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#肉といえば松田について
コンセプト
“劇場型のカウンターで、肉を中心としたコースを”。
「肉といえば松田 奈良本店」は、その名のとおり「肉」を主役に据えつつも、和の所作と構成で静かに魅せる、少し特別なランチ体験を提供する一軒。
扱うのは、大和牛、近江牛、北海道産和牛など、部位や産地にこだわった良質な和牛たち。
それらを寿司、揚げ物、蒸し物、出汁料理といった和の技法で少しずつ表現していくコースは、シンプルながらも手数と工夫が込められています。
“しっかり肉を食べる”ことを目的としながらも、どこか静謐で品のある空気感。
一皿ごとに丁寧に構成された流れのなかで、肉が持つ表情の豊かさにじっくりと向き合える、そんなランチコースです。
料理長・増田 真志さん
「肉といえば松田 奈良本店」の料理を一手に担うのが、奈良県出身の料理人・増田 真志(ますだ しんじ)さん。
料理人としてのキャリアを歩み始めたのは20代前半。飲食の現場をいくつも経験しながら、イタリアンを中心に多様なスタイルの料理を学び、技術と感性を磨いてきた方です。
その後、大和牛との出会いをきっかけに、地元・奈良の魅力を“肉”という切り口で表現する道へ。
牛肉の部位ごとの特徴を熟知し、精肉から内臓まで幅広く扱う中で、自身のスタイルを確立していきました。
現在は、奈良の素材を中心に据えながら、和と洋の技法を織り交ぜた自由な発想で、コース料理を構成。
料理だけでなくサービスの流れや空間設計にも細やかな意識が感じられ、“肉のコース”という枠にとどまらない、立体的な体験をつくり出しています。
また、飲食事業を展開する株式会社TRIO eats.の代表としても活動されており、料理長でありながら経営の視点も持ち合わせた実力派。
料理に向き合う眼差しは静かで真摯、その背中に積み上げた経験の厚みが、皿の上にしっかりと表れています。
レストランの評価
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The Tabelog Award 2025・2024:Bronze受賞店
食べログが選出する全国の名店アワードにおいて、2年連続でBronzeを受賞。 奈良県内でもトップクラスの評価を誇ります。 -
ミシュランガイド奈良 2022 掲載店
ミシュランガイド奈良版にも掲載され、料理の質と独自性が認められています。 -
食べログ評価:4.09(2025年6月時点)
口コミ数は150件を超え、保存数は7,000件以上。 「ライブ感のあるカウンター」「和牛の多彩な表現」「コース構成の完成度」などが高く評価されています。
ダイニングプレリュード
外観 ・ エントランス
「肉といえば松田 奈良本店」が店を構えるのは、大和八木駅の目の前という便利なロケーション。スタイリッシュな外観の「FACEビル」内にあり、目立った看板はなく、控えめながらも洗練された雰囲気をまとっています。
エレベーターを降りて静かな黒壁の通路を進むと、入り口すぐ右手に堂々たる黒松の盆栽が据えられており、その存在感は圧倒的。訪れる人の意識を一瞬で非日常へと切り替えてくれます。
ダイニングスペース
ダイニングは、緩やかに弧を描く美しいカウンターが主役。全体で10席ほどのシンプルな構成ながら、黒を基調とした空間に木の温かみが滲む設えで、自然と背筋が伸びる静けさが漂います。
中央には黄金の屏風絵が埋め込まれ、和の趣を演出しながらも、所作の一つひとつがよく映えるステージのような役割も。オープンキッチンからは、料理人たちが淡々と無駄なく動く姿が見え、まさに“劇場型”のカウンターであることを実感させてくれます。
空間全体にBGMはなく、語りすぎない照明とともに、食材の香りや音に意識が自然と向かうような設計。調理の手元を追いながら、ひと皿ごとに集中できる環境が整っています。
メニュープレゼンテーション
カウンターに座るとまず目に飛び込んでくるのが、今日の食材たち。
磨き上げられたステンレスの台の上に、まるで舞台装置のように並ぶ大和牛と北海道産のヒレ肉、そして近江牛のテール。
その存在感に、思わず背筋が伸びます。
ただ食べるだけでなく、選ばれた食材が目の前に“鎮座”することで、これから始まるコースへの期待感がぐっと高まる瞬間です。
肉と真摯に向き合う“松田”の真骨頂が、この演出にも表れています。
さらに最初に聞かれるのは、ドリンクとおみやの希望。
ランチといえども、はじまりの所作が丁寧で、どこか特別感のあるひとときです。
おみやは、最初のドリンクオーダーと一緒に注文するスタイル。
今回は名物の「ヘレカツサンド」をお願いしました。
実際に味わった料理
金柑と野菜のジュース
コースの幕開けは、金柑、りんご、れんこん、人参を使った搾りたてのジュースから。
美しく透き通ったオレンジの液体は、ほんのりとした甘さと、野菜ならではの滋味深さが共存する一杯。
柑橘の爽やかさがアクセントとなり、食前の胃を静かに整えてくれるような優しい口当たり。
料理に入る前の“整えの一杯”として、コースの流れに静かにスイッチを入れてくれる存在でした。
大和牛ロースの柿の葉寿司
続いて供されたのは、大和牛のロースを使った柿の葉寿司。
奈良らしい“柿の葉”という要素を、肉という意外性のあるアプローチで見せた、記憶に残るひと皿です。
しっとりと重ねられた大和牛のロースからは、ふわりと立ち上る柿の葉の香り。
ひと口頬張ると、まるで絹のようになめらかな肉質と、やわらかく広がる繊細な旨味が静かに舌を包み込みます。
控えめながらもしっかりと個性が宿る、コースの序盤を印象づける佳作でした。
近江牛テールのクレープ巻き
次に登場したのは、近江牛のテールを薄く焼かれたクレープで包んだ一皿。
皿の上にそっと広げられたクレープの上に、香川県産のグリーンアスパラガス、茗荷、そしてほろほろに煮込まれた牛テールが盛られ、仕上げにそっと巻かれて提供されます。
口に運ぶとまず広がるのは、赤ワインと中国の黒酢を合わせたソースの奥深い香り。
濃厚ながらもくどさはなく、柔らかく煮込まれたテール肉のコクに寄り添いながら、みずみずしいアスパラガスと爽やかな茗荷の香味が、全体を軽やかに整えてくれます。
洋の技法と中華のエッセンスを柔らかく忍ばせた、まさに“劇場型”ランチを象徴するような一品でした。
朝採れ野菜と牛の生ハムのサラダ
中盤に登場したのは、彩りも鮮やかな朝採れ野菜のサラダ。
一枚ふわりとかぶせられた牛の生ハムが、瑞々しい野菜の上で艶やかに輝いています。
赤大根、リーフ、豆、そして花弁までもが一体となって演出される、まさに食べる“初夏の風景画”。
ひと口ごとに野菜の力強さと、牛生ハムの塩気と旨味がバランスよく重なり合い、肉の存在感を感じさせながらも清涼感のある後味。
濃厚な肉料理の合間に、しっかりと空気を整えてくれる一皿でした。
ヘレカツの卵とじ、吸い物、釜炊きごはん
メインを飾るのは、北海道産和牛のヘレを使った贅沢なカツ。
中心はしっとりとレアに仕上げられ、極薄の衣はサクッと軽やか。
それを、自家製の出汁と淡路の新玉ねぎ、野澤養鶏の卵でとじて、丼仕立てに。
濃厚ながらどこか品のある佇まいで、香り立つ卵の層に包まれたヘレカツの存在感が際立ちます。
合わせるのは、奈良の朝採れ野菜を使ったお吸い物。
滋味深い出汁の中に、小気味よい食感の野菜が踊り、シンプルながらも確かな余韻を残します。
ご飯は、奥伊豆のコシヒカリを羽釜でふっくらと炊き上げたもの。
つややかに粒が立ち、噛むほどに甘みがにじむ至福のご飯に、和牛のしぐれ煮と白菜・天然真昆布の自家製漬物が添えられて。
肉の旨味に寄り添う品々が一つの“物語”を編み上げるような構成で、最後まで一切の無駄がない。
カウンターの向こうで磨かれた技と感性が、静かに熱を帯びて伝わってきます。
羽釜で炊かれたコシヒカリは、おかわりも自由。
まずはしぐれ煮や漬物とともに、素材の滋味を味わい、次に卵とじのヘレカツと一緒に頬張ってみる。
そのたびにご飯の甘みと旨味が際立ち、思わず箸が止まらなくなります。
締めのカレー
そして最後には、締めとして供される“カレー”。
和牛の挽肉をたっぷりと使った一皿は、コースの終盤にあってなお記憶に残るインパクト。
香りは穏やかで、味わいは奥深く、肉の旨味がぎゅっと凝縮されたその味は、ご飯をおかわりしてでも食べ切りたくなる美味しさでした。
デザート & フィナーレ
杏仁豆腐とミルクのジェラート ピーチパインソース
食後のデザートは、優しい甘さと香りの余韻を残すひと皿。
北海道産のミルクと杏仁豆腐を掛け合わせた自家製ジェラートに、沖縄・西表島のピーチパインのソースをたっぷりと。
ふわりと広がる杏仁の香りと、濃厚なのにすっきりとしたミルクのコク。
そこにピーチパインのトロピカルで透明感ある甘さが重なり、ひと口ごとに南国の風が吹き抜けるよう。
肉を主軸に据えたコースのあとでも、最後まで心地よく締めてくれる爽やかな甘味でした。
まとめと感想
「肉といえば松田 奈良本店」で体験した、ランチ限定のショートコース。
劇場型カウンターのライブ感と、素材や技法を横断しながら組み上げられた構成は、まさに“肉割烹”という言葉がしっくりくるスタイルでした。
印象的だったのは、肉そのものの存在を押し出すというよりも、肉を軸に和食やイタリアンの要素を織り交ぜながらコース全体を構成していくアプローチ。
香りの重ね方、食感の対比、火入れのコントロールなど、ひと皿ごとの完成度は高く、全体の流れにも一貫性が感じられました。
その一方で、「肉の力強さ」や「素材そのものと向き合う瞬間」は少なく、
肉はあくまで料理全体に溶け込むように構成されている印象でした。
とはいえ、ここまで肉に焦点を当てつつ、コースとして整理され、空間や所作まで含めて体験できる場はそう多くありません。
機会があれば夜の通常コースにて訪れてみたいです。
予約とアクセス情報
【予約方法】
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公式InstagramのDM
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電話(店舗への直接連絡)
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※オンライン予約はコース選択制、アレルギーや苦手な食材がある場合は事前に伝えるのがベター
【店舗情報】
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住所:奈良県橿原市内膳町1-1-71 FACEビル 5F
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アクセス:近鉄「大和八木駅」北出口より徒歩1分
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営業時間:
ランチ 12:00〜
ディナー 17:00〜/20:00〜(二部制) -
定休日:月曜・火曜(変更の可能性あり)
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座席数:カウンター10席のみ
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