CONTENTS
Disfrutar(ディスフルタール) について
コンセプト
バルセロナの中心部、エイサンプル地区にひっそりと佇む「Disfrutar(=楽しむ)」は、その名の通り“食を心から楽しむ”ことに全身全霊を捧げるレストラン。
2024年、「The World’s 50 Best Restaurants」で堂々の世界一に輝き、今や世界中の食通が目指すガストロノミーの聖地となっています。
メニュー構成は、クラシックメニューとエボリューションメニューの2本立て。特に後者は、皿の上に常識を問い直すような驚きが連続し、味・食感・温度・香りが次々と変化するプレゼンテーションに魅了されます。ただ奇をてらっただけの料理ではなく、緻密な技術とストーリーに裏打ちされた“遊び心”が、味覚を刺激し、記憶に深く刻まれる体験となるのです。
白を基調とした開放感のあるダイニング。地中海の陽光を思わせるやわらかな光が差し込み、モダンでありながらどこか温もりのある空間が広がります。まさに、知的好奇心と感性をくすぐる「大人の遊園地」のような世界が、ここには広がっていました。
3人のシェフ
「Disfrutar」を率いるのは、オリオル・カストロ(Oriol Castro)、エドゥアルド・チャトルッチ(Eduard Xatruch)、マテウ・カサーニャス(Mateu Casañas)という3人のカタルーニャ人シェフ。かつてスペイン料理界の金字塔「elBulli(エル・ブジ)」で長年にわたり腕を振るった、まさにモダンスパニッシュの継承者たちです。
elBulliが2011年にクローズした後、3人は各自の経験を持ち寄り、2014年にDisfrutarをオープン。伝説のDNAを受け継ぎながらも、独自のクリエイションと実験精神を軸に、前人未到の“進化系ガストロノミー”を追求し続けています。
シェフたちは厨房にとどまらず、ホールに自ら足を運び、料理をプレゼンテーションすることも多く、そこに彼らの“料理は対話である”という哲学がにじみ出ています。料理人としてだけでなく、体験の演出家として、すべての客に“記憶に残る時間”を届けたいという想いが強く感じられました。
伝説のレストラン「elBulli」との系譜
Disfrutarの背景を語るうえで欠かせないのが、スペイン料理の歴史を塗り替えたレストラン「elBulli(エル・ブジ)」の存在です。
地中海沿い、カタルーニャ地方のカラ・モンジョイにかつて存在したこのレストランは、1990年代から2000年代にかけて世界の美食シーンを席巻。フェラン・アドリア(Ferran Adrià)を中心に、料理を“芸術”や“科学”の域にまで昇華させたその手法は「分子ガストロノミー」と呼ばれ、多くのシェフに強烈な影響を与えました。
elBulliは、
ミシュラン三つ星
「The World’s 50 Best Restaurants」で過去5度の世界1位
という輝かしい実績を持ちながらも、2011年に営業を終了。その理由は、「レストランとしての限界」ではなく、「クリエイティビティの次なる進化を求めて」という前向きな決断でした。
Disfrutarを立ち上げたオリオル・カストロ、エドゥアルド・チャトルッチ、マテウ・カサーニャスの3人は、いずれもこのelBulliの中心メンバー。単なる弟子ではなく、最後の時期まで現場を支え、フェラン・アドリアの片腕として実験やレシピ開発に深く関わっていた実力派です。
Disfrutarのコースで出会う、“液体のオリーブ”や“煙が立ち上る一皿”などの演出は、まさにelBulliのDNAの継承。けれど、それは過去の模倣ではなく、より洗練され、より洗練された「次のステージ」へと昇華された表現です。
elBulliの精神は、今もDisfrutarの皿の上で生き続けている。そんな強い確信を抱かせる体験でした。
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受賞歴やレストランの評価
Disfrutarは、わずか10年足らずで世界のガストロノミーシーンの頂点へと駆け上がった、まさに“革新の象徴”とも言えるレストランです。
2024年、世界中の美食家が注目する「The World’s 50 Best Restaurants」において、念願の世界1位を獲得。前年の2位からついに頂点へと上り詰め、その実力と人気の両面が改めて証明されました。
このランキングでは、常にトップ5圏内を維持しており、今やスペインを代表する存在であると同時に、“世界一予約が困難なレストランのひとつ”とも称されています。
この栄誉あるランキングでのトップ獲得は、スペインのレストランとしては3度目の快挙であり、Disfrutarの革新的な料理と卓越したサービスが国際的に認められた証です。
さらに、同年には「ミシュランガイド・スペイン2024」で三つ星を獲得し、スペイン国内で15軒目の三つ星レストランとなりました。
これらの受賞歴は、Disfrutarが単なるレストランではなく、世界のガストロノミーシーンを牽引する存在であることを示しています。
その他にも、
「Opinionated About Dining(OAD)」ヨーロッパトップランキング常連
「La Liste」上位ランクイン
「ミシュランガイド・サービス部門」での高評価
など、世界中の複数の権威あるグルメ評価で軒並み高い評価を獲得しています。
単なる“人気レストラン”ではなく、料理・空間・サービス・体験、そのすべてにおいて「未来のガストロノミーのかたち」を提示している、そんな存在です。
ダイニングプレリュード
外観・エントランス
Disfrutarがあるのは、バルセロナ中心部・Eixample(エイサンプル)地区の大通り沿い。外観は一見、アパートメントの一角のようにさりげなく、レストランの名前もガラスに控えめに刻まれているのみ。その静かな佇まいに、逆に特別感が漂います。
市松模様のタイルや赤いアクセントカラーが、外観のさりげなさの中にも遊び心を感じさせ、ふと足を止めたくなるような魅力があります。目の前に立つと、扉の横にずらりと並ぶ受賞プレートが目に入ります。
ミシュランガイド2025の三つ星をはじめ、「The World’s 50 Best Restaurants」での世界1位、「The Best Chef」など、世界的な称号の数々。そのプレートひとつひとつが、この場所の揺るぎない信頼と実力を物語っていました。
エントランスを抜け、細長い通路を抜けてダイニングへ向かう途中、ふいに現れたのは、シェフのオリオル・カストロ氏。
一瞬だけのすれ違いでしたが、笑顔で挨拶を交わし、少しだけ言葉を交わせたその瞬間は、忘れがたい体験に。
世界一のレストランのシェフが、自らフロアに立ち、客と目線を合わせている——その姿勢こそが、Disfrutarの真髄なのだと感じました。
中へ進むほどに、空間の奥行きと高揚感が広がっていきます。タイルが敷き詰められた床、吊るされたハーブやドライフラワー、やわらかな灯り。非日常と安心感が、絶妙なバランスで同居している不思議な空間。
まるで舞台の幕が上がる直前のような、静かな緊張と高揚を胸に、席へと向かいます。
ダイニングスペース
通路を抜け、ダイニングへと案内されると、思わず息をのむような光の広がりに包まれます。
天井の高い空間には、空の映像が映し出された天窓がいくつも設けられ、まるで屋外にいるかのような開放感。柔らかく差し込む自然光と相まって、時間の感覚がほどけていくようでした。
壁や天井はざらりとした質感の白。自然素材のバッフル(吸音パネル)が幾何学的に吊るされ、そこに優雅な静けさが漂います。壁の高い位置にあしらわれた植物のディスプレイは、季節の気配を取り込むようにそっと彩りを添えていました。
客席はゆったりとした間隔で配置され、テーブルごとに静かな世界が広がっています。スタッフはフロア全体を見渡しながらも、目の前の一組に心を注ぐような丁寧な所作。自然と姿勢が正され、声を潜めて料理を待ちたくなるような、凛とした空気がありました。
そしてキッチンは、まるで劇場の舞台裏のよう。赤いルーバータイルに囲まれたカウンターの奥で、十数人の料理人たちが一糸乱れぬ動きでコースを組み立てていきます。シェフの動きは緊張感に満ちつつも、どこかしなやかで流れるよう。
誰かが指示を出すわけでもなく、それぞれが自らの役割を果たしながら、静かに時間が進んでいく——そんな“美しい秩序”がそこにありました。
外観の控えめさからは想像もつかない、知的で芸術的なダイニング空間。視覚・聴覚・触覚すべてが整えられたこの場所は、料理を“作品”として味わうための最高のステージです。
メニュープレゼンテーション
テーブルに置かれていたのは、通常のメニューとは少し違う、詩的ともいえる一枚の紙。
中央に描かれているのは、有機的な線が絡み合う抽象的なビジュアル。そしてそのまわりには、“Flavor(風味)”“Technique(技術)”“Memories(記憶)”“Creativity(創造性)”“Sensations(感覚)”“Friendship(友情)”といった言葉たちが、まるでランダムに、しかし確かな意味を持って配置されています。
タイトルは
「Menu – What lies behind our food?」
すなわち、「この料理の背後にあるものは?」という問い。
メニューというよりも、コンセプトそのものが示されているようでした。
旅、情熱、革新、伝統、チーム、驚き、触覚、香り、記憶——それらが織りなす食体験を、ここではひと皿ずつ丁寧に紐解いていくのだという、静かな決意のようなものが感じられます。
この時点で、どんな料理が出てくるかはまだわからない。けれど、その“わからなさ”にこそ期待が膨らむ。
まるで短編小説を手にした時のような、これから紡がれていく物語を前にした高揚感がありました。
スタータードリンク
フランス・シャンパーニュ地方エキュイ村の小規模生産者ヴィンセント・ブロシェによる一本。
「Extra Brut」の名の通りドザージュ(補糖)は最小限に抑えられ、キレのある酸とミネラル感が印象的。
洗練されたアロマと繊細な泡立ちは、これから始まる“食の冒険”への期待を高めるのにふさわしい、静かで力強い幕開けでした。
Sketch — Raúl Pérez(スケッチ/ラウル・ペレス)
伝説的ワインメーカー、ラウル・ペレスによるガリシアの白ワイン。品種はアルバリーニョ。
特徴的なのは、その熟成方法。ボトルごとリアス・バイシャスの海中で数ヶ月間沈めて熟成されるという、驚きのアプローチ。
その結果、塩味とミネラル感、時間を経た複雑さが同居し、海の料理との親和性は圧倒的。
Disfrutarの“海の記憶”を感じさせる料理群と完璧に調和していました。
実際に味わった料理
Frozen passion fruit ladyfinger with rum(2016)
テーブルに運ばれてきたのは、小さなエクレアのような姿をしたレディフィンガー。
けれどこれは、ただの焼き菓子ではない。中には凍らせたパッションフルーツのシャーベットが閉じ込められ、周囲にはラムの芳香がほのかに漂う、まさに“食べるアロマ”のような存在です。
何より印象的なのは、その設え。
厚みのあるコルクのベースに真鍮のような質感の支柱、そして頂点に据えられたガラスのように繊細なシート。その上に、この一口サイズの作品が静かに置かれています。まるでモダンアートの彫刻作品のような佇まい。
口に含むと、ふわりと溶けて酸味と甘みが広がり、その後から追いかけるようにラムの余韻が漂います。温度、香り、質感——わずか数秒の体験の中に、「これからの物語」が凝縮されていました。
このひと皿で、“Disfrutarらしさ”に一気に引き込まれたことは言うまでもありません。
The beet that comes out of the land(2014)
運ばれてきたのは、黒い粒が敷き詰められたガラスの器。その中に、まるで土の中からひょっこり顔を出したかのように、赤紫色の球体がふたつ。
料理名は「大地から現れたビーツ」。その名の通り、“土地からの出現”というストーリーを視覚と構成で見事に表現した一皿です。
ビーツの球体は、軽やかに凍らせてあり、指で持つとすっと手に馴染む柔らかさ。ひと口かじると、中からはじんわりとした甘みと、ほのかな土の香りが広がっていきます。
外はパリッと、内側はふわっと、そして最後は口の中でとろけていく——その食感の変化がなんとも不思議で、心地よく、脳が追いつかないまま次の一口を欲してしまうような魅力がありました。
視覚、温度、質感、そして味。すべての要素が“料理”という概念を少しずつ解体しながら、再構築していくような印象。
Disfrutarの“問いかける料理”という哲学が、早くもここで色濃く浮かび上がります。
Lychee and roses with gin(2014)
深紅のバラの花びらが三枚、器の中央に優雅に広がる。その中心に置かれているのは、小さく繊細なライチの果肉。花びらの上には透明なジュレ状の球体がふたつ、光を受けてキラキラと輝いています。
「ライチとバラ、そしてジン」。
この一皿は、味覚というよりもまず視覚と嗅覚をくすぐる“アロマの体験”から始まります。バラの花びらは食用ながらも鮮烈な香りを放ち、その香気がライチの華やかな果汁と重なることで、まるで香水をまとったような官能性を帯びてくる。
滴るようなジュレの球体は、口に含むとジンのアロマがふわりと広がり、ライチの甘みと交差しながら一瞬で溶けていきます。
花と果実、アルコールと香り——そのすべてが、味覚というより“感覚”として記憶に残る。わずか一口の儚い皿ながら、五感すべてを巻き込む詩的な演出に、静かに心を奪われました。
Flavor concentration: sprouts(2023)
一枚の白い細長いプレートに並ぶ、10種類のスプラウト。それぞれが異なる形状と色を持ちながら、等間隔で丁寧に配置されており、その下にはほんのりと黄金色に濁ったコンソメのような液体が敷かれています。
この料理は「Flavor concentration(=風味の凝縮)」。ミクロな若芽たちが、どれほど明確な“味”を持ちうるかを、実際に一つずつ食べながら体感させてくれる一皿です。
Daikon(白大根の辛味)、Rúcula(ルッコラの苦味)、Melissa(レモンミントの爽やかさ)、Kyona mustard(生のじゃがいものような風味)など——プレート横に添えられた紙には、それぞれの名前とフレーバーが英語で記されており、まるでテイスティングリストのよう。
ピンセットでひとつずつ摘み上げては味わうこの所作もまた、非常にディスフルタール的。
それぞれのスプラウトが驚くほど明確に“個性”を持っており、「植物はここまで雄弁に語るのか」と驚かされます。
複雑な技法ではなく、自然そのものの生命力と味覚への解像度で勝負するこの一皿は、むしろ最先端。
華やかさではなく、“静かな感動”を残してくれる、まさにディスフルタールを象徴する料理のひとつでした。
Liquid salad(2015)
グラスに注がれた二層の色彩。下層の鮮やかなグリーンと、上層のピンクがかった泡の層。
これは「リキッドサラダ」、つまり“液体のサラダ”。見た目はカクテル、しかし香りと味わいはまさにサラダそのもの。
スプーンではなくグラスを口に運ぶと、まず感じるのは泡の軽さ。続いて野菜の青々しさ、トマトや葉野菜の甘みと酸味、そしてオリーブオイルのようなまろやかさが、液体の層の中から複雑に現れては消えていきます。
通常、皿の上で食べるサラダを、ドリンクというフォーマットに変換したことで、香り・温度・口当たりまでが全く新しい体験へと昇華。
“食べる”と“飲む”の境界を揺さぶるこの一品は、Disfrutarの革新性を象徴するような存在です。
Tomato “polvorón” and arbequina Caviaroli(2014)
続くのは、一見してお菓子としか思えない一皿。
トマトパウダーをまぶした丸いポルボロン(スペイン伝統の粉菓子)風の食感に、オリーブオイルの球体「Caviaroli(キャビアロリ)」が乗っています。
手に取ると驚くほど軽く、口に含んだ瞬間にほろほろと崩れ、そこにオリーブオイルのしずくが弾ける。
トマトの濃縮された旨味と、アーベキーナ種のオイルが持つ柔らかくナッティな香りが混じり合い、甘くないのに、どこか菓子のような錯覚を誘います。
“トマトの粉菓子”という矛盾が、ここでは違和感なく成立している。それは、味覚だけでなく、記憶や常識にまでアプローチしてくるような、不思議で心地よい体験でした。
Vodka / Truffle(2019)
テーブルに置かれたのは、香り高いリキュールグラス。中にはごくわずかな液体が満たされ、琥珀色にきらめいています。
ただのウォッカではない。この液体は、黒トリュフの香りをまとわせた“アロマティック・ウォッカ”。グラスを揺らすと、土のような重厚な香りとアルコールの刺激が立ち上り、鼻孔を包み込みます。
そのまま口に含むと、液体は一瞬で舌の上に広がり、アルコールの熱さの奥に、トリュフならではの深い香気が立ち上る。まるで“飲む芳香浴”のような感覚。
量はごくわずかでも、五感への余韻は長く続きます。
料理ともドリンクとも言えない。けれど、確実に「体験」のひとつとして記憶に残る。
このわずかひと口の液体には、Disfrutarの“香りと温度の演出”への探究心が詰まっていました。
Flourless coca bread with truffle and burrata(2022)
まるで彫刻作品のような木の台座に載せられて運ばれてきたのは、薄く何層にも重ねられたパイ生地のような一口サイズの“コカ”。
しかし、この料理に小麦粉は使われていない。“粉を使わない”という、前提を覆すような構造こそが、この皿の最大の魅力です。
その表面には、たっぷりの黒トリュフととろけるようなブッラータチーズ、そしてエディブルフラワー。香りだけで酔いそうなほどの芳醇さを纏っています。
さらに驚くのは、その繊細な口当たり。層の間に空気を含ませるように焼き上げられたパイ状の生地は、日本製のオブラートを応用したもの。医薬品や和菓子に用いられる技術が、こんな形で世界一のレストランの創作に組み込まれている——それを思うと、日本人としても誇らしく、胸が熱くなるひと皿です。
味覚だけでなく、技術と素材の背景までが心に残る、印象深い料理でした。
“Panchino” / filled with caviar(2016)
その見た目は、なんの変哲もない小さな揚げパン。
ふわりと丸くふくらんだ表面は香ばしく、皿の中央にぽつんと佇むその姿は、むしろ控えめですらある。
けれど、これはただの揚げパンではない。
中を割ると現れるのは、ぎっしりと詰められたキャビア。そしてそこに絡むのは、わずかなエスプーマ状のクリームとバターのコク。
外側のパン生地は信じられないほど軽く、揚げたとは思えないほどにサクッと噛み切れる。中のキャビアは口の中でプチプチと弾け、塩味と海のミネラル感が広がったところに、ほんのり甘みを帯びた生地がそれを受け止める。
“高級食材”と“親しみある揚げパン”という、本来は交わらないはずのふたつを融合させたこの一皿は、まさにDisfrutarの哲学そのもの。
驚きと美味しさの両立、そして“発想の自由”が凝縮されたスペシャリテ。
ずっと「食べてみたい」と思っていた料理が、目の前に現れ、そして確かに記憶に刻まれた——そんな特別なひと皿でした。
Solid bubbles of smoked butter with caviar(2020)
黒い台の上に置かれた、一口サイズの美しい構成。パリッとしたベースに、キャビア、そして燻製バターのフォーム。
そしてその横には、なぜか虫眼鏡がそっと添えられていました。
正直、最初はどう使えばいいのかわからなかった。
スタッフから説明があるわけでもなく、皆なんとなく手に取り、かざしてはみるけれど、何を見るべきかはっきりしない。
けれど後になって、「あれは泡を見るための虫眼鏡だった」と知り、ふっと腑に落ちた。
たしかに、あのフォームは驚くほどきめ細かく、見る角度や距離によって表情が変わる。食べる前にじっと観察することで、泡の一瞬の命や構造の複雑さを“視覚で味わう”体験だったのかもしれない。
味わいは、燻香をまとったバターの芳醇な香りと、キャビアの塩味、ベースのクリスプな食感が三位一体に。
派手さはないが、その一連の所作や“よくわからないまま終わった感覚”までもが、Disfrutarの仕掛けだったのだと今では思える。
Gazpacho sandwich with scented vinegar garnish(2016)
一見すると、ごく普通のミニサンドイッチ。
ふわふわのパンにオレンジ色のフィリング。まるで子ども向けのチーズサンドのような、可愛らしく懐かしい見た目です。
けれど、口に運んだ瞬間、その予想はあっさりと裏切られる。
中から広がるのは、トマトの酸味、パプリカやガーリックの香り、オリーブオイルのコク。そう、これはスペインの冷製スープ「ガスパチョ」を、まさかの“サンドイッチ”という形で再構成した一皿。
パンのように見える部分は、軽く蒸気を含んだスポンジ状の生地で、ふわりと溶けるように口どける。中心のガスパチョ風味のクリームが、それをじゅわっと包み込む構造になっています。
視覚と味覚のギャップに、思わず笑みがこぼれる。
「見た目を裏切ってくる」ことで、料理がひとつのジョークになり、でも味は本気で美味しい。Disfrutarの遊び心と技術が詰まった、
とてもシンプルに見えて、実は高度な構成をもった一皿でした。
Disfrutar’s Gilda with marinated mackerel(2017)
一枚の写真パネルを提示されたところから、すでに演出が始まっている。
そこに写るのは、スペイン・バスクのバルでおなじみのピンチョス「Gilda(ヒルダ)」──オリーブ、青唐辛子、アンチョビを串に刺した素朴な酒肴です。
ただし、実際に提供されたのはまったく別の姿をした“再構築されたGilda”。
真っ白な器の上に、緑鮮やかなオリーブの球体、脂が乗ったマリネサバ、そこにちりばめられたケッパーやピクルスのジュレ、そしてたっぷりのオリーブオイル。
オリーブの球体は、液体を膜で包むスフェリフィケーション技法で作られており、ひと口で弾けて風味が広がる。
脂の乗った鯖はしっとりとやわらかく、酸味と塩味のバランスが絶妙。伝統的なヒルダが持つ“しょっぱい・酸っぱい・パンチのある”三重奏を、
より繊細で洗練された形に変換したような一皿です。
スペイン料理を知っている人ほどニヤリとする構成。見た目はまったく別物なのに、口の中に広がるのは確かに「Gilda」の記憶。
Disfrutarの“記憶を再構成する料理”という哲学が、静かに、そして力強く感じられるひと皿でした。
Crunchy mushroom leaf(2018)
目の前に置かれたのは、鳥の巣のような器。その中心にそっと置かれていたのは、木の葉そっくりの何か。
色、形、質感、そして筋の入り方まで“落ち葉”そのもの。けれどもちろん、これは本物の葉ではない。
キノコで作られた、サクサクの“葉”です。
ひと口かじると、カリッとした軽快な音とともに、じんわりと広がるのは森の香り。乾燥させたキノコの凝縮された旨みと、土や湿気を思わせるニュアンスが口の中を包み込みます。
素材の味をそのままに、見た目と質感をここまでコントロールして仕上げる技術とセンスに、ただ驚かされるばかり。
そしてこの演出も見事でした。
乾いた根っこや松葉で作られた巣のような器に、まるで自然の中から見つけたかのように“落ち葉”が一枚。
「森に入って一枚の葉を拾う」──そんな感覚すら呼び起こす一皿は、視覚から記憶に残る芸術作品でした。
Crispy egg yolk with warm mushrooms gelatin(2014)
テーブルに運ばれてきたのは、小さな卵の殻。その上にはサクッと揚がった球体がちょこんと乗っている。
そしてその下には、金属製の脚と小さな階段──その先には、真っ赤なニワトリのオブジェ。
まるで“鶏が産んだばかりの卵”を表現したような、遊び心あふれる演出に、思わず笑みがこぼれる。
まずはトップの球体から。
ひと口かじると、中からとろりと流れ出す濃厚な黄身ソース。
外側は驚くほどカリッと軽く、内側は濃密で官能的。まさに「Crispy egg yolk(カリカリの卵黄)」の名にふさわしい一品。
そして殻の中には、温かくとろりとしたマッシュルームのジュレが仕込まれている。
濃い旨味とほのかな甘み、そして卵黄の余韻が混じり合うことで、奥行きある“森の香り”が広がる。
まるで卵の中に、丸ごと小さな森が閉じ込められているような印象さえ残った。
視覚・触覚・味覚のすべてを駆使して完成する、Disfrutarならではの体験型の料理。
美味しさとともに、“かわいらしさ”が記憶に残る、忘れがたいひと皿でした。
Marinated mushroom vinegar with oyster(2022)
複数のキノコがふわりと浮かぶ、淡いブラウンの泡ソース。
その中央には、ぷるんとした艶のあるオイスター。
さらに香ばしく焼かれた松の実、乾燥させたキノコ、そして芽吹いたばかりの小さな若葉。
視覚的にも味覚的にも“森”を連想させる、奥行きある一皿です。
まず驚かされたのは、ソースの香り。
マッシュルームのような旨みの核に、バルサミコ酢のようなまろやかな酸味が合わさり、
“酢”というよりは“熟成した森林の湿度”のような、極めて繊細な香りのレイヤー。
オイスターはしっかりとマリネされており、火が入っているようなとろみを残しながら、しっとりとした舌触り。
強い塩気や海の風味は抑えられていて、あくまでもキノコとの調和を前提とした設計。
それがこの皿の完成度をぐっと引き上げている。
そして散りばめられた小さなキノコは、リアルな見た目とは裏腹に、
それぞれ異なる食感・温度・味わいが潜んでおり、ひとつひとつがまるで別の小宇宙のよう。
自然と抽象、技術と遊び心。
Disfrutarが得意とする“味覚の森の中を歩くような体験”を、まさに象徴するような一品でした。
Multispherical pesto with pistachios and eel(2017)
白いプレートの上に、美しく並んだ深い緑の球体。
これは、バジルをベースにしたパスタ用ペーストソースを、一粒ずつ球状に仕立てたもの。
薄い膜の中に包まれたソースが、口の中でぷつりと弾け、鮮やかな香りとオイルのコクが一気に広がります。
球体の下には、白いソースやクラッシュピスタチオ。
そして奥行きのある燻香のような旨味が重なり、香ばしさとともにゆるやかな余韻を引いていく。
素材の全体像は明かされず、視覚的にも情報は最小限。けれど、そこに確かに“何かがいる”ような感覚が残る。
装飾をそぎ落としたミニマルな構成だからこそ、味覚の立体感が際立つ。
食材を見せるのではなく、感じさせる——Disfrutarの静かな挑発を感じるひと皿でした。
The goose that laid the golden eggs: fried egg of crustacean(2016)
素焼きの土鍋に、わらと一緒に並べられた6つの卵。そのなかにひとつだけ、きらりと光る金色の卵がある。
まるでおとぎ話の一場面のようなプレゼンテーションに、思わず笑みがこぼれる。
殻を割ると現れるのは、甲殻類の旨みを閉じ込めた“金の卵黄”。
それを目玉焼きに見立て、周囲には小海老やオマール、香草などを配し、まるで海の中の朝食のような一皿が完成する。
甲殻類の濃厚なソースが卵白に広がるたび、香りがふわりと立ち上がる。
ひとくちごとに、海の恵みと遊び心がとろけるように広がる一品だった。
Our macaroni alla carbonara(2014)
見た目からは想像もつかない、カルボナーラの再構築。
皿の中央に置かれたのは、正体不明の白いシート。ナイフを入れると、その下から現れるのは、ダイス状のイベリコ豚、卵黄の濃厚なソース、そしてコンソメのジュレで形成された透明な“マカロニ”。
カットされたパンチェッタに、卵のエスプーマ状ソース。
最後に目の前でたっぷりと削られるチーズが覆いかぶさる。
シンプルながら驚くほど深い余韻がある。削りたてのチーズが全体を包み込み、カルボナーラの記憶を呼び起こす。
記号的な料理名とは裏腹に、構成は極めて緻密。Disfrutarらしい遊び心と分析的な美味しさが交差する、印象的な一皿だった。
Hake “Suquet” / Cappuccino “Suquet”(2016)
カタルーニャの郷土料理「スケッチ(Suquet)」を、メインとスープのふたつのスタイルで再構築。
プレートの中央には、しっとりと火入れされたメルルーサ(ヨーロッパヘイク)を主役に、トマトや魚介の旨味を濃縮したソース、香草の泡、黄色いピュレなどがアーティスティックに配置される。艶やかなソースの照りが、香りとともに官能を誘う。
一方でカップに注がれた「カプチーノ スケッチ」は、見た目こそ泡立ったエスプレッソだが、中身は魚介と甲殻類を煮詰めた濃厚なスープ。香りとともに、じわりと口内に広がる余韻が印象的だった。
伝統に根ざしながら、構成とスタイルを変えることで、まったく新たな体験へと導いてくれる。静かにテンションを上げてくる、そんな一皿。
Multi spherical tatin of corn and foie(2016)
一見して“甘いタルトタタン”を想起させるような、黄土色の球体が並ぶプレゼンテーション。
しかしそれぞれの球体は、コーンの風味をまとった液体を内部に閉じ込めた“スフェリフィケーション”技法によって構成されている。
ナイフを入れると、繊細な膜が破れ、中からとろりと広がる甘く香ばしいコーンのジュ。
下層には、ふっくらと仕上げられたフォアグラが敷かれ、温度とテクスチャーのコントラストを生む。
フォアグラの濃厚さと、コーンの軽やかな甘み、そして球体がはじける一瞬の感覚が、まるで「再構築されたタルトタタン」。
Disfrutarのスペシャリテのひとつとして知られ、
驚きと美しさ、味の複層性がすべて凝縮されたような一品でした。
Squab with amasake kombu spaghetti, almond and grape(2022)
プレスで香りを閉じ込めた出汁とともに現れたのは、鳩のロースト。
照りのあるソースが、しっとりと火入れされた胸肉をつややかに包み込む。
副菜として添えられたのは、甘酒と昆布を合わせた“スパゲッティ”。
スモーキーな出汁の香りが、葡萄の酸味とアーモンドのコクをつなぎ、
一皿の中に和の要素が静かに息づく。
見た目の静けさとは裏腹に、香りと余韻が複雑に重なっていく、
終盤の印象をぐっと引き締める料理でした。
デザート&フィナーレ
Homemade cider smoked at the moment(2016)
テーブルに運ばれてきたのは、どこか見慣れたフレンチプレス。
けれどその中には、白くたちのぼる煙とともに仕込まれた自家製のサイダーが。
サーバーがそっとプレスを押し込むと、燻製香がじわりと広がり、
空間すら味わいの一部となっていくような、五感へのアプローチ。
強い甘さや酸味に頼らず、香りの余韻と軽やかな飲み口が心地よく、
濃厚な鳩料理の後を静かに整えるようなタイミングも印象的でした。
Musings on walnuts(2018)
プレートの中央に静かに置かれたのは、ひとつのクルミとクラシックなクルミ割り器。まるで何気ない演出のようでいて、手を伸ばし、殻を割るその瞬間こそがこの料理のはじまりです。
中から現れたのは、なんと角切りのチーズ。どこからどう見ても本物のクルミの殻の中に、完全な形で封じられていたそれは、どうやって中に入れたのか全くわからない——まるで手品のような一皿。
殻の香ばしさ、ナッツの風味、そしてまろやかなチーズの塩味が一体となって広がる味わいも印象的ですが、それ以上に、「どうしてこうなるのか」という謎そのものが、余韻として長く残ります。
料理の枠を越えた、知的好奇心をくすぐる食体験でした。
Green walnut with idiázabal cheese(2018)
温かみのある器に配されたのは、熟す前の青いクルミ、バスク地方原産のイディアサバルチーズのクリーム、そしてドライフルーツやクルミの断片。
まだ青みを残すクルミ特有の渋みと、チーズの燻香を帯びたまろやかさが印象的で、素材の持つ個性がぶつかることなく静かに調和していきます。
甘さと塩味、熟成と未熟、硬さと柔らかさ——対比の妙が一皿に凝縮され、デザートへの移ろいを感じさせる、静かで深みのある余韻を残す一品でした。
Rose water(2023)
白いナプキンの上に一輪の真紅のバラ。静かに運ばれてくるその姿は、もはや料理というより“所作”そのもの。周囲のざわめきがふと止まり、視線が自然と吸い寄せられるような一瞬でした。
花を持ち上げると、内側に隠された小さなボトル。中には香り高いローズウォーターが仕込まれており、手に取ってそっと香りを楽しむ演出。
食後のひとときに訪れる、感性へのアプローチ。五感のうち“味”ではなく“香”へとフォーカスを移した、Disfrutarらしい詩的な転換点。心をほどくような時間が流れていきました。
Engagement rings(2023)
プレートの上に並べられた、さまざまなチョコレートの“指輪”。
ホワイト、ミルク、ビターのチョコレートで形作られたリングには、それぞれ異なるフレーバーや花びら、金箔があしらわれており、どれも少しずつ表情が違う。ゲストはその中から、ひとつだけを自分で選んで手に取る。
「どれにしようか」と思わず迷うこの小さな選択が、遊び心に満ちたコースの終盤をより豊かに演出していた。
Hoisin cucumber(2018)
ほおずきにも似た翡翠色のシャーベット。主役は胡瓜。
ひと口食べれば、爽やかさとほんのり甘い発酵感が口いっぱいに広がる。添えられたホイシンソースの要素が、塩味と深みを控えめに支え、ディルやミントの香りが余韻に抜けていく。
見た目にも涼しげな一皿は、口の中をそっとリセットしながら、デザートパートへの扉をひらいてくれる。
Black sesame cornet(2017)
漆黒のコルネに、同じく黒胡麻のクリームが繊細に絞り込まれた一口サイズのデザート。
ザクッとした軽やかなコーンの食感に、濃厚で香ばしい黒胡麻の風味がしっとりと広がっていく。上にはほのかに甘い黒糖のようなアクセント。
見た目のインパクトとは裏腹に、味わいは優しく、口どけもなめらか。シンプルながら印象深い一品。
Black apple with noisette butter ice cream and flourless puff pastry(2022)
見た目にも驚きのある、ディスフルタールらしい構成のデセール。
まず登場したのは、密閉された袋の中で熟成されたリンゴ。時間と共に水分を抜き、濃密な風味としっとりとした質感をまとった“ブラックアップル”が主役です。
その横には、ヘーゼルナッツの焦がしバターで仕立てたアイスクリーム。濃厚ながらも口溶けは軽やかで、深みのある香ばしさが、果実の凝縮感と対話するように広がります。
中央には小麦粉を使わず焼き上げたパイ生地を細かく砕いてあしらい、食感のアクセントに。
一皿の中に、時間と温度、素材の変化と向き合うレストランの姿勢が凝縮されたようなデザートでした。
プティフール
メインダイニングでの驚きと遊び心に満ちたコースを終え、スタッフの案内に導かれて中庭へと移動する。
天窓から柔らかな自然光が差し込む開放的な空間に、席があらかじめ設けられており、最後の演出が静かに始まる。
テーブルには、苔や流木、花々をあしらった木箱のジオラマが置かれ、その中に点在する小さな菓子たち——Disfrutarのプティフール。
よく見ると、葉の影や木の根元、枝の上に、まるで森の中に潜む生き物のように隠れたお菓子が散りばめられている。
木の枝に引っかかった綿菓子は、ラズベリー風味のマシュマロ
幹の根元には、金箔をまとったチョコレートとパッションの液体ボンボン
芝の上に並ぶ赤い丸い果実のようなものは、ストロベリーの求肥
白いメレンゲに立てられたラズベリーは、自然の中に咲く花のような存在感
流木の上に置かれた緑色の軽やかな岩のようなものは、抹茶のエアリーなロックケーキ
童心をくすぐるような、宝探しにも似たひととき。
手で取りながら味わい、それぞれの菓子の中に詰め込まれた最後の驚きに、ほっと肩の力が抜ける。
コーヒーやデザートワインと共に、余韻をゆっくりと楽しむ時間。
あれほどの密度で展開された29皿のコースの後に、この静かなプレゼンテーションがあることに、Disfrutarの構成力の高さと遊びと静けさのバランス感覚を改めて感じさせられた。
最後に改めてシェフに挨拶を、とお願いしたが、すでにミーティングに入られたとのことで不在。
あの壮大なコースの余韻を胸に、直接感謝を伝えられなかったのは少し残念だった。
それでも、ひと皿ごとに込められた創造力とチームの連携から、確かな熱量と哲学が伝わってきたのは間違いない。
記憶に残る料理体験とは、驚きや美味しさだけでなく、その一瞬一瞬を誰と、どんな空気の中で味わったか。
この日のDisfrutarは、まさにそれを体現する、特別な午後だった。
まとめと感想
1年前、奇跡的に予約が取れたその瞬間から、ずっと心に描いていた一日。
世界一のレストランと称される「Disfrutar」での昼食は、料理を“食べる”という行為を超え、“体験する”という言葉がふさわしい、4時間におよぶ壮大な旅だった。
ここでは、技術や発想は単なる技巧にとどまらず、すべてが感情や記憶とつながっている。
サイエンスとアート、郷愁と未来、遊び心と厳密さが綿密に絡み合いながら、次々と目の前に現れる皿たちは、驚きとともに“食”という概念の枠を揺さぶってくる。
この日のコースは「DISFRUTAR CLASSIC」と名付けられた構成。
Disfrutarの過去の名作を再構築・再演出した、いわば“ベストアルバム”のようなオムニバス形式。
新作ではなく、これまでの集大成を味わう特別な構成となっており、初訪問のゲストにも、常連にとっても、記憶に残るエントリーとなる。
アイコニックな料理が次々と登場する、ドラマティックな約30皿。
演出、温度、食感、驚き、余韻……そのすべてが緻密に構成され、4時間という長い時間を“体験”として結晶化してくれる。
立ち上がる泡を虫眼鏡で眺める。
揚げパンの中から流れ出るキャビア。
どれもが一瞬の演出でありながら、味わいの奥行きは静かに、確かに、記憶の底に沈んでいく。
調理のすべては、完璧な温度管理とタイミングの上に成立していて、それを支えるチーム全体の緻密な動きもまた、ひとつの美しいパフォーマンスのようだった。
一皿ごとに哲学が宿り、“驚かせたい”というよりも、“心を揺らしたい”という意思を感じる構成。
気づけば、料理だけでなく空間そのものに、五感が包まれていた。
時差ボケで後半は夢うつつだったけれど、それすらも、まるで夢を見ていたかのような感覚に溶けていった。
最後にシェフにご挨拶したかったが、すでにミーティングへ向かわれたとのこと。
それも含めて、この日の余白として大切に残しておきたい。
Disfrutar——“楽しむ”という言葉の本質を、心と身体で受け取ることができた、かけがえのない体験でした。
予約とアクセス情報
■ 営業時間
ランチ:13:00〜
ディナー:20:00〜
※日曜・月曜 定休
■ 予約方法
公式サイト(https://www.disfrutarbarcelona.com)にてオンライン予約が可能です。
毎日一定数の枠が1年前から開放され、非常に高い競争率のため、希望日の1年前に即時予約することを強く推奨します。
※キャンセル待ちや直前の空き枠もまれに発生します。
■ アクセス
住所:C. de Villarroel, 163, 08036 Barcelona, Spain
最寄駅:地下鉄「Hospital Clínic」駅(L5)から徒歩約5分
バルセロナ中心部からタクシーで10分ほど。周囲は静かな住宅地に位置し、外観は控えめながらも、扉を開けた瞬間から別世界が広がります。
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