BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

炭とおがわ について

コンセプト

福岡・中洲川端の雑居ビルの3階、看板も控えめに構える「炭とおがわ」は、五席のみの特別な空間で、炭火の香りを纏わせた懐石料理を提供する日本料理店。
静けさの中に熱を感じさせるカウンターで展開されるのは、九州の豊かな旬食材と、炭の火入れを掛け合わせたストイックでありながら遊び心ある料理構成。備長炭の熱を芯まで入れた鰻や、素材の魅力を引き出す炙りや蒸しの技術など、一皿ごとに「火」の表情が変わる。

さらに、料理の最後に手渡される解説ブックレットや、器や盛り付けにも込められたストーリーが、食べ手の想像力をくすぐる。茶碗蒸しや白味噌仕立ての汁物といった“静”の料理と、マトリョーシカのように層になった“遊び”の演出とのコントラストも見事で、懐石という枠を超えた「劇場」のような体験を完成させている。

すべては炭火を操る1人の料理人の手で構成される、熱量のこもったコース料理。席数が限られているからこそ、料理の温度、香り、音、そして余白までもが精密に設計されている。

小川浩次郎 大将について

「炭とおがわ」のカウンターに立つのは、大将・小川浩次郎(おがわ こうじろう)さん。
料理の世界に飛び込んだのは京都。名店「瓢亭」で6年間にわたって修業を積み、基礎から日本料理の神髄までを学ぶ。若き才能として頭角を現し、2014年には若手料理人の登竜門「RED U-35」でブロンズエッグを受賞。着実に経験を重ねながら、福岡の地で料理長も務めたのち、2022年、自身の理想を形にする場として「炭とおがわ」をオープンした。

料理一家に生まれ、兄も京都で予約困難店を営むという環境のなかで磨かれた感性と、関西と九州の味の融合、そして火入れに対する圧倒的なこだわりが彼の料理の核をなす。

もともと五席の空間をひとりで切り盛りする“ワンオペ”スタイルにもかかわらず、その所作に迷いはなく、料理の合間には冗談も交えながらゲストとの会話を楽しむ柔らかさも。料理人というより演者に近い存在感で、食を通じて情熱と誠実さを届けてくれる。

レストランの評価

福岡・中洲川端の「炭とおがわ」は、オープンから間もなくして予約困難店と評されるようになり、現在では全国から食通が集まる注目の日本料理店となっています。その人気の理由は、単に美味しいというだけでなく、料理の構成力・炭火の技術・演出の巧みさ・接客の心地よさがすべて揃っていることにあります。

特に評価が高いのは、備長炭を用いた火入れの巧みさ。鰻や石鯛といった魚介に対して、直火の香ばしさとふっくらとした食感を両立させる技術は「見ているだけで楽しい」と言われ、カウンター席の特権ともなっています。コース全体は毎月変わる構成ながら、どの皿にも火の表現があり、訪れるたびに新たな発見があるとの声が多数。

また、「このクオリティでこの価格は信じられない」というコストパフォーマンスへの驚きも、繰り返し挙げられるポイントです。使用される食材は九州各地の旬のものを中心に構成され、料理の背景には土地の季節や文化が感じられると好評。器や盛り付け、説明冊子に至るまで細部への配慮が行き届いており、「一品ごとにストーリーを感じる」との印象を残しています。

さらに、カウンター越しに調理を一手に担う大将のライブ感ある所作と柔らかな人柄にも高評価が集まっています。力強く炭を扱う姿と、ゲストへの丁寧な声かけとのギャップが好印象で、「料理人であり演者でもある」と表現されるほどの存在感。

コースの締めにはユーモアのある演出もあり、最後まで飽きさせない構成力も評判。とりわけリピーターからは「月に一度でも飽きない」「次回のコースが楽しみ」といった声が多く、定期的に通うファン層も厚い様子です。

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

中洲川端駅から徒歩数分。雑居ビルの3階というロケーションながら、その扉の向こうにはまるで別世界が広がる。

エレベーターを降りてすぐ、白いのれんに静かに記された「炭とおがわ」の墨文字。潔く端正なその佇まいには、余白を大切にする日本料理の美意識が感じられる。
入り口の横にはしめ縄と紙垂(しで)が飾られており、清らかさと神聖さを同時に演出。
足元には大きな壺がひとつ配され、店内から差し込む柔らかな灯りがその影を美しく映し出している。

控えめでありながら、引き戸をくぐる瞬間に心がすっと整うような、凛とした迎えの空間
まるで茶室に入る前の露地を思わせるような清潔感と静けさが、この後に続くひとときを予感させてくれる。

ダイニングスペース

のれんをくぐると現れるのは、わずか五席のみのカウンター
無垢の木を贅沢に使ったL字型のカウンターは、どの席からも料理人の所作が正面から見渡せるよう設計されており、まさに料理の“舞台”を囲む客席のような佇まいです。

天井は緩やかにカーブを描く木目仕上げで、間接照明が柔らかく反射し、温もりある空気感を醸成。壁面は白のタイル張りで清潔感がありながらも、奥に進むほどに静寂が深まっていくような静かな気配が漂います。

カウンターの奥には、炭火台を中心としたオープンキッチン。
大小の包丁が整然と壁に並び、手入れの行き届いた道具類からは、料理人の緻密な性格と美意識が伝わってきます。調理台上部の黒い換気フードと、吊り下げられた鉄瓶のような道具が、空間に引き締まった和のアクセントを加えています。

各席には専用の折敷(おしき)と箸置き、清潔に畳まれた白いナプキンが配され、一席一席が丁寧に“もてなしの場”として用意されている印象
喧騒とは無縁のこの空間で味わう炭火の香りと料理は、外の世界を忘れさせるような集中力と特別感を与えてくれます。

メニュープレゼンテーション

劇場の幕が上がるように、静かに始まる一夜のコース。

目の前に広がるのは、炭火台を中央に据えた美しいカウンター。わずか五席のこの空間では、料理を「観る」こともひとつの楽しみとして設計されている。
客席はまるで舞台の最前列。火の音、香り、音、立ちのぼる湯気までもが演出となり、ひと皿ごとに視覚と嗅覚が誘われる、五感の食体験が幕を開ける。

食後に手渡される一冊の献立冊子には、料理名だけでなく産地や調理法、器に込めた意味までが記されている。
一皿一皿がストーリー性を持って立ち現れる構成に、自然と引き込まれていく。

料理が始まる前から、すでに気持ちは高まり、五感が研ぎ澄まされている。
「炭とおがわ」のコースは、ただ食べるだけでなく、舞台を体感するような時間そのものなのだと実感させてくれる、そんなプロローグ。

実際に味わった料理

毛蟹と白子酢の土佐酢ジュレがけ

コースの幕開けを飾るのは、毛蟹に胡瓜の白子酢を合わせた冷菜
艶やかに剥かれた毛蟹の身に、丁寧に裏ごしした白子酢がなめらかに絡み、土佐酢のジュレが清涼感を添えています。口に含めば、優しい酸味がふわりと広がり、春の香りを先取りするような一体感。

上には花穂紫蘇(はなほじそ)があしらわれ、ほのかな香りと彩りがひと皿に春の息吹を宿します。
透明感あるカットグラスに盛り付けられたビジュアルも印象的で、最初の一品で早くも心をつかまれる。

「最初の一皿にして、すでに帰りたくなくなる」
そんな声が聞こえてきそうな、繊細さと高揚感のバランスが見事なスターターでした。

石鯛の炭たたき|行者ニンニクとトマトの巻き物仕立て

続くひと皿は、「炭とおがわ」の真骨頂とも言える炭火の演出が光る一品。
カウンターの目の前で真っ赤に焼かれた炭棒が登場し、捌きたての石鯛の表面を一気に炙る様子は、まさに“ライブ調理”の醍醐味。
立ち上る香ばしい煙と、パチッと弾ける炭の音。すでに五感が刺激される中、皿の上には極薄に引かれた石鯛が艶やかに並びます。

この石鯛には、香味豊かな行者ニンニクと爽やかなトマトを細く巻き込むように重ね、山葵をきかせたポン酢でいただく趣向。
咀嚼するごとに、脂ののった石鯛の旨みに、行者ニンニクの力強さとトマトの酸味が重なり、口内でひとつの完成された世界が立ち上がります。

その味わいもさることながら、料理が仕上がっていく過程を間近で楽しめる構成は、まさに“火と香りの劇場”。
五席だけの空間だからこそ可能な、料理が出来上がる瞬間を共に味わう贅沢を実感させてくれるひと皿でした。

大隅半島産 鰻の捌きと炭火焼き

コースの中盤、再び高揚感を呼び起こすひと幕が訪れます。
登場したのは、鹿児島・大隅半島から直送された活き鰻。桶の中でぬらりと動くその姿からは、命ある食材への敬意と緊張感が自然と伝わってくる。

大将自らが手袋をはめ、板の上で鮮やかに捌いていく様子は、まるでひとつのパフォーマンス。
関西風でも関東風でもない、独自の手法で背開きされた鰻は、骨を丁寧に抜かれ、美しい銀皮をのぞかせながら、炭火へと託されていきます

この段階ではまだ供されず、火入れと蒸しの工程を経て、後半のひと皿として改めて登場するとのこと。
その“プロローグだけ見せておき、後で回収する”構成が、まさに演出の妙。目の前で捌かれた鰻が、どう変化して再登場するのか──期待感とともに、次の皿へと気持ちが導かれていきます。

碓井碗豆の豆ごろも

季節の移ろいをそっと告げるように登場したのは、碓井碗豆を主役に据えた一品
きらきらと輝くガラスの器の中には、淡いグリーンに包まれた豆の粒がふっくらと並び、見るだけでも心がほぐれるような、柔らかな佇まい。

碓井碗豆は、長野・松本地域で古くから栽培されている在来種。その風味はどこかミルキーで、青さを残しながらも雑味がなく、優しい甘みが特徴です。
その豆をすり流しのように軽くとろみをつけた出汁に絡め、“豆ごろも”として仕立てることで、春の光を閉じ込めたような一口に。

口に運ぶと、やわらかく潰れる豆の甘みと、ほんのり温かいとろみが静かに広がり、どこか懐かしさを感じるやさしい味わいに包まれます。
出汁は穏やかで、決して前に出すぎず、素材そのものの魅力を丁寧に受け止めている印象。

重たくなりがちなコースの中盤で、この一杯が差し挟まれることにより、春らしい軽やかさと余白が生まれる
滋味深く、それでいて構えすぎない。そんな“日本料理の余韻”を教えてくれる一品でした。

椀物|蛤と木の芽の吸物

コースの中盤で供されるのは、春の滋味を凝縮した吸物
やわらかな丸みを帯びた漆椀の蓋を開ければ、湯気とともに立ちのぼるのは、蛤と木の芽の香り。思わず姿勢を正したくなるような、清らかな香気に包まれます。

主役の蛤は、有明海などの国産産地から仕入れられる肉厚なもの。出汁を含み、ふっくらと炊かれたその身は、噛み締めるごとにじんわりと貝の旨味が滲み出す
その味わいを引き立てるのが、白濁するほどにとられた繊細な出汁。蛤の殻から出る自然な濁りが美しく、透明ではなく“旨味のにごり”があるのがこの椀の個性でもあります。

仕上げに添えられた木の芽のひと葉は、鼻に抜ける爽やかさと余韻を残し、春の香りをしっかりと感じさせてくれます。
派手さはなくとも、素材の力と技術の確かさがはっきりと伝わる、静けさの中に芯のある一椀

味わいを通して季節を語り、香りで記憶を刻む。
そんな日本料理の真髄を感じさせる、美しいお椀でした。

お凌ぎ|アサリと春野菜の飯蒸し

コースの合間にそっと寄り添うように供されたのは、アサリと春の山菜をふんだんに盛り込んだ飯蒸し
湯気をまとった湯呑のような器に、滋味深い香りがふわりと立ちのぼります。

中には、ぷっくりとしたアサリの旨みを芯に据え、そこへ蕨(わらび)・空豆・筍・タラの芽といった春の恵みが贅沢に混ぜ込まれています。
それぞれがしっかりと存在感を放ちつつも、蒸し飯のやわらかな一体感に包まれ、噛むごとに異なる季節の表情が顔を出す。

あえて白味噌や出汁でとろみを加えるのではなく、素材そのものの水分と旨みを活かした蒸し加減が絶妙で、重くなりすぎない自然な滋味が印象的。
春野菜のほろ苦さ、アサリの塩気、筍の食感など、要素が多いのに調和が取れており、コースの中で“落ち着く場所”を与えてくれる存在でした。

しっかりと温かく、しみじみと心に染み入るお凌ぎ。
炭と香りの構成の中で、こうした蒸し物を挟む構成力にも、料理人の緻密な設計を感じさせます。

独活の“チュロス”

コースの中盤、ふいにカウンター越しに手渡される一品
白い紙に巻かれて差し出されたそれは、まるでスイーツのような佇まい──しかしその中身は、香ばしく揚げられた独活(うど)の天ぷら
「これはチュロスです」と大将がさらりと放つひと言に、場がふっと和む。

シャクっと音を立ててかじれば、衣は軽やかに揚がっており、中からは独活特有のみずみずしい清涼感とほろ苦さが顔をのぞかせる。
その味わいは、野菜というよりも“野草”のような野趣を湛えつつも、決して粗野にならない。絶妙な水分量を保った火入れがそれを支えている。

この“チュロス”の肝は、まさにそのバランス感覚。高温で揚げきることで、外はサクッと香ばしく、中には春野菜ならではの生命力がしっかりと残る。

そしてこのひと品を箸ではなく、手渡しで提供するという演出がまたにくい。カウンター越しに料理人から直接受け取るその所作には、ライブ感と親密さ、そしてほんの少しの遊び心が宿っている。

コース中盤に差し挟まれるこの小さな異色作が、食体験のリズムに心地よい揺らぎをもたらしてくれる。
単なるアクセントではなく、“緊張と緩和”の妙がここにも生きていました。

椀物|京都・白子筍と徳島わかめ

艶やかな朱塗りの蓋椀が供され、そっと開けると現れるのは、春の恵みを端正に映した一椀
主役は、京都から届いた白子筍。まだ皮も薄く、繊維を感じさせないほどのやわらかさで、舌の上でほどけるような食感が特徴です。

そこに寄り添うのは、徳島産のわかめ。磯の香りが立ちすぎることなく、筍の甘みと出汁の旨みをきれいに支える名脇役。
出汁は、筍の香りと滋味を主軸に組み立てられたごく穏やかなもの。決して主張は強くないが、体の内側にじんわりと染み入るようなやさしさがあります。

見た目は凛とした静けさを湛えながら、その中には季節の香り、土地の記憶、そして職人の繊細な感覚が詰まっている。
ひと口目から最後のひと滴まで、春という季節をまるごと吸い込むような体験を与えてくれる、美しい椀でした。

スペシャリテ|大隅産 鰻の白焼き

コースの中盤に姿を見せた大隅半島の活鰻が、満を持して主役として再登場
仕込みから焼きまでじっくりと時間をかけ、蒸しと炭火を繰り返しながら丁寧に火入れされた鰻は、まさに「炭とおがわ」を象徴するスペシャリテ。

今回は、あえてタレを纏わせず“白焼”での提供
ふっくらと膨らんだ身には、炭火の香ばしさと上品な脂の旨みが宿っており、ナイフがすっと入るほどのやわらかさ。
表面はほんのりと焼き目が付き、香り高く、中は驚くほどジューシーでしっとり。

皿の端には、本山葵と塩のみが添えられ、調味は食べ手に委ねられている。
山葵の辛味をほんの少し乗せて口に運ぶと、鰻の脂がきれいに引き締まり、さらに奥行きのある味わいに。塩をほんのひとつまみ添えると、甘みがふわりと際立つ。

炭を操る手元を眺めながら供されるこのひと皿には、ライブ感と緊張感、そして職人の矜持が詰まっている。
鰻=タレの常識を超える、素材と火の力を信じた一品
まさに「炭とおがわ」の真価を感じさせる、記憶に残るスペシャリテでした。

温物|桜鱒の白味噌しゃぶしゃぶ

春の名残を優しく包み込むように供されたのは、桜鱒の白味噌仕立てしゃぶしゃぶ
鮮やかな黄色の器に盛られた桜鱒は、丁寧に引かれた切り身のひとつひとつが艷やかに輝き、焼き物でも刺身でもなく“しゃぶしゃぶ”として仕立てることで、素材の繊細さが最大限に引き出されている。

目の前で炊かれるのは、白味噌をベースにしたまろやかな出汁。
火が通るごとに、花山椒の華やかな香りが立ち上がり、さらにそこへ加わるのは、クレソンのほろ苦さと玉ねぎの甘み
三種の香味が重なり合いながら、しゃぶしゃぶした桜鱒を包み込み、淡く、儚く、でもしっかりとした春の余韻を残していく。

一切れずつ箸を入れるたびに、味わいが移ろい、香りが変わる。
それはまるで、ひと雨ごとに景色を変える春のような、ゆるやかな感情の揺らぎを舌の上で体験しているかのよう。

〆に残った出汁とともに味わううどんもまた、料理としての完成度を物語っており、
炭や焼きの強さとはまた違った、包容力のあるやさしさが感じられる一品でした。

お食事|筍ご飯と白ご飯の白味噌かけ

コースの流れの中で、ひと呼吸つくように登場したのは、二種のご飯
どっしりとした締めではなく、あくまでもひとつの“挿話”のようにそっと添えられた存在感が印象的です。

ひとつは、春の香りがふわりと立ち上る筍ご飯
丁寧に炊かれた筍は、シャクシャクとした食感の中に、やさしい甘みとほんのりとした土の香り。
木の芽の清涼感とともに、器の中に“春の野辺”を思わせる静けさが漂います。

もう一方は、あえて味付けを施さない白ご飯
ここに、先ほどの桜鱒のしゃぶしゃぶで使用された白味噌仕立てのスープをかけていただく趣向。
出汁には、桜鱒の脂やクレソン、花山椒の香りがじんわりと移り、白ご飯がその余韻をまるごと受け止める。

どちらも主張しすぎず、けれど記憶にはしっかり残る、流れを整える“間”のような一品たち
この後に続く料理のための“静かな助走”として、印象深いワンシーンでした。

メイン|鰻の蒲焼きTKG

艶やかな漆のお重の蓋をそっと開けると、立ちのぼる香ばしさとともに、
ふっくらと焼き上げられた大隅半島産の鰻の蒲焼きが姿を現します。

まずは鰻だけを一口、炭火の香りとタレの奥行きをじっくりと堪能。
次に、蒲焼きをご飯とともにかき込み、白米の熱とタレが一体となる快感を味わいます

そして、ここで満を持して卵黄をそっと落とし、全体を混ぜてTKG(卵かけご飯)へと昇華
とろりとした黄身がタレごと鰻を包み込み、まさにクライマックスにふさわしい濃厚さ。
食べ進めるごとに味の重なりが深まり、ひと椀の中に「変化」と「完成形」の両方が存在する、見事な一品です。

お吸い物と香の物を挟みながら、最後の一口まで飽きることなく楽しめる。
「炭とおがわ」ならではの、劇場的な構成力と遊び心が凝縮されたスペシャリテでした。

おかわりご飯|自家製明太子・ちりめん山椒・筍ご飯

鰻の蒲焼きTKGで締めかと思いきや、さらにもうひと展開。
ここで供されるのはおかわりご飯という名の“第二のメイン”。

まずは、ほかほかの白米に自家製明太子とちりめん山椒をのせた一椀。
ふくよかな辛みの明太子に、ちりめん山椒のピリッとした香りが重なり、
素材の質の高さと丁寧な仕事を実感させます。

もう一つは、筍の炊き込みご飯を再度おかわり
おかわりと呼ぶにはあまりに贅沢で、
むしろ「ふたつめの愉しみ」と呼びたいほどの充実ぶり。
料理のラストに向かっても、決してテンションを緩めない、
「炭とおがわ」の構成力と心意気が感じられるひと皿です。

デザート & フィナーレ

デザート|きな粉とわらび餅のミニパフェ

コースの最後を締めくくるのは、和のエッセンスが凝縮されたミニパフェ
細身のグラスに、きな粉、わらび餅、黒蜜、寒天などが層を成し、
上からとろりとかける黒蜜が、香ばしい甘さのアクセントに。

わらび餅のもちもち感、寒天の涼やかさ、そしてきな粉のやさしいコク。
一口ごとに食感と風味のコントラストが変化し、
“最後まで楽しく、美味しく”という思いが伝わる構成です。

そして印象的なのが、この一皿がカウンターで仕上げられること
目の前で丁寧に盛り付けられる姿に、思わず見入ってしまう。
劇場型のコースにふさわしい、粋な演出でした。

まとめと感想

カウンターで繰り広げられる、静かな熱気と美意識。
福岡にいながら、まるで京都の名店を訪れたかのような凛とした空気感に包まれるひとときでした。

料理はどれも、余計な主張を排した“引き算の美学”が貫かれていながら、
香りや温度、舌触りに計算された抑揚があり、炭の香りや出汁の柔らかな広がりが余韻を引いていく。

手渡しで供されるひと品や、火入れの音、目の前で盛りつけられるデザート。
劇場のように五感を刺激する演出が、コース全体にリズムと温度を与えていました。

印象的だったのは、石鯛の香ばしさと、鰻を頬張る至福のご飯の流れ。
箸を進めるたびに、料理人の思考と遊び心が垣間見え、
クラシックと革新が交差する“今の日本料理”がここにあると感じさせられます。

料理、空間、所作、すべてが滑らかに一体となり、
季節が巡るたびに訪れたくなる、そんな進化を続ける一軒でした。

予約とアクセス情報

アクセス

  • 住所:福岡県福岡市博多区中洲5‑2‑5 サフィール許斐 3F

  • 最寄駅:地下鉄空港線 中洲川端駅より徒歩約1〜2分(約30〜40m)

営業時間・定休日

  • 営業:月曜〜土曜 ディナー 17:00~23:00

  • 定休日:日曜定休・祝日は不定休あり

    予約
    • 完全予約制・カウンター5席のみのプライベート空間

    • ご予約は、公式Instagram(@sumitoogawadesu)をチェック

TAGS
MIZUMACHI
「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

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