BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

一本木 石橋 について

コンセプト

福岡・平尾の住宅街にひっそりと佇む「一本木 石橋」。
一見すると静かな数寄屋造りの一軒家ですが、中に入れば、
懐石と鮨の流れを独自に再構成したおまかせ料理が、凛とした空気とともに供されます。

料理の中心にあるのは、“削りたての出汁”。
荒節・枯れ節・メジマグロ節を使い分け、注文ごとに丁寧に削ることで、
香りと旨味が一番いい瞬間を引き出しています。
そこへ、季節の野菜や魚、そして手打ちの一品や握り鮨が静かに重なっていく——
まるで呼吸を整えるように、ひと皿ごとに自然なリズムが生まれていきます。

カウンター6席と個室からなる店内は、木の香りと余白のある設えが印象的。
決して緊張を強いない、でも少し背筋の伸びるような空間で、
女将さんの穏やかな所作とやわらかな笑顔が、心地よく場を包んでくれます。

“出汁を味わうこと”と“食事の時間そのものを楽しむこと”を大切にした、
現代の食に対する、ひとつの丁寧な応答のような店です。

大将・石橋康孝氏について

「一本木 石橋」の料理を担うのは、大将・石橋康孝氏。
福岡出身。18歳で料理の道に入り、最初の修業先に選んだのは京都・高台寺「和久傳」。
日本料理の基礎と向き合いながら、素材の扱い、季節の捉え方、所作の美しさを学んだ5年間。
その後、東京・青山の江戸前鮨の名店「海味」へと移り、今度は握りと向き合う5年間を過ごします。

さらに三重「懐石かみむら」での経験を経て、約13年の研鑽を重ねたのち、2018年、地元・福岡で独立。
和食と鮨、両方の流れを身につけた料理人が、自身の表現として選んだのが、
削りたての出汁を基軸に据えたおまかせ料理でした。

料理はどれも手をかけすぎず、自然体でいて芯のあるものばかり。
素材を「どう活かすか」ではなく、「どう感じてもらうか」を大切にしているような印象があります。
「一番の目標は、“楽しい時間だった”と思ってもらうこと」
そう話す大将の人柄は、真面目さと朗らかさが同居するような、柔らかい余白を持っています。

その佇まいがそのまま料理に現れ、場の空気に浸透しているのが「一本木 石橋」なのだと感じさせられます。

レストランの評価

  • 『ミシュランガイド福岡 2019』にて、〈1つ星〉獲得店舗として掲載されています

    • ミシュラン掲載店としての実績は、福岡の日本料理・寿司ジャンルにおいて高く評価されている証です。

  • ゴ・エ・ミヨ九州版でも「3トック」評価を獲得しており、2022年~2025年連続掲載

    • 味・雰囲気・サービスが高水準で、業界内でも安定して評価され続けています。

  • また食べログ「日本料理 WEST 百名店 2025」Bronze賞にも選出されており、料理・サービス・雰囲気・コスパの全項目で4.1以上の高評価を維持中です

  • 家庭画報など各種メディアでも取り上げられ、「予約困難な人気店」として紹介され、“うにの卵とじ丼”など名物料理の称賛が目立ちます

 

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

住宅街の一角に、そっと佇む「一本木 石橋」。
まるで町家のような数寄屋造りの建物は、通りから見ても控えめで、初めて訪れる人なら一度通り過ぎてしまいそうなほど。
けれどその静かな佇まいこそが、この店の美意識を物語っているように感じます。

格子戸を抜けると、石畳のアプローチとさりげない植栽。
手入れされた青紅葉や笹の緑が、四季のうつろいをやわらかに映します。
暖簾の奥からは、やさしい灯りと、どこか張り詰めた静寂の気配。

外の喧騒がすっと遠のき、
この扉の向こうに、凛とした時間が待っていることを予感させてくれるようなエントランスです。

ダイニングスペース

店内には、6席のカウンター落ち着いた和個室が用意され、
その日の目的や人数に応じて、静かな時間を選ぶことができます。

今回はカウンターでのひととき。
檜の一枚板に黒い漆の膳が美しく並び、正面には丁寧に整えられた厨房。
料理が仕上がっていく様子、削り節の香り、包丁の音、湯気の立ちのぼる瞬間——
五感すべてで料理を受け取ることのできる、特別な空間です。

一方の個室は、障子から差し込むやわらかな光と、掛け軸や床の間が迎えてくれる、
静謐な茶室のような設え。
どちらを選んでも、「一本木 石橋」の世界観をじっくり味わえる造りとなっています。

メニュープレゼンテーション

「一本木 石橋」では、昼夜ともに完全予約制のおまかせコースを提供。
季節の食材と削りたての出汁、そして鮨を柱に構成されたコースは、
価格帯やボリュームに応じて3種類が用意されています。

  • 【昼】おまかせコース 11,000円(税込)
     ※最も人気のあるコース。ランチタイムでも、品数・満足度ともに充実した内容。

  • おまかせコース    18,000円(税込)
     夜のスタンダード。鮨と和食のバランスに加え、季節の特別食材も盛り込まれる構成。

  • おまかせコース    22,000円(税込)
     特別な食材や、より深みのある構成を楽しみたい方向けのプレミアムコース。

今回は、昼の11,000円コースを選択。
限られた時間の中でも、出汁の魅力や握りの妙味、そして焼き物・ご飯物・甘味まで抜かりなく、
「石橋らしさ」がしっかり伝わる構成です。

スタータードリンク

まずは生ビールで乾杯。
昼の静けさの中でグラスを傾けながら、緊張と期待がゆっくりほどけていきます。

続いて供されたのは、青紫蘇の香りを移した香煎湯。
身体の内側から温め、五感をそっと目覚めさせる、静かな導入。

そこへ、食前酒が竹筒に注がれて登場。
清涼感とともにどこかやさしい甘みを含んだ一杯で、香煎湯とはまた異なるかたちで、次なる料理への橋渡しをしてくれるようでした。

実際に味わった料理

冷製茶碗蒸しとムラサキウニ

最初の料理として供されたのは、冷製の茶碗蒸し。
とうもろこしのすり流しがふわりと重ねられ、その上に宗像産のムラサキウニが添えられています。

茶碗蒸しの柔らかな口当たりと、とうもろこしの自然な甘み。
そこにムラサキウニの塩味と海の香りが重なることで、素材の個性が優しく交差していきます。

涼やかでありながら、滋味深く、口内に残る余韻もまた美しい——
初夏の幕開けを告げる、静かな一皿でした。

丸茄子のオランダ煮

椀の蓋を開けると、ふわりと立ちのぼる削りたての鰹出汁の香り。
中には、大阪の丸茄子を揚げてから丁寧に含ませたオランダ煮がひとつ。
柔らかく火が通された茄子が、出汁をたっぷりと湛えながら、口の中でじんわりとほどけていきます。

揚げたことで引き出された甘みと、削りたての鰹の旨味が重なり、
ひと口ごとに染み入るような静けさを感じさせる、端正な一椀でした。

五島列島 金目鯛の湯引き

この日の魚は、五島列島で揚がった金目鯛。
通常、九州の金目鯛は扱わないというご主人が、「今回の個体は状態が良かった」と仕入れを決めた一枚。

皮目を湯引きして、わさび醤油でシンプルに。
湯引きによって際立つ皮の香ばしさと、身のしっとりとした甘みが印象的で、
火入れの加減と包丁の冴えが、そのまま伝わるようなひと皿。

素材と真摯に向き合う姿勢が垣間見える、静かで潔い構成でした。

握り①:伊勢湾 鰆の炙り

握りの幕開けは、伊勢湾で水揚げされた鰆。
「脂は薄いけれど、味が濃い」と語る大将の言葉通り、
余計な脂がない分、炙った皮目から立ちのぼる香ばしさと、身の旨味がじんわりと広がります。

軽やかでありながら、記憶に残るしっかりとした味わい。
握りの一貫目として、ぴたりと気持ちを切り替えてくれるひと口でした。

握り②:玄界灘 鯵

続いては、玄界灘の鯵。
しっかりと脂がのりながらもくどさはなく、ほどよく締めた身には清々しささえ漂います。

この鯵の脂と、ご主人が握るシャリとの相性が見事で、
温度・酢の利かせ方・ほどけ方——すべてが調和し、一貫として完成されたバランスに。
素材とシャリが拮抗せず、互いを引き立て合う繊細な設計が光るひと品でした。

握り③:壱岐 メジマグロの漬け

三貫目は、壱岐で揚がったメジマグロを漬けで。
若い鮪ならではの軽やかさを活かしつつ、漬けにすることで旨味を引き出し、酸と塩気を整えたひと品。

シャリにふわりと重ねられた身は、舌の上でほどけるように馴染み、
淡さの中にもしっかりと輪郭を持った味わいが残ります。

握りの流れの中で、緩急の“緩”を担うような、穏やかでしなやかな存在でした。

新ゴボウ、ヤングコーン、アスパラガスの胡麻和え

三貫の握りが終わったタイミングで供されたのは、胡麻和えの小鉢。
新ゴボウの香り、ヤングコーンの甘み、アスパラガスの青み。
そこに厚揚げの柔らかさが添えられ、それぞれの食材が持つ個性を胡麻のコクがひとつにまとめています。

一連の海の流れから一転、土と青の香りに包まれるこの皿は、
食のリズムを静かに整え、後半への入り口を穏やかに開いてくれるような存在でした。

琵琶湖の稚鮎と里芋 新生姜の餡掛け

琵琶湖から届いた稚鮎を主役に、出汁で炊いた里芋、そこへ新生姜の餡をとろりと重ねた温物。
小さな稚鮎のほろ苦さが、春から夏への移ろいをそっと告げ、
しっとりと火の入った里芋が、その苦味を受け止めるように寄り添います。

上からかけられた餡には、控えめながらも確かな新生姜の香り。
全体を包み込むように風味を引き締め、やわらかくも芯のある味わいに仕上がっていました。

煮えばな 梅と大葉の雑炊

炊き始めたばかりの米の芯を残した「煮えばな」に、
梅の酸味と大葉の香りを重ねた雑炊仕立て。

ほのかに立ち上る蒸気とともに、炊き立ての米の甘さがやさしく広がり、
梅の清涼感と大葉の爽やかさが、口の中をすっと洗い流していきます。

緊張と集中の時間を終えたあとに、静かに余韻へと導いてくれるような一杯でした。

白ごはんと削りたての鰹節

最後に供されたのは、削りたての鰹節と炊きたての白ごはん。
茶碗にふわりと盛られた米の上に、薄く削られた鰹節をのせ、
そこへほんの少し、醤油を垂らす。

熱でゆらゆらと動く鰹節は、まるで踊るように湯気に揺れ、
その香りが立ちのぼる瞬間、場の空気がすっとほどけていく。

添えられた漬物の塩味が、味覚の輪郭を戻し、
心まで満たされていくような、静かな締めの一膳でした。

まぐろ節でいただく、二膳目の白ごはん

そして、もう一杯──次はまぐろ節で。

鰹よりもやや深みのある香りと旨味。
同じ白米にのせても、醤油を垂らした瞬間に立ちのぼる香りはまた別の表情を見せ、
熱でふわりと踊る姿に、思わず箸が止まらなくなる。

削り節の違いが、記憶の輪郭にそっと触れてくるような、やさしい締めの時間でした。

デザート & フィナーレ

焼きれんこん餅

甘味の前に供されたのは、ご主人の修業先でもある京都「和久傳」の名物、れんこん餅をアレンジした一品。
すりおろした蓮根のもちもちとした食感に、香ばしく焼き上げられた表面のコントラストが心地よく、
一口ごとに蓮根の自然な甘みと、わずかな塩気がじんわりと広がります。

修業の記憶を、いまの感性で焼き上げたような、
ひと皿に込められた時間と背景を感じさせる味でした。

白桃の自家製アイスクリーム

最後に供されたのは、白桃の自家製アイスクリーム。
すっとスプーンが入るなめらかな質感。ひと口で、白桃の優しい香りとみずみずしい甘さが広がります。

過剰な装飾はなく、ただ素材の清らかさをそのまま引き出したようなひと皿。
穏やかなコースの締めにふさわしい、涼やかな余韻を残してくれました。

結び:女将の点てるお抹茶

最後に静かに差し出されたのは、女将が点てる一服のお抹茶。
丁寧な所作とともに運ばれるその姿は、料理の時間をそっと結び、余白へと導くよう。

やわらかく立ちのぼる香りと、やや力強い苦み。
それを口に含んだ瞬間、この日いただいた料理の記憶が、ゆるやかにひとつに繋がっていく感覚がありました。

まとめと感想

昼の静けさのなかで始まった「一本木 石橋」での食事。
香煎湯と食前酒からはじまり、冷製茶碗蒸しや丸茄子のオランダ煮、握り三貫に続く品々は、どれも構成に無理がなく、自然な流れの中で味わうことができました。

なかでも印象に残ったのは、出汁のやさしさと鮨の繊細なバランス。
シャリと魚の相性を的確にとらえた握りは三貫に絞られており、それぞれに個性が光っていました。

ご主人の技と真摯な姿勢、そして女将の穏やかな所作に包まれながら、
食の緊張とやわらぎ、そのどちらもが心地よく流れる、楽しいひとときでした。

また季節を変えて訪れたくなる、余韻ある一軒です。

予約とアクセス情報

  • 電話予約
     092‑534‑7560

  • Web予約
     ・食べログポケットコンシェルジュOMAKASETableCheckなどから完全予約制コースを申込可(※リクエスト予約→店から承認される流れ)
     ・お子様・食材の制限がある場合は、事前に問い合わせが推奨されます

  • キャンセル料
     ・当日キャンセル・無連絡:100%
     ・前日キャンセル:50–75% ※予約経路により異なる

 営業時間
  • 昼の部:12:00〜15:00(L.O.13:30)

  • 夜の部:18:00〜22:00(L.O.20:00)
    (※不定休)

 アクセス・所在地
  • 住所:福岡県福岡市中央区平尾1-9-13

  • 最寄駅
     ・西鉄天神大牟田線「西鉄平尾」駅から徒歩約6〜7分
     ・地下鉄七隈線「薬院」駅から徒歩約8〜10分

  • 駐車場:なし(近隣コインパーキング利用)

支払い・席数・その他設備
  • クレジットカード対応(VISA・Master・JCB・Amex・Diners)

  • 総席数14席(カウンター6席+8名用個室)

  • 全面禁煙/お子様同伴可(個室利用、要相談)

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「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

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地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

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