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respiración(レシピラシオン) について
コンセプト
金沢・近江町市場からほど近く、築140年の町家を改装して生まれたスペイン料理店「respiración(レスピラシオン)」。
店名はスペイン語で「呼吸」を意味し、料理と空間、自然と人との調和をテーマにしたモダン・スパニッシュの世界が広がります。
そのコンセプトは、“息をするように自然体で味わう料理”。
BGMすら存在しない静謐な空間で、一皿ごとの温度、香り、音までもが際立ち、まさに「五感で呼吸する食体験」とも言える時間が流れます。
料理には地元・能登や金沢の魚介や野菜をふんだんに使い、自家栽培の野菜や、自家製の発酵調味料といった素材へのこだわりが詰まっています。
2023年にはサステナブルな取り組みが評価され、ミシュラン・グリーンスターを獲得。
外観は伝統的な和の趣、内装はスペインの洗練。新旧が共存する舞台装置として、料理の存在感を際立たせる設えもまた、この店ならではの“呼吸”のひとつなのです。
シェフについて
espiraciónを支えるのは、スペインと日本の食文化を知り尽くした3人のシェフたち。個性も経歴も異なる3人が、互いの感性を重ね合わせながら、一皿一皿に魂を込めています。
梅 達郎(うめ たつろう)シェフ
石川県出身。21歳で和食の修業を始め、27歳でスペイン・バルセロナへ。ミシュラン星付きレストラン「SAUC」での研鑽を経て帰国し、金沢にスペイン料理の新風を吹き込みました。
地元・能登の生産者の元を自ら訪ね、食材への理解を深めながら、スペイン技法と融合させた独創的な一皿を生み出しています。
八木 恵介(やぎ けいすけ)シェフ
東京で12年の修業後、スペインの三つ星レストラン「ABaC」で経験を積んだ実力派。
その自由な発想と構成力でrespiraciónのメニュー構築を支え、食材の組み合わせにスパニッシュのエッセンスを加えながらも、繊細で軽やかな仕上がりが特徴です。
北川 悠介(きたがわ ゆうすけ)シェフ
和食・フレンチ・イタリアン・スペイン料理と、幅広い修業経験を持つマルチジャンルの料理人。
現在は姉妹店「comer(コメール)」の立ち上げを担い、レスピラシオンのフィロソフィーを街中のバル文化へと広げています。
異なる背景を持つ3人が手を取り合い、“金沢に根ざしたモダン・スパニッシュ”という未踏の地を切り拓く姿は、この店の静かなエネルギーそのもの。
まさに「呼吸を合わせる」料理人たちが、respiraciónの名を体現しているのです。
レストランの評価
金沢・近江町市場のほど近く、築140年の町家を舞台にしたスペイン料理店「respiración(レスピラシオン)」。
その独創的なアプローチと完成度の高いコース構成は、国内外から高く評価されており、数々の受賞歴を誇る名店です。
まず特筆すべきは、ミシュランガイド北陸2021特別版にて二つ星(★★)を獲得したこと。
“卓越した料理”に与えられるこの称号は、北陸エリア全体でもごく限られた店舗しか得ておらず、レスピラシオンの実力と独自性が明確に示された瞬間でした。
空間演出、サービス、食材へのアプローチ、すべてにおいて細やかな哲学が貫かれており、星付きレストランとしての存在感を確かなものにしています。
加えて、フランス発の権威あるレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ(Gault & Millau)」でも高い評価を獲得。
16.5点/20点というスコアと“3トック(帽子)”という格付けは、全国のモダンガストロノミーの中でも上位にあたる水準。
また、2025年には同ガイドの「明日のグランシェフ賞」を三人のシェフ全員が共同受賞し、次世代を担う料理人として正式に認められました。
国内プラットフォームでもその評価は群を抜いており、食べログアワード Silverを2022年から4年連続で受賞(〜2025年現在)。
さらに「食べログ スペイン料理 百名店 2024」にも選出されており、北陸のみならず全国レベルでその名を知られる存在となっています。
ダイニングプレリュード
外観・エントランス
金沢の中心地、近江町市場のほど近くに静かに佇む一軒家。
一見すると歴史ある町家建築の風情をそのまま残した木格子の外観に、ひっそりと掲げられた金箔のサインプレート──respiraciónの文字が静かにその場に溶け込みます。
築140年を超える町家を丁寧にリノベーションしたこの建物は、和と洋、歴史と革新を体現する“舞台装置”。
重厚な木の引き戸を開けて中へ進むと、自然光が差し込む格子天井の廊下が伸び、まるで静寂の中に吸い込まれていくような感覚に包まれます。
無音の空間、磨き込まれた木の質感、わずかな灯り。
日常の喧騒から一線を画し、ここから始まる食の体験への“呼吸”を整えるような導入。
その一歩一歩が、非日常へと心を切り替えてくれる、大切な時間のプロローグです。
外観はシンプルでありながら洗練されたデザイン。
ウェイティング & レセプション
店内に足を踏み入れると、まず目の前に現れるのはオープンキッチン。
料理人たちが静かに呼吸を合わせ、準備を進める様子を横目に、スタッフの案内で奥のウェイティングルームへと進みます。
この空間は、2023年の大規模リニューアルで新たに設けられたエリア。
全面無垢材に包まれた部屋の中央には、うねるように造形された一枚板のカウンターが静かに佇み、まるで自然の地形そのもののよう。
照明がその凹凸に沿って柔らかく落ち、時間とともに表情を変える、息づくような木の存在感が印象的です。
ここでまず供されたのは、冷たいトウモロコシ茶。
とはいえ、ただの穀物茶ではありません。使われているのは、トウモロコシのヒゲや皮を丁寧に焼き、香ばしさと甘みを引き出して抽出した特製の一杯。
野趣と洗練が同居する香り立ちで、口に含むと優しく広がるスモーキーさと自然な甘みが印象的でした。
移動の疲れや暑さをすっと鎮めてくれるこの一杯が、呼吸を整え、感覚をひらくための静かな序章となってくれます。
単なる待合ではなく、この空間そのものがrespiraciónの世界観を象徴する、“呼吸の準備室”。
日常から非日常へとゆるやかに移行していく、物語のプロローグのようなひとときがここにあります。
ダイニングスペース
ウェイティングルームでひと呼吸おいた後、いよいよ案内されるのは、改装によって新たに設けられたダイニングスペース。
もともとは仏間として使われていたというこの部屋は、2023年のリニューアルを機に、respiraciónの世界観にふさわしい“食の場”として大胆に生まれ変わりました。
室内に足を踏み入れると、まず目に入るのは天井一面に走る木格子の意匠。
直線のリズムが空間に奥行きを与え、落ち着いた黒壁とのコントラストが印象的です。
自然光が差し込む窓辺からは、小さな庭がのぞき、室内にいてもどこか外とつながっているような開放感があります。
テーブルは木の温もりが際立つ無垢材。
その上には、黒の活版でロゴが入ったメニューが一枚、白いナプキンの上に丁寧に置かれており、まるで作品を迎える舞台装置のよう。
過度な装飾や音楽は一切排され、余白の美しさと光の陰影だけが料理への集中を導いてくれます。
スタッフは一人ひとりが静かに、しかし的確に動き、タイミングや距離感にも神経が行き届いている印象。
料理が登場する前から、ここが“食をもてなすための舞台”であることがじんわりと伝わってきます。
メニュープレゼンテーション
席に着くと、テーブルの上には深い墨色のカバーに「respiración」の金の箔押しが施された一冊のメニューと、その中に挟まれた一枚の白い紙。
そこには「Hola ¿Qué tal?(こんにちは、お元気ですか?)」という軽やかなスペイン語の挨拶と、訪問日である2025年7月3日の文字。
このシンプルな冒頭からもわかる通り、respiraciónのメニュープレゼンテーションは、情報よりも空気を伝えるもの。
コースの構成を示すのは、たった1枚のタイポグラフィーのみで、料理名もあえて簡潔に、素材名だけが淡々と記されています。
先入観を与えることなく、これから始まる一皿一皿の中に“なにが出てくるのか”という楽しみを残す、美しい余白の表現です。
読み込むものではなく、料理とともに少しずつ意味を帯びていく“リスト”としての在り方。
この演出にも、respiraciónが大切にしている“呼吸のリズム”と“味わいの間合い”がしっかりと表現されていました。
スタータードリンク
メニューを確認したのち、最初のひと品を迎える前にオーダーしたのは、ノンアルコールの発酵ティー。
ランチという時間帯でも軽やかに楽しめるようにと選んだのは、石川県・白山市のロミュリュージュが手がける「香焙 -KAHO-」。
ほどよく焙煎された茶葉を使い、発酵によって引き出された香りと酸味が特徴の一杯。
淡い琥珀色の液体は、グラスに注ぐとややワインを思わせるような趣もあり、和洋を越えたテーブルにもよくなじみます。
香りにはナッツやほうじ茶に通じるニュアンス、口に含むと丸みのある酸が立ち上がり、わずかな渋みとともに余韻がすっと引いていく。
一見シンプルでありながら、食前の一杯としてしっかりと緊張を解きほぐしてくれる存在でした。
ボトルのラベルも丁寧に提示される所作からは、料理だけでなく、飲み物に対する細やかな意識と誠実なサービスの在り方が感じられます。
この一杯が、respiraciónの“静かな幕開け”にぴたりと寄り添っていました。
実際に味わった料理
インパクト甘エビ
respiraciónのコースは、この一皿から始まる──
開店当初から提供されているというスペシャリテ、「金箔と甘エビのアミューズ」。
ひと口サイズの可憐な構成ながら、その中には石川県の恵みとシェフの哲学が凝縮されています。
主役は、石川県産の新鮮な甘エビ。その頭の味噌を丁寧に取り出し、薄いシート状に加工して蓋のようにかぶせるという、手間を惜しまない仕立て。
中には、身の部分を自家製の塩麹でやさしくマリネ。発酵のニュアンスが加わることで、甘エビ本来の旨みととろみがさらに引き立てられています。
そして最下層には、このアミューズの世界観を支える重要な土台、甘エビの殻と卵を燻製にして仕立てた香ばしいタルト生地。
軽やかなパリッとした食感とともに、海のミネラルと燻香が口の中でふわりと広がります。
仕上げに添えられた金箔は、単なる装飾ではなく、この一皿がrespiraciónの“名刺代わり”であることを示す印。
美しさ、土地性、発酵という店の軸、そして構成の緻密さ。すべてが詰め込まれたこのひと口は、
まさに「呼吸の第一拍」ともいえる、完璧な序章でした。
Ayu – 富山・庄川の天然鮎と発酵玉ねぎのソース
二皿目に供されたのは、富山県・庄川の天然鮎。
大きさは15cmほど。透明な水差しに活きた状態で登場し、その美しい姿が視覚に強く残る印象的な演出から始まります。
提供直前にカラッと揚げられた鮎には、昨年仕込んだ自家製の鮎の魚醤をひと刷け。
揚げたての香ばしさに、発酵によって引き出されたコクのある塩味が重なり、繊細でありながら深みのある味わいに。
鮎を引き立てるソースは、新玉ねぎを発酵させたジュースにライムを合わせたもの。
甘みと酸味が穏やかに重なり、魚醤の熟成香と見事に調和。発酵の柔らかな輪郭が皿全体をまとめ上げています。
付け合わせには、瓜と春の名残を感じさせるわらびのピクルス、プラム、そして数種のハーブ。
それぞれが独自の酸や苦味を担いながら、鮎の脂と発酵の余韻に寄り添い、涼やかな風味の層を構成していました。
川魚の素朴さに、発酵と酸というモダンな解釈を重ねた、土地と季節の移ろいを可視化するような一皿。
respiraciónらしい“時間の味わい方”を実感できる一品でした。
Zucchini①– 馬場農園のズッキーニとヤマヨモギのフラン
続いては、涼やかなグラスに映える緑の一品。
供された瞬間に思わず見惚れてしまう、美しく層をなした一皿は、金沢・馬場農園さんのズッキーニを主役に据えた、respiraciónらしい清涼感のある構成です。
グラスの上層には、ズッキーニとヤマヨモギ(山艾)を合わせたなめらかなフラン。
夏野菜のやわらかな甘みと、ヨモギのほろ苦さがふんわりと混ざり合い、冷たい口当たりの中に複雑で野趣ある香りが広がります。
その上に浮かぶのは、初夏の風物詩でもあるじゅんさい。
ぷるんとした舌触りがフランの柔らかさと重なり、涼感と食感のコントラストが秀逸です。
下層には、能登のわかめからとった出汁にコンブチャ(発酵茶)を合わせたソース。
ほんのりと発酵の酸が効いており、海藻由来のミネラル感とともに、全体に軽やかな複雑さを与えています。
塩味の輪郭は控えめながら、旨みの密度と発酵の余韻がしっかりと残る設計。
自然の色彩と風味、食感の対比、そして発酵という時間のエッセンスまでもが一体となった、
まさにrespiraciónらしい“静かな実験性”を感じる一品でした。
Zucchini ② – 酒粕とゴルゴンゾーラで“漬けた”ズッキーニと七面鳥
清涼感を湛えたフランに続く、もうひとつのズッキーニ料理は、熟成と火入れの妙を感じさせる温製の一皿。
主役のズッキーニは、加熱前に地元・手取川の吉田酒造から譲り受けた酒粕とゴルゴンゾーラチーズを塗り込み、3日間寝かせてから火入れするという、まさに“糠漬け”を思わせる発酵的な工程を経ています。
酒粕のやさしい甘みと、ブルーチーズのほのかな塩気とコクがズッキーニの内部にじんわりと浸透し、火を入れることでその複雑な風味がふわりと立ち上がります。
一見素朴な姿ながら、中にはしっかりと時間と手間が閉じ込められている、そんな印象の食材の扱いです。
その上にのせられているのは、花ズッキーニの中に詰めた能登産の七面鳥のミンチ。
野性味を残しながらも繊細な肉質が、発酵香をまとったズッキーニと調和し、力強くも清らかな風味の重なりを生んでいます。
皿の下に敷かれたソースは、アスパラガスのピュレ。
鮮やかな緑が視覚にも爽やかさをもたらし、ズッキーニと七面鳥をしっかりと受け止める、味の土台として機能しています。
respiraciónらしい、食材に“時間”と“手間”を重ねた表現。
一皿でありながら、工程そのものが料理として立ち上がってくるような、印象深い一品でした。
2杯目のドリンク – ロイヤルブルーティー「HANA」
コース中盤、食事に合わせてオーダーしたのがロイヤルブルーティー「HANA」。
福建省産の上質な茉莉花茶(ジャスミンティー)を使用したボトルティーで、グラスに注ぐと白い花のような気品ある香りがふわりと立ち上がります。
その外観はまるでロゼワインのような美しい琥珀色。
ですが、口当たりはやわらかく、軽やかな香りと控えめな甘み、後味の透明感が際立つ一本でした。
この日はランチということもあり、アルコールは控えめに。
ノンアルコールながらも、こうしたドリンクが用意されていることで、料理との組み合わせを自分らしく楽しめる選択肢があるのも嬉しいポイントです。
Pasta – アカイカとトマトの冷製仕立て
続くひと皿は、金沢港で水揚げされたアカイカを、まるでフェットチーネのように細くスライスし、“パスタ”に見立てた冷製の一品。
使われているのは、身の中でも特にやわらかく甘みのある部分のみ。口に入れると、イカとは思えないほど繊細な舌触りと旨味の余韻が広がります。
ソースは2種類。
ひとつは富山・上田農園の黄色トマトで仕立てた軽やかな甘酸っぱさのあるソース。もうひとつは、金沢産のバターナッツかぼちゃのクリーミーなソース。
異なる甘みの質感が重なり、素材の輪郭をしっかりと際立たせます。
さらにトップには富山の白エビをあしらい、滑らかなイカの質感に香ばしさを添えて。
別添えで供されるのは、同じく上田農園のトマトを使ったレモンジェムの香りを移した透明なガスパチョ。
見た目はまるで白ワインのような透明感。口に含むとレモンバーベナのような爽やかさがイカの甘さをふわりと引き立て、“スープとしての調和”というより、“香りの補完”としての一杯に仕上がっていました。
ヘタ紫なすとツキノワグマのラグー
メインディッシュとして供されたのは、湯涌温泉近く・日吉農園さんで育てられた「ヘタ紫なす」を使った力強くも繊細な一皿。
ヘタのまま丸ごとローストされたナスは、ナイフを入れるととろりととろけるほど火が通されており、口に含むと驚くほど滑らかで、甘みと香ばしさがじんわり広がります。
中には、ツキノワグマのバラ肉と能登牛の2種類を使ったラグーソースがたっぷりと詰められており、それぞれの肉の脂と旨味が絶妙に調和。
野趣と上品さが同居するような味わいで、食材の背景とストーリーを感じさせる構成です。
周囲を取り囲む白い泡は、なんとヘタ紫なすの搾り汁を泡立てたもの。
素材そのものの風味を最大限に引き出すための工夫が細部にまで行き届いており、ナスが主役でありながら、力強い肉の存在感と繊細な香りが一体となる一皿でした。
自家製カンパーニュとどぶろく×ヤギミルクの発酵クリーム
料理の合間に登場したのは、店内で毎朝焼き上げられている2種類の自家製カンパーニュ。
ひとつは15種の雑穀を使用した天然酵母のカンパーニュ。穀物それぞれの香りと食感が層のように広がる、滋味深い味わい。
もうひとつは、富山のワイナリー「セイズファーム」から届いたパミス(ぶどうの搾りかす)を使ったカンパーニュ。香ばしさの中にほんのり果実の余韻を感じさせ、より香り豊かで力強い印象。こちらはおかわりとしても提供されました。
添えられていたのは、どぶろくとヤギのミルクを合わせて20時間発酵させた自家製クリーム。
まろやかでコクがありながらも、どぶろく由来の酸味とヤギミルクのやさしい風味がアクセントになり、カンパーニュの香ばしさと見事に調和していました。
パン単体でも印象に残る構成で、料理の一部として完結しているような完成度を感じさせる一皿です。
能登の白ソイと炭化柚子のピルピル
スペイン・バスク地方の伝統料理「ピルピル」。
使用されているのは、石川県・能登の白ソイ。しっとりと火入れされた身の上に乗るのは、パリッと焼かれた皮。
噛んだ瞬間にコントラストが際立ち、香ばしさと魚の旨みが口の中で重なります。
「ピルピル」とは、魚のコラーゲンと水分、オイルを乳化させて作るソースのこと。
こちらのソースには、さらにカリフラワーの優しい甘さと、青柚子から香りを移した泡が合わせられており、
全体の輪郭をふんわりと包み込むような余韻を生んでいます。
そして何より印象的だったのが、仕上げに削りかけられる「炭化させた柚子」。
青柚子を低温のオーブンで8時間ほどかけてじっくり炭にしたもので、
ほんのりとした苦みと複雑な香りが、料理の奥行きを何層にも引き上げてくれるようでした。
繊細ながらも、香りの設計にぐっと惹き込まれる一品。
合わせたのは、台湾の高山烏龍茶をベースに発酵・熟成させたボトルティー「GREEN or BLUE dionysus」。
メインの前に供された口直しの一品
メインの前に供された口直しの一品。
能登・上田農園さんのフルーツトマトを丸ごと使用し、ガスパチョでも登場した印象的な味わいを再び。
果実味の濃いトマトをシェリービネガーと生姜に漬け込み、爽やかさとキレをプラス。
仕上げに、塩漬けにしたバラの花びらをあしらい、ほのかな華やかさを纏わせた。
エゾシカの背ロース
メインは、エゾシカの背中のロース。
しっとりと火入れされた厚みのある肉塊は、力強さと上質な柔らかさを併せ持つ仕上がり。
ソースはこれまでの料理で登場した野菜などの端材を活用した、まさに循環を感じさせる味わい深い一皿。
付け合わせにも遊び心と技巧が光る。
・能登・高野農園さんの黄色ビーツをピュレに
・加賀太胡瓜を糠漬けにして森のジンソーダで香りづけ、コリアンダーシードを添えて
・あんぽ柿とりんごを合わせたチャツネ
・焼きトウモロコシとじゃがいもで仕立てたケーキには、トウモロコシのヒゲを揚げてあしらい
滋味深い鹿肉に、土地の素材と発酵・保存・香りといった要素が重なり、記憶に残るメインディッシュに。
岩牡蠣のパエリア
レスピラシオンの醍醐味のひとつとも言える、〆のパエリア。
今回は、5〜6年かけてじっくり育った天然の岩牡蠣を主役に据えた一皿。
ふくよかな旨みを蓄えた牡蠣はスライスされ、たっぷりと贅沢に盛り付けられています。
米には牡蠣の出汁がしっかりと染み込み、濃密でありながらも重たさを感じさせない絶妙な炊き上がり。
アリオリソースがまろやかさを添え、炙ったレモンを絞ることで、酸味と香ばしさのアクセントもプラス。
海の滋味と火入れの妙が一体となった、まさにレスピラシオンならではのパエリアでした。
アロスカルドソ
メニューには記載されていなかった、うれしいサプライズのひと皿。
スペイン料理の“アロスカルドソ(汁気のある米料理)”をベースに、金沢港で水揚げされた白ガスエビを贅沢にあしらった一品。
白ガスエビのとろけるような食感と、しっかりとした旨味がお米に染み渡り、スープのようにじんわりと広がる味わい。
滋味深く、それでいて重さを感じさせないバランスの良さに、思わず笑みがこぼれました。
記憶に残るタイミングで差し込まれた、レスピラシオンらしい遊び心と心遣いが光るひと皿。
デザート & フィナーレ
クレソンのアイス
デザートの一皿目は、クレソンのアイス。
使用されているのは、加熱処理をしていない福井県産のクレソン。野性味のある香りと、ほんのりとした辛味が活きた、鮮烈なグリーンのアイスクリームです。
下には黒糖のクランブルのザクザク感と、りんごのコンポートの優しい甘み。さらに松の実の香りを移したエアリーなムースと、ナッティな風味のオイルが重なり、植物的な清涼感とコクのコントラストが印象的。
デザートでありながら、どこか前衛的な野菜の前菜を食べているような…
レスピラシオンらしい、挑戦的な締めくくりの始まりです。
最後の一服には、色とりどりのフレッシュハーブティーを。
この日は、レモングラスやフェンネルバッズ、シナモンバジルにカモミールなど全13種のハーブを用意。
ゲストの体調や気分に合わせてブレンドしていただけるスタイルで、食後の余韻にふさわしい一杯でした。
茶器にはガウディのグエル公園を思わせる、どこか遊び心のあるデザインの器を使用。
味覚だけでなく視覚でも楽しませてくれる、最後まで抜かりない演出でした。
能登杉のババロア
食後のひと皿には、スペイン・バレンシアのデザートをモチーフにした一品を。
主役は能登杉の香りを抽出したオイル。その深いウッディな香りが、抹茶とミルクのババロア、サワークリームの酸味と重なり、森の中にいるような爽やかな余韻を演出します。
キウイフルーツのシャリッとした冷たさと、黒糖のチュイルの香ばしさも加わり、甘み・酸味・清涼感が一体に。
土地と季節を閉じ込めた、まさに“レスピラシオン=呼吸”を感じるデザートでした。
お茶菓子
お茶菓子は4種類の一口サイズ。
まずは、滋賀県の農園で育てられたブルーベリーを使った冷菓。果汁で煮含めた細切り昆布(能登産)がトッピングされ、甘みと塩味が絶妙なアクセントに。
じゃがいもを使ったひと品には、能登ジンと自家製レモンを合わせ、素朴ながら香り豊かな仕上がり。
さらに、ブラックチェリーを濃縮して作られたゼリーがのった小さなタルトは、凝縮感のある甘酸っぱさ。
もうひとつは、果汁をキューブ状に固めたゼリーをのせた、見た目も楽しい一品。
どれもサイズは控えめながら、素材の個性を丁寧に引き出した、締めくくりにふさわしい構成でした。
まとめと感想
6年ぶりに訪れたレスピラシオン。
記憶の中にあったはずの光景も、味わいも、すべてが更新されたような感覚だった。
料理の完成度はもちろんだが、それ以上に心を動かされたのは、空間全体に流れる「呼吸」のようなリズム。
かつての町家を丁寧に改装した建物には、時間の蓄積が静かに漂っていて、ウェイティングルームや仏間を活かしたダイニングスペースの奥行きが、そのまま料理の体験にも繋がっていた。
供されるひと皿ひと皿に、作り手の意図と素材への敬意が感じられ、説明ではなく“空気ごと伝わってくる”感覚があった。
スペイン料理という技法を借りながらも、語っているのはあくまで北陸の風土であり、土地に根ざした生産者の顔や、香りの記憶だった。
あえて主張しすぎず、けれど確かに芯のある料理たち。
そこに重なる、静かであたたかな接客や、気配まで配慮された所作。
すべてが呼応しあいながら、レストランという空間の本質を、そっと思い出させてくれるようだった。
料理の技術や演出にとどまらない、「この場所だからこそ」という意味が、隅々にまで満ちている。
再訪であることを忘れるくらい、また一から出会い直したような、かけがえのない時間だった。
予約とアクセス情報
予約方法
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完全予約制です。電話またはオンラインにて予約されるのが確実です。
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電話受付時間:午前 9:00–11:00/午後 15:00–17:00
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オンライン予約も可能です(予約時にはノンアルコールペアリングの選択可などのオプションあり)TableCheck・OMAKASE
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予約時の注意事項:
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ランチ・ディナーともに“一斉スタート形式”のため、予約時間の 15分前までに入店をお願いします
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アレルギーや苦手食材が多岐に渡る場合は、予約時に必ず申告が必要です(対応できない可能性あり)
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キャンセルポリシーは、予約後すぐ=5%、14日前=50%、7日前=100%など、厳格な設定となっています
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アクセス
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住所:石川県金沢市博労町67
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最寄り駅/交通手段:
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北鉄バス「武蔵ヶ辻・近江町市場」停留所より徒歩1分
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JR金沢駅より徒歩約15分/タクシー約5分
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近江町市場のすぐそばにあり、アクセスの良さも魅力です
営業時間・定休日
ランチ:12:00一斉スタート(11:30ドアオープン)
ディナー:18:00一斉スタート(17:30ドアオープン)
定休日は主に 月曜日を中心に月6回程度です
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