したあとは、次の目的地へと向かいます。
人吉の中心にある 「人吉駅」へ
人吉駅は、歴史ある趣のある駅舎が特徴で、かつては観光列車「SL人吉」が発着していたことでも知られています。現在は九州豪雨の影響で肥薩線が運休中ですが、駅周辺は今も観光客や地元の人々でにぎわいを見せています。
駅前に到着すると、ひときわ目を引くのが 「からくり時計」。
駅前広場を歩いていると、視界に飛び込んできたのは 「汽車弁当」 の文字。
今回は購入しなかったものの、お店の構えから 長年にわたって旅人たちを迎えてきた歴史 が伝わってきます。
人吉駅の駅舎内を歩いていると、壁に掲げられた 「近距離きっぷ運賃表」 が目に留まりました。
現在、肥薩線は九州豪雨の影響で運休が続いており、列車の発着はありません。
本来であれば熊本駅から人吉駅までの運賃は1,850円で移動できたのですが、現在は不通区間が続いているものの、いつか再びこの駅に列車が戻り、人々が行き交う賑わいが戻ることを願わずにはいられません。
人吉の名所が一目で分かる「人吉市イラストマップ」
マップには、先ほど訪れた 青井阿蘇神社 や 人吉城跡 をはじめ、球磨川沿いの観光スポットや温泉街、球磨焼酎の蔵元が点在。歴史と自然に恵まれた街であることが、ひと目で伝わってきます。
人吉駅前広場に展示されたSL—歴史を感じる鉄道遺産
駅前広場人吉鉄道ミュージアム方面に歩いていると、SL(蒸気機関車)が堂々と展示されているのが目に入りました。
かつて熊本~人吉間を走っていた 「SL人吉」 の車両は、今もこうして広場に保存され、その存在感を放っています。
真っ黒なボディに輝く車輪、力強いフォルムは、停車していてもなお、当時の迫力を感じさせます。
このミニトレインは、SL特有のサウンドとスモークを再現しており、実際に乗車することができるそうです。
運賃は往復400円(片道200円)で、館内を一周するコースとなっているようです。
さらに、屋上からは1911年に建設された国内唯一の現役石造機関庫である 「人吉機関庫」 を眺めることがでようです。
訪問当日は、ミュージアムショップが休業中であったため、どちらも体験できずでしたが次訪れる際には是非ともミュージアムショップを楽しみたいと思います。
人吉の夜—「すし みむろ」で味わう江戸前寿司
人吉で本格的な江戸前寿司を味わえる 「すし みむろ」。
店主の実家は、かつて人吉で愛された寿司店 「三駒ずし」 だったものの、もともと家業を継ぐつもりはなく、銀座の名店で修行を積んでいました。しかし、2020年の熊本豪雨で実家が全壊。それを機に地元に戻り、「すし みむろ」をオープンさせました。
寿司は、豊洲市場から仕入れる上質なネタと、人吉の地元食材を掛け合わせた江戸前スタイル。熟成や昆布締めなど、繊細な仕事が施された一貫ごとに、職人の技術とこだわりが感じられます。
さらに、銀座仕込みのホスピタリティ も魅力のひとつ。丁寧な接客と心地よい空間の中で、じっくりと寿司を味わえるのが特徴です。
豪雨被害を乗り越え、江戸前の技術とおもてなしの心を携えて生まれた「すし みむろ」。人吉の夜にふさわしい、特別な一食となりました。
食事を終えた後は、熊本市内へ戻ることに。 旅の余韻を感じながら、夜のドライブを楽しみつつ、人吉をあとにしました。
DAY3
福岡へ戻る前に玉名市へ
旅の最終日は、熊本市内を出発し、福岡へ戻る途中で 玉名市 に立ち寄ることにしました。
玉名市は、熊本県北部に位置し、温泉やラーメンの名店、歴史的な神社仏閣が点在する街。のどかな田園風景が広がり、ゆったりとした時間が流れています。
旅の締めくくりにふさわしい場所を巡りながら、最後まで熊本を満喫する一日になりそうです。
玉名市のレストラン「Peg」に到着
福岡へ戻る途中、ランチのために玉名市にあるレストラン 「Peg」 へ
まずは同じ敷地内にあるパン屋 「ROK」 へ立ち寄りました。
「ROK」は、「Peg」のシェフの奥様が営むベーカリーで、無添加のパン作りにこだわったお店。
素材の味を活かしたシンプルなパンが並び、毎日焼きたてのパンを求めて多くの人が訪れます。
店内に入ると、香ばしいパンの香りが広がり、ショーケースにはフォカッチャやベーグル、食パンなどが並びます。しかし、ほとんどのパンは午前中のうちに売り切れるようです。
店内にはカウンター席があり、地元の人々がふらっと訪れ、会話とコーヒーを楽しみながらゆったりと過ごすお客さんの姿も印象的です。
購入したパンは、自宅に持ち帰り、じっくりと味わうことに。
じゃがいもとハーブのフォカッチャ
もちもちの食感に、ハーブの香りがふわっと広がる。
塩パン
表面はパリッと軽くトーストすると、さらに香ばしさが際立つ。
香心ポークの無添加ソーセージを挟んだベーグル
しっかりとした噛みごたえのあるベーグルに、熊本産の香心ポークを使った無添加ソーセージ をサンド。
ジューシーなソーセージと、ベーグルのもっちりとした食感が絶妙にマッチ。
「Peg」でのランチへ
いよいよ「Peg」へ。
「Peg」は、玉名の地元食材を活かした料理と、スタイリッシュな空間が魅力のレストラン。シンプルで洗練された店構えが印象的で、店内も落ち着いた雰囲気。
メニューには、地元産の野菜やお肉を使った料理 が並び、素材の良さを最大限に引き出すシンプルながらもこだわりのある構成。ひと皿ずつ丁寧に仕上げられた料理を堪能できました。
「Peg」でのランチを終え、草枕温泉てんすいへ
玉名市のレストラン 「Peg」 でのランチを満喫したあとは、旅の締めくくりに温泉へ向かうことに。訪れたのは、玉名市天水町にある 「草枕温泉てんすい」。
夏目漱石の名作『草枕』の舞台となった地 に位置する温泉で、雄大な景色を眺めながら湯に浸かれる絶景の露天風呂 が魅力。
施設に到着し、温泉に入ると、眼下には有明海が一望できる開放的なロケーション。
海と空が広がるパノラマビューに、旅の疲れも一気に癒されるような感覚でした。
湯は ナトリウム炭酸水素塩泉 で、肌がつるつるになる「美人の湯」としても知られています。適度なぬめりがあり、湯上がりはしっとりとした肌触りに。
温泉の後は「桃苑」でサウナ飯に玉名ラーメン
草枕温泉てんすい で絶景の露天風呂と美肌の湯を堪能したあとは、しっかりとサウナ飯を楽しむために、玉名市内の老舗ラーメン店 「桃苑」 へ。
玉名ラーメンは、熊本ラーメンの源流 とも言われ、中でも「桃苑」は、地元で長く愛される名店のひとつ。
今回は、すべてのトッピングが入った「デラックスラーメン」 を注文。
丼が到着すると同時に、店員さんが 「ニンニク入れますか?」 と声をかけてくれ、その場で たっぷりのニンニクを投入 してくれました。焦がしニンニクの香ばしい香りが立ち上り、一気に食欲が刺激されます。
スープは、豚骨ベースながらあっさりとした味わい。
麺は、中細ストレート麺。生卵を絡めると、スープがよりマイルドになり、味変としても楽しめる一杯。
熊本ラーメンの源流とも言われる玉名ラーメン。そのルーツを感じる一杯で、旅の最後を締めくくるのにふさわしい食事となりました。
温泉で整い、ラーメンで満たされたあとは、福岡へと帰路につくことに。こうして、熊本を巡る充実した旅が幕を閉じました。
エピローグ
有明海沿岸を縦断する美食旅の総括
有明海沿岸を縦断しながら、食を通じてその土地の風景や文化、人々の営みに触れる旅となった。皿の上に表現された食材の背景を知り、土地の記憶や物語を味わうことで、美食が単なる目的ではなく、旅そのものへと昇華される瞬間を感じた。復興の先に生まれる新たな挑戦、伝統と革新が交錯する一皿の奥行き、そこに込められた想いに出会うたび、食の持つ力を改めて実感する。有明海沿岸の風土が生み出す多彩な食の世界を巡ることで、地域の息づかいを感じる旅となった。