BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

中國菜 奈良町 枸杞(くこ)について

コンセプト

奈良・ならまちの一角に静かに佇む「中國菜 奈良町 枸杞」。
長い歴史と文化が息づくこの地にあって、枸杞が目指すのは「身体に染み入る中華」。

香辛料や油脂を過度に効かせるのではなく、旬の食材の旨みと滋味を丁寧に引き出す調理法。
中国料理の技法をベースにしながらも、奈良の土地に根ざした野菜や発酵調味料を自在に取り入れ、どこか懐かしく、そして新しい味わいを生み出している。

枸杞という名の通り、薬膳の要素も随所に感じられ、食後の余韻まで心地よい。
華やかさよりも滋味深さ。
日々の食事の延長線上にある“凛とした中華”を提案する、稀有な一軒です。

シェフについて

料理を手がけるのは、オーナーシェフ・宮本和幸氏
「福臨門」「老四川 飄香」といった名店で本格的な修業を重ねたのち、地元・奈良で独立。

広東・四川の技法を土台に、薬膳や発酵を取り入れながら、身体に寄り添う中華を追求している。
自家栽培の中国野菜や奈良の伝統野菜、発酵調味料を駆使し、「身土不二」「医食同源」を軸に据えたコースを展開。
香辛料や油脂を控えめに仕立てた料理は、静かに、そして深く心身に沁みわたる。

 

レストランの評価

枸杞の実直な料理と自然へのまなざしは、国内外で着実に評価を積み重ねている。

2022年には、ミシュランガイド京都・大阪+奈良一つ星を獲得。
さらに、持続可能な取り組みに贈られる「グリーンスター」も同時受賞。
高い技術に裏打ちされた料理と、食材の循環や環境配慮への姿勢が評価された結果だ。

加えて、ベルギー発のサステナブルレストラン格付け「We’re Smart® Green Guide 2024」では、
最高評価に次ぐ「4ラディッシュ」に選出。日本からの選出はごくわずかで、枸杞の哲学が国際的にも認められている証といえる。

そして2025年、国内グルメサイトの権威「The Tabelog Award 2025」では、ついにSilver賞を受賞。
前年のBronzeから着実にステップアップを果たし、西日本の中国料理店としても随一の評価を受けている。

「中国料理 百名店 WEST」にも複数年連続で選出されるなど、
その静かな中華は、評価という“声”によって確かに広がっている。

 

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

ならまちの細い路地を歩いてゆくと、ひっそりと佇む一軒の町家。
瓦屋根と格子戸が印象的なその建物こそ、「中國菜 奈良町 枸杞」。

大きく主張する看板はなく、代わりに季節の草花がそっと迎えてくれる。
暖簾をくぐると、静けさがすっと流れ込んでくるような感覚に包まれる。

木のぬくもりを感じる引き戸や、丁寧に掃き清められた玄関まわり。
店に入る前から、この空間がただの“中華料理店”ではないことが伝わってくる。

歴史ある町並みに溶け込みながらも、どこか凛とした空気を纏った外観。
それはまるで、料理の輪郭を静かに示すプロローグのよう。

ダイニングスペース

引き戸を開けて足を踏み入れると、そこに広がるのは静謐な空間。
梁を見上げる古民家の趣と、中国茶館を思わせる凛としたしつらえが同居する、独特の空気感。

席数はわずか──厨房を臨むカウンターが中心で、余白を大切にしたレイアウト。
過剰な装飾はなく、無垢材のテーブルや陶器のうつわ、控えめな照明が、空間に自然な呼吸をもたらしている。

料理に集中できる静けさ。
それでいて、背筋を正して迎えるような緊張感ではなく、むしろゆるやかで、心がほどけていくような居心地の良さ。

すぐそばの厨房からは、蒸気の香りや包丁の音が静かに届く。
この空間全体が「料理の一部」として機能している、そんな感覚にすらなる。

メニュープレゼンテーション

ランチで提供されるのは、点心と飲茶を軸にしたコース
その日の内容は、料理の提供前にスタッフから丁寧に口頭で説明されるスタイル。

メニュー表は用意されておらず、撮影も不可。
そのぶん、一皿ごとに出会う“驚き”と“流れ”が大切にされている印象を受ける。

コースの途中には、希望すれば麻婆豆腐を追加することも可能。
辛味・香味を抑えながらも奥行きのある味わいで、選ぶ人も多い人気のひと皿。
この追加については、予約時に選ぶのではなく、当日その場で声をかけてもらえる

ドリンクは中国茶をはじめ、自然派ワインや紹興酒も揃う。
香り高い鉄観音や薬膳茶など、料理との相性を考慮した品揃えで、食事の流れに寄り添ってくれる。

視覚に頼らず、味と香りの記憶でたどる。
そんな特別なコースの楽しみ方が、ここにはある。

スタータードリンク

最初の一杯は、福建省・面堂地区の番茶をドリンクメニューから選択。
合わせる湧き水は、店側が茶葉に合わせて選んだ奥伊勢のもの。
硬水でありながら、ヨーロッパのそれとは異なるやわらかさがあり、茶葉の香りをすっと引き出す。

実際に味わった料理

前菜五種

大和肉鶏のよだれ鶏
しっとりと火入れされた大和肉鶏に、香味ダレがじんわりと重なる。
弾力ある肉質に、ふわりと可憐なエディブルフラワーが添えられた、穏やかで余韻あるひと皿。

四川風スパイシーカシューナッツ
カリッと香ばしく揚げたカシューナッツに、四川スパイスの香りをひとまとい。
辛さ控えめ、香り高く、口の中でふわりと広がる静かな刺激。

紫大根の発酵唐辛子漬け
薄くスライスした紫大根を、発酵唐辛子と醤油で漬け込んで。
ピリッとした辛味と発酵の深みが交錯し、他の前菜に短く鋭いアクセントを添える。

高知県産カンパチとジャオマ、あじまるみ大根
脂の乗ったカンパチに、ジャオマ(香味唐辛子油)が静かに寄り添う。
上には、奈良の在来種「あじまるみ大根」のスライスが。
控えめな酸と軽い辛味が、魚の甘みをぐっと引き立てる。

スナップエンドウと中国漬物の和えもの
軽やかな歯ざわりのスナップエンドウに、中国漬物の旨味を重ねて。
素材の青さと発酵の深みが寄り添い、前菜のなかで静かなコントラストを描くひと品。

養生スープ

碓井豆とハトムギのやさしい甘みを軸に、干し貝柱や干し海老、大和橘、白木茸がふくよかな旨みを重ねる。
ひと口ごとに身体がほぐれていくような、穏やかな余韻。
華やかではないけれど、確かに沁みる。
毎日飲めたら、それだけでちょっと幸せになれそうなスープ。

飲茶の登場

蒸籠の蓋を開けた瞬間に立ちのぼる、ふわりとした湯気と香り。
滋味深く、それでいてどこか華やかな點心の時間が始まる。

もち米とヤマトポークのシュウマイ
ほろっとほどけるもち米に、旨味の強いヤマトポーク。
合わせるのは、“健康野菜”として知られる雲南百薬
ねっとりとした米と香味野菜の余韻があとを引く。

ヤマトポークの小籠包
薄皮をそっと破ると、肉汁がふわりと溢れ出す。
ヤマトポークの旨味に寄り添うのは、針生姜を添えた特製のタレ。
まろやかでコクがありながら、後味はすっきりと整えてくれる
そのままでも、タレとともにでも、それぞれに異なる余韻が楽しめる。

海老とニラの蒸し餃子
朝採れのニラが力強く香り、海老のぷりっとした食感とのコントラストが絶妙。
何もつけずにそのままで、味の設計が完成している。

ウイキョウの蒸し餃子
爽やかさのある甘みが印象的な、フェンネル(ウイキョウ)を使った一品。
蒸すことで立ち上がるハーブの香りが、飲茶に一瞬の清涼をもたらす。

すべての餃子に共通するのは、皮の薄さと火入れの緻密さ
小さな蒸籠の中で、野菜と肉と香りがきちんと共鳴している。

広東式春巻きと自家製豆板醤
香ばしく揚げられた春巻きの中には、朝採れの一寸そら豆がごろり。
豆のほくほくとした甘みが広がるやさしい構成に、添えられたのは、そら豆から仕込んだ自家製の豆板醤
好みで少し添えると、ふわりとした辛味と発酵のコクが、余韻をひとつ深くしてくれる。

もち米の揚げ餃子
皮にもち米を用いた餃子は、外はカリッと香ばしく、中はもっちりとした食感。
餡の旨みがしっかりと包まれ、シンプルながらも食感のコントラストが際立つ。
一口で満足感のある、温菜のアクセント。

大和肉鶏と原木椎茸のXO醬蒸し

大和肉鶏と奈良県産の原木椎茸を、自家製XO醬でじっくりと蒸し上げた一品。
XO醬のコク深い旨味が蒸気とともに全体に行き渡り、鶏のしなやかな弾力と椎茸の香りが一体に。
表面にはもち米をまぶし、口にしたときの食感にやさしい変化を加えている。
香りと滋味がふわりと立ちのぼる、穏やかで力のある蒸し皿。

 

自家製カレー醬の蒸し饅

ふっくらと蒸し上げた生地の中に、自家製のカレー醬を練り込んだ餡。
まろやかな香辛料の香りがふわりと立ちのぼり、噛むほどに甘みとスパイスがほどよく広がる。
辛味は控えめ、どこか懐かしさすら感じさせるやさしい仕立て。
コースのなかにほんの少し遊び心を添えるような、温かな一品。

 

〆の一皿

ラストは、麻婆豆腐に麺または広東式チマキを合わせて選べるスタイル。
選んだのは、蓮の葉で包んだ蒸しチマキ。

広東式 蓮の葉チマキ
蓮の葉を開くと、ふわりと立ちのぼる香りが静かに広がる。
中には、飛鳥村の黒米を混ぜたもち米に、塩漬けのアヒル卵黄、旨味のある大和肉鶏、奈良県産の椎茸を忍ばせて。
食べる際は蓮の葉を裏返して、香りごとゆっくりといただく。
穏やかな熱と深い香りに包まれる、静かな着地のひと皿。

麻婆豆腐
コースの終盤に登場する麻婆豆腐は、大和ポークの旨味発酵野菜の酸味と香りが見事に融合したひと皿。
辛味は抑えめながら、奥行きのあるコクと香りが立ち上がり、体の内側からじんわりと熱を帯びるような感覚。
白湯のように優しいのに、輪郭はしっかり。
最後まで「枸杞らしい中華」の輪郭を保ったまま、力強く締めくくってくれる。

デザート & フィナーレ

自家製杏仁豆腐 パッションフルーツソース

とろんと舌に寄り添う自家製の杏仁豆腐に、沖縄県産のパッションフルーツソースをひとさじ。
果肉とともに散らされた種のつぶつぶが、柔らかな食感に小気味よいアクセントを加える。
甘みの中に、軽やかな酸味がすっと通り抜ける、爽やかな一品。

マーライコウラオザオ

香港式の蒸しカステラ「マーライコウ」に、自家製で発酵させたもち米のソース(ラオザオ)を合わせて。
ふわっとした生地に、発酵のほのかな甘みとコクが溶け込んで、まるで熟した果実のような香り立ち。
やさしい温度と、奥に残る余韻が印象的な締め。

 

まとめと感想

奈良町の静けさとともに始まった枸杞での食体験は、どの皿も肩の力が抜けていて、それでいてしっかりと芯のある構成だった。

点心と飲茶を中心に据えたランチコースは、奈良の在来野菜や発酵のニュアンスが静かに重なり合い、気づけば余韻が深く残っている。
特筆すべきは、野菜のほとんどが自家農園で朝に収穫されたものであること。
香りも食感もみずみずしく、それが料理全体の印象に確かな輪郭を与えていた。

蒸籠から立ち上がる香りとともに供された点心の数々は、火入れ・包み・味つけの緻密さが際立ち、思わず笑みがこぼれる瞬間が何度も。
そして終盤の麻婆豆腐は、発酵野菜の香りが主役となったような、まろやかで深みのある味わい。
辛味に頼らずとも、香りで引っ張っていける──そんな余韻が、強く記憶に残る一皿だった。

派手な演出はない。けれど、一つひとつの皿が自然と記憶に刻まれていくようなコース。
“身体にやさしい”を超えて、“記憶にやさしい”とでも呼びたくなるような、そんな中華がここにはありました。

 

予約とアクセス情報

予約方法
  • 完全予約制で、毎月1日の21時から翌月分の予約受付が開始されます。
    例:8月分の予約は7月1日21時にスタート

  • 予約はInstagramFacebook公式Webサイトの案内に従って行いましょう

  • 予約枠は人気で争奪戦となることも。抽選方式の案内がある月もあります

 アクセス情報
  • 住所:奈良県奈良市紀寺町913‑2

  • 最寄駅・所要時間:

    • JR桜井線 京終駅 徒歩約11〜12分(約730 m)

    • 近鉄奈良駅 徒歩16〜20分(1.3 km)

  • バス利用:

    • JR奈良駅/近鉄奈良駅から「紀寺町」バス停まで→徒歩すぐ

  • タクシー利用も便利。道中の町家風景も魅力です

 営業時間・定休日
  • 営業日:火・水・木・金・土曜日のみ

  • ランチ:11:30〜14:00(スタートは11:30~12:00、スタート時間厳守)
    現在ランチはお休み中、再開はInstagramで告知予定

  • ディナー:18:00〜21:00(18:00に一斉スタート)

  • 定休日:月・日・祝日+不定休あり

 料金・支払い
  • ランチ:5,000~5,999円/ディナー:15,000~19,999円(口コミ平均)

  • カード・電子マネー不可。PayPayなどQR決済のみ利用可

  • ドリンク注文なしの場合、サービス料10%あり

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MIZUMACHI
「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

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