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Yama について
コンセプト
東京・白金の「Yama」は、一般的なパティスリーやカフェとは一線を画す「お菓子なレストラン」。アシェット・デセール(皿盛りデザート)のコースを軸に据え、果物をはじめとする素材の旬や個性を最大限に引き出した8〜9品の構成で体験を組み立てています。
ただ甘さを重ねるのではなく、塩味の一皿を挟むことで流れに抑揚をつけ、温度や香り、食感のコントラストで物語を描いていく。果実そのものの熟し具合や香りを見極め、ルセットに縛られずにその瞬間ごとの最適解を探る姿勢が特徴です。
小さなカウンター中心の空間で、光や器にまで配慮が行き届き、料理人との距離感も含めて「その場でしか成立しない一皿」に出会える。山梨出身のシェフが掲げた店名「山(Yama)」には、故郷と探求心、登り続ける意志が込められています。
シェフについて
「Yama」を率いるのは、山梨県富士吉田市出身の勝俣孝一シェフ。1985年生まれ、ネクタイ職人の家系で育ち、手仕事への親しみを自然と身につけてきました。エコール辻東京で製菓を学び、名古屋マリオットアソシアホテルや銀座「マルキーズ」、南青山「アンカシェット」で修業を重ね、さらにパリの「Sola」ではシェフ・パティシエを務めるなど海外経験も積んでいます。
2019年に恵比寿で自身の店を開き、その後白金へと移転。果物を中心に素材の声を聞き、その日の状態や香りを尊重しながら皿を仕立てるスタイルを確立しました。冷たいアイスや温かなソース、ジュレや泡など、温度や香りの立ち方までも設計する緻密さが際立ちます。
2025年には「ミシュランガイド東京」でデザートコース専門店として初めて一つ星を獲得。デセールを単なる“甘い締め”ではなく、料理そのものとして成立させる挑戦を続ける存在です。

レストランの評価
「Yama」は、デザートコース専門店として初めて 『ミシュランガイド東京 2025』で一つ星を獲得したことで注目を集めています。アシェット・デセールを主体とした店が星を得たのは国内初の快挙であり、デザートを“食後の甘味”ではなく、独立したコース料理として成立させた功績が評価されました。
レビューサイトやメディアでの評価も高く、果物の熟度や香りを最大限に生かす独創的なアプローチ、温度や食感の緻密な設計、美しいプレゼンテーションが特に称賛されています。静かな白金の街角に佇むカウンター中心の小さな空間は、料理人との距離の近さや特別感を生み出し、接客や雰囲気に対する満足度も高い傾向です。
一方で、完全予約制かつ席数が限られているため訪問のハードルは高く、抽選制の予約方法が導入されることもあるなど、体験できる機会が非常に限られている点も特徴です。それでも「その一席に見合うだけの体験だった」と語る声が多く、スイーツを新たな食のジャンルへと押し広げる存在として高い評価を得ています。

ダイニングプレリュード
外観・エントランス
白金の住宅街の一角に佇む「Yama」は、街の中で静かな佇まいを持つ店です。外から見ると派手さはなく、控えめで洗練された雰囲気。木製の扉が印象的で、看板には「山」という文字。ただそれだけ、といったシンプルさが目を引きます。
店は一階路面。アプローチは街路に調和しており、隣接する建物との調和も高く、過度な装飾は排されているため、見つけたときに“この先に何か特別なものがある”という期待が自然と生まれます。
扉をくぐると、扉の素材や色合いなど、木の質感と温かさを感じさせる造りになっていて、外と中の境界が穏やかに保たれていることが印象的です。光の入り方も計算されていて、昼間であっても柔らかい自然光が入り、夜間は照明が絞られ落ち着いたトーンに。エントランス周りは無駄なアイテムを極力減らし、素材そのものの質や陰影で“余韻”を演出しています。
また、サイズ感としてはそれほど大きくなく、小規模な佇まいゆえのプライベート感・特別感があります。通りを歩く人にとっては“見過ごしてしまいそうで、でも見つけたら気になる店”の佇まい。まさに、「美味しさや体験は外観の華美さではなく“中に入ってから気づくもの”」という店のコンセプトに通じる入口です。

ダイニングスペース
店内に足を踏み入れると、まず感じるのは“余白の美しさ”。白金の住宅街にひっそりと佇む「Yama」の空間は、カウンター6席と小さな個室のみというごく限られた規模で構成されています。シェフとの距離が近く、一皿が仕上がるまでの所作や器の選び方までもが視界に入り、まさに臨場感のある舞台のよう。
光は柔らかく、昼は自然光が穏やかに入り、夜は陰影を帯びた照明が皿の色合いや質感を引き立てます。木の質感やアンティークの器、ガラスの輝きなど、過剰な装飾はなく、素材そのものの風合いを生かした設えが印象的。個室は2〜4名用で、よりプライベート感のある静けさを楽しめる空間になっています。
店内には程よい緊張感が漂い、会話の声も控えめ。器を置く音やデセールの香り、スタッフの所作がすべて体験の一部として響きます。席の配置は密ではあるものの、視線の抜けや距離感が考慮されており、隣席と干渉しにくいよう配慮されています。静謐でありながら、どこか温もりも感じられるダイニングは、特別な時間を過ごすのにふさわしい空間です。

メニュープレゼンテーション
今回予約が取れたのは、ちょうど「いちじくと季節の食材」をテーマにしたコースの時期。瑞々しい果実の甘みとねっとりとした食感を、どのように温度や食感を掛け合わせて表現するのか、想像するだけで心が弾みます。
旬の果物に合わせて構成が大きく変わるのが「Yama」の魅力。いちじくが主役になるコースでは、冷たいソルベや温かなソース、ナッツやハーブとの組み合わせなど、これまでのレビューを読むだけでも多彩なアプローチが想像されます。途中に挟まれるという塩味の一皿もまた、甘さの流れをどう導くのか楽しみな要素。
季節ごとにしか出会えない果実の一瞬をどう切り取り、どう物語に仕立てるのか。実際に体験できる日が待ち遠しく、訪問前から期待感が高まります。

コースの始まりにまず示されたのは、艶やかに実ったいちじくの盛り合わせ。深い紫の ビオレ・ソリエス、赤みがかった 桝井ドーフィン、さらに希少な品種もいくつか交えた大皿は、まるで果実そのものの舞台のようでした。
湿り気を帯びた果皮の光沢、盛り付けられた苔の緑との対比が美しく、視覚的にも秋の訪れを感じさせるプレゼンテーション。食材をただ“材料”として扱うのではなく、果実そのものの姿や存在感をまず提示するところに、「Yama」の姿勢がはっきりと現れていました。
この果実たちがどのように加工され、どんな温度や香りをまとって皿に登場するのか。始まりの一瞬から、期待が一気に膨らみます。

実際に味わった料理
カプレーゼ
コースの幕開けは、Yamaの定番デザート「カプレーゼ」。
グラスの底には、バジルの香りを移したパンナコッタ。そこにトマトとバジルの層を重ね、さらにオリーブオイルと塩で旨味を引き立てています。トップにはトマトを使った菓子が添えられ、全体を覆うように配置。
トマトの濃厚な味わいとバジルの清涼感、それらをつなぐ塩味とオリーブオイルのニュアンスが多層的に広がり、シンプルな“カプレーゼ”をデザートとして再構築した一皿です。甘味と塩味のバランスが軽やかなリズムを生み、序盤から一気に引き込まれる構成になっています。

宿儺かぼちゃの三重奏 × 燻製ほうじ茶
2皿目は、岐阜・飛騨高山の伝統野菜「宿儺かぼちゃ」を主役にした三重奏。下からパンナコッタ、かぼちゃのソース、自家製の落花生オイルを重ね、なめらかさ・濃度・香ばしさを一度に味わえる構成です。
宿儺かぼちゃはズッキーニのような形状を持ち、出汁文化に馴染む穏やかな風味。一般的な“パンプキン”の重厚さを避け、あえて軽やかに仕立てることで、秋らしい色合いをまといながらも優しい後口が残ります。
ペアリングは燻製をかけたほうじ茶。立ちのぼる香ばしい香りが、幼い頃に近所のおじいちゃんが焼いてくれたさつま芋の匂いを思い出させ、どこか懐かしい気持ちに包まれました。器の中だけでなく、記憶や情景までも呼び起こす、ノスタルジックな一皿でした。

和梨とベルベーヌ
3皿目は、和梨を主役にした一品。梨とカボスをマリネし、プレスしたジュースに畑で育ったベルベーヌのアロマを添えています。仕上げに、配膳後すぐ目の前で“潰したて”の梨ソースを注ぎかける演出がありました。


梨は加熱するとシャリっとした食感が失われ、潰してしまうと存在感が弱まる繊細な素材。その弱点を補うために、キンキンに冷やした状態を保ち、軽く凍らせたソースで一気に温度を落とす設計がされています。さらに香りの弱さをカボスの酸味とベルベーヌの清涼感で補い、瑞々しさに立体感を与えていました。
冷温のシャリ感と柑橘・ハーブの香りが重なり、まるで果実そのものを最高のタイミングで齧ったときのような鮮度感。シンプルながら、温度・香り・食感のバランスを徹底して磨き上げた、素材と真摯に向き合う一皿でした。

秋巻き × 和紅茶とバラ
“春巻き”をもじった「秋巻き」は、サクッと揚げた皮の中に、イチジクと青森産カシスを忍ばせた一皿。シナモンシュガーに加え、ウーシャンフェン(五香粉)で香りの奥行きを持たせ、酸と甘味、スパイスのレイヤリングを重ねています。
中は熱々にしすぎず、果実そのものの瑞々しさを生かした仕立て。外側には栗の葉を巻き、持ち手にする遊び心あるスタイル。揚げ皮の香ばしさと果実の甘酸っぱさが重なり、まるでソースをまとったような一体感があります。

ペアリングは、和紅茶にバラを重ねたもの。華やかな香りがスパイスや果実の酸味と響き合い、秋らしい華やぎを添えていました。

森の旨味
甘い皿が続いた流れの中で供されたのは、舞茸やえのきをはじめとする五種のきのこを使った温かなスープ「森の旨味」。
口に含むとまず立ち上がるのは、きのこの豊かな香りと滋味深い旨味。甘やかな果実の余韻を一度リセットし、森の湿り気や土の香りを思わせるような落ち着きが広がります。軽やかでありながら、しっかりとした出汁のような存在感を持ち、次の皿への橋渡しとして絶妙な役割を担っていました。
デザートコースの中にこうした“旨味の皿”を挟み込むことで、全体に緩急が生まれ、構成の妙を感じさせる一品でした。

焼き無花果と梨 × 香りコーヒー
丸ごとの無花果を焼き上げ、皮目を落として黒蜜に漬け込んだ一皿。火入れによって果実の甘みが凝縮し、黒蜜と相まって驚くほど豊かなバニラ香が立ち上がります。シンプルな構成ながら、素材のポテンシャルを極限まで引き出した一品でした。

ペアリングは「香りコーヒー」。ドリップしたてのコーヒーに湯を差し、苦味やボディを削ぎ落として香りだけを残す独自のアプローチ。飲み口は水のように軽やかでありながら、鼻腔に抜けるアロマが焼き無花果の芳香と重なり、香りの余韻をさらに引き延ばします。
「強さを足す」のではなく、「不要な要素を削ぐ」ことで果実の香りに寄り添わせる。嗜好品としてのコーヒーの新しい在り方を提示する、実にユニークなペアリングでした。

新絹 × 玄米茶
本来であれば秋から冬にかけて登場するのが、名物デザート「絹」。和栗を用いたこの品は11月から翌年4月までの提供と決まっており、9月には味わうことができません。とはいえ来店者の期待を裏切らないよう、この時期に用意されるのが代替の「新絹」です。
砂糖を一切加えず、蒸したさつまいもを丁寧に裏ごして糸状に仕立てたデザート。自然の甘みを最大限に活かし、舌に触れるとほろりとほどける繊細な食感が魅力です。下層にはさつまいものプラン(プディング)と米の要素を重ね、穀物由来の香ばしさと滑らかさを添えています。用いるのは五郎島金時など、甘さが過剰にならない品種。ひと口目には「栗と錯覚する」ほどの芳醇さを感じながらも、全体は軽やかに設計され、ポーションも控えめに。
定番をただ外すのではなく、「定番をどう再構築するか」という発想から生まれた“新しい絹”。季節ごとに変化する Yama の柔軟な発想と遊び心を感じられる瞬間でした。

合わせるのは玄米茶。香ばしさが甘みをすっと切り、後口を軽くまとめてくれる。

胡麻のアイス × 玉露・抹茶ブレンド(水出し)
胡麻の芳醇なコクを主役に据えたアイスに合わせるのは、香港で出会った玉露と抹茶のブレンドを水出しにした一杯。渋みを抑えることで旨みと青々しい香りを引き出し、そこにごま粉をひとさじ加えると、器の中で胡麻の香気がふわりと立ち上がる。
このアイスに用いられるのは、国産総量の0.1%未満という稀少な喜界島産の白ごま。江戸時代以前から品種改良を一切行わずに守り継がれ、火入れも“香ばしさ付与”ではなく“油を出すための最小限”に留められる。深煎りの焦げ香に頼らず、ごま本来の澄んだ香味を生かすという哲学が、この軽やかな仕立てに反映されている。
重厚に寄りがちな胡麻のアイスを、抹茶と玉露の水出しが“軽やかに結ぶ”設計。苦味を足すのではなく“整える”ことで、甘味とコクの余韻を伸ばし、香味のレイヤーが秋らしい締めを描いていました。

秋の始まり × Yama畑のベルベーヌ
締めは、栗・いちじく・洋梨を主軸に据えた一皿。器の底に栗のムース、上にマリネしたいちじくを重ね、そのマリネ液をジュレ化して添える構成です。いちじくは葉のソースも合わせ、果実の香りをもう一段立たせる設計。さらに、上には洋梨のアイスをひと匙——まずはアイスからと案内があり、温度と香りで口を整えてから全体へ進む流れでした。
マリネのベースには、ピールワイン(果皮を使ったワイン)と日本ミツバチの百ヶ月熟成はちみつ、ローズマリーのニュアンスを効かせ、香りのレンジに幅を持たせています。加えて、栗の皮を発酵させた要素を少量用い、甘みの奥に微かな渋みと複雑さを重ねる。素材の色調も“ゴールド系”(ピールワイン/はちみつ/洋梨)で統一し、秋のトーンに揃えてありました。

合わせられたのは、自家畑で育てたレモンバベナー(ベルベーヌ)のハーブティー。暑すぎる環境では味覚が鈍るため、まず香りを提示して楽しませる提供順序を採用。講師自身が「ベルベーヌが一番好き」と語り、その嗜好を反映した一杯でした。香りを先に意識させ、口に含むと軽やかな酸とハーブの清涼感が、栗と蜂蜜の丸み、いちじくの甘酸っぱさをすっと締め、余韻を爽やかにまとめていきます。

フィナーレ
特製フルーツちらし(お土産)
今回予約時に注文したお土産は、特製フルーツちらし。白い木箱の中に、色とりどりの果実が散りばめられた華やかな一品です。
表面には、2種類のぶどうをはじめ、柿・マンゴー・黄金桃・スモモ(品種「タイゲット」)・洋梨など、旬の果物がぎっしりと並びます。その下には、カリーカスタードとレモンをしのばせ、さらに白い味のジュレで全体をまとめあげる多層構造。フルーツのジューシーさに酸味とまろやかさをバランスさせた、デザート仕立てのお土産です。
季節によって果実の内容は変わり、秋には和梨や和栗、さつまいもへ展開するとのこと。シーズンごとに表情を変えるため、特に栗の季節での再訪が勧められていました。

まとめと感想
シェフの料理は、単なる季節の食材の提示ではなく、そこに思想や記憶を重ね合わせ、独自の世界観へと昇華させていました。栗やイチジク、さつまいもといった秋の素材は「甘みを足す」ではなく「余計なものを削ぐ」方向で扱われ、素材そのものの個性を最大化。その一方で、発酵や火入れ、水出し茶といった繊細な技術を重ねることで、香りや温度、舌の上での動きをデザインしていました。
そこから立ち上がるのは“香りを食べる”という体験。香りコーヒーや玉露・抹茶の水出しは、その象徴とも言えるペアリングで、嗜好品の新しい姿を提示してくれました。
全体を通じて感じたのは、シェフの「センスの良さ」と「食材への誠実さ」。伝統的な食材をあえて軽やかに、そして現代的に再構成しながらも、決して奇をてらわず自然体で落とし込む。そのクリエイティブは、技術と哲学が結晶した唯一無二のもの。
一皿ごとに物語を紡ぐように、世界観が途切れることなく続いていく。まるでアート作品のように、食を通じて季節や記憶を体験させてくれる稀有な時間でした。

予約とアクセス情報
予約方法
Yamaは完全予約制で、現在は抽選応募方式で予約を受け付けています。
受付は偶数月の1日17:00〜翌日12:00までで、対象は翌月・翌々月の2ヶ月分の席。応募は公式InstagramのDMまたは公式サイトのお問い合わせフォームから行い、集計後に送られる予約用URLから日時を選択して予約が確定します。
席数が非常に少ないため、東京でも予約困難店として知られるレストランの一つです。
アクセス
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住所:東京都港区白金6-16-41 1F
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JR恵比寿駅 徒歩約16分
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東京メトロ日比谷線 広尾駅 徒歩約13分
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東京メトロ南北線 白金駅 徒歩約14分
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白金台駅から約725m
白金の住宅街にあり、落ち着いたロケーションに佇む隠れ家的なレストランです。
営業時間
営業は2部制のコース形式。
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第1部:12:00〜14:00
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第2部:15:00〜17:00
営業日は水曜日〜日曜日で、月曜・火曜が定休日となっています。
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