BISHOKU QUEST

旅先で出会った、心に残るひと皿を

『BISHOKU QUEST』は、日本各地の美食を求めて旅をするグルメブログです。
シェフのこだわりや地元食材の魅力、料理の背景にある物語を、写真と共に丁寧に綴ります。

天ぷら 鶴八 について

コンセプト

「鶴八」は、熊本では珍しい本格的な高級天ぷら店として知られています。初代から受け継がれる伝統を大切にしながらも、三代目が新たな感性を加え、地元の食材を活かした天ぷらを提供しています。

使用する油は、綿実油、ひまわり油、胡麻油を独自にブレンドし、軽やかで香ばしい仕上がりを実現しています。また、コースの内容は季節や仕入れによって変わり、旬の食材を最大限に活かした構成となっています。

大将(三代目)について

現在の大将は三代目で、初代から続く「鶴八」の伝統を受け継ぎながらも、現代の感性を取り入れた天ぷらを提供しています。彼の揚げる天ぷらは、素材の持ち味を最大限に引き出すため、衣の厚さや揚げ時間に細心の注意を払っています。

また、地元熊本の食材を積極的に取り入れ、地域の魅力を伝えることにも力を入れています。

レストランの評価

「鶴八」は、地元熊本の食材を活かした天ぷらを提供する老舗であり、数々の受賞歴と高評価を得ている名店です。

  • 「鶴八」は、食べログの「天ぷら 百名店」に2022年、2023年、2025年と3度選出されています。

  • 食べログでの評価は3.98と高く、熊本県内の天ぷら店ランキングで1位を獲得しています。

ダイニングプレリュード

外観・エントランス

「鶴八」は、熊本市電「辛島町駅」から徒歩約2分の場所にあります。店舗は新市街のフジモトビル2階に位置し、ビルの外観はシンプルで控えめながらも、エントランスには落ち着いた雰囲気が漂っています。階段を上がった先にある入口は、和の趣を感じさせる木製の引き戸で、訪れる人々に静かな期待感を抱かせます。

ダイニングスペース

「鶴八」の店内は、L字型のカウンター席を中心とした設計で、席数は9席です。カウンター越しに大将の手仕事を間近で楽しむことができ、揚げたての天ぷらを一品ずつ提供するスタイルが特徴です。店内は和の趣を感じさせる落ち着いた雰囲気で、木の温もりと照明の柔らかさが調和し、静かで心地よい空間を演出しています。特別な日の食事や、ゆったりとした時間を過ごしたい方に最適なダイニングスペースとなっています。

メニュープレゼンテーション

コースの軸は、九州・熊本の食材を主役に据えた季節の天ぷら。
この日は、熊本産の車海老、鱧(はも)、キス、シャク、ハトシ、長崎から届いた穴子と、白身魚を中心に組み立てられたラインナップ。
野菜も同じく熊本産にこだわり、新ジャガ、丸オクラ、赤茄子、豆、ヤングコーンといった旬の顔ぶれが並ぶ。

そこに加え、希望者にはお造りや追加の天ぷらも別途注文可能。
鮮度抜群の刺身が数種盛り合わせで登場するなど、天ぷらだけに留まらない“食の引き出し”が豊富なのも、鶴八の魅力のひとつ。

コース終盤には、+770円で小天茶・小かき揚げ丼・小ごはんから選べる締めを用意。揚げたての香ばしさをそのままご飯にのせたミニ丼は、最後の満足感をしっかり支える存在です。

揚げ場と正対するL字カウンターで、一品ごとに集中しながら供される構成は、まさにライブ感に満ちた時間。
定番を丁寧に、そして少しの変化と自由度を加えることで、一度だけでなく“また来たい”と思わせる懐の深さを感じさせるプレゼンテーションです。

スタータードリンク

まずは冷えた生ビールで一息。
きめ細やかな泡とすっきりした喉ごしが、これから始まる天ぷらコースへのいい助走に。

揚げ音が聞こえるカウンター越しで、ゆっくりと気持ちを切り替える時間も心地いい。

実際に味わった料理

小鉢

コースの始まりは、小鉢で供されたアスパラガスと里芋、そこに鯛のつみれを合わせたもの。
木の芽味噌の爽やかな香りが全体を包み込み、アスパラの瑞々しさ、里芋の土の甘み、鯛の淡い旨みがそれぞれの持ち味を際立たせている。
ひと口目から春らしい香気が広がり、この先の料理を期待させるような清々しい導入でした。

クエとムラサキウニのお造り

しっとりとしたクエの刺身に、ムラサキウニを添えて。

クエはやわらかく、ほどよく脂がのっていて、噛むほどに旨みがにじむ。
ムラサキウニは甘みとコクがありながら、余韻はすっと引いて、清らかな印象。

どちらも過剰な演出はなく、素材の持ち味が静かに際立つ仕立て。
天ぷらへ向かう流れの中で、舌の感覚を整えるような一皿。

 

天草 車海老の頭

天ぷらの始まりは、天草産の車海老の頭

揚がったばかりのひと品が目の前に置かれると、ふわりと殻の香りが立ちのぼる。油の香ばしさに、ほんのり甘い海老の香りが混ざり合い、思わず顔がほころぶ。

ひと口含むと、パリッとした食感とともに、香りが一気に口いっぱいに広がる。
香ばしすぎず、海老本来の風味がクリアに伝わるバランス感が絶妙。

ただの一品目ではなく、「これからが楽しみ」と感じさせてくれるスタート。

天草 車海老(身)

続いて供されたのは、天草産の車海老の身

透明感のある白さにうっすらと衣をまとわせ、揚げたてがすっと差し出される。
頭とは対照的に、こちらは噛んだ瞬間にぷりっとした弾力があり、海老の甘みがじんわりと広がっていく。

衣は極めて薄く、油の重たさをまったく感じさせない。
殻付きの香りのあとに、静かに甘みでつなぐ流れが美しく、ひとつの素材でここまで表情を変えるのかと唸らされる。

天草産のキス

天草産のキスは、身質がきめ細かく上品な甘みを持つ魚。
その繊細さを活かすように衣は極めて薄く、軽やかな揚げ上がり。
噛んだ瞬間に広がるふわっとした甘みと、海の香りがすっと抜けていく。

油の重さを一切感じさせず、ただ魚の純粋な旨みだけが立ち上る一皿でした。

熊本 丸オクラ

続いては、熊本産の丸オクラ
南九州の一部で見られる、断面が丸い在来種で、やわらかく、ぬめりも控えめなのが特徴。

丸ごと一本、軽やかな衣をまとって揚げられたあと、真ん中でカットされて供される。
その断面の美しさに、まず目を奪われる。

口に含むと、じんわりとした熱とともに、ほんのりとした青さと優しい甘みが広がり、種のぷちぷちとした食感が心地いい。
素材の良さをそのまま届ける、野菜天ぷららしい一皿。

熊本 茄子(辛子入り)

美しい紫の皮とふくよかな果肉が印象的な、熊本産の茄子
揚げる前に「辛子をお入れしましょうか?」と声をかけられ、もちろんお願いする。

供されたのは、真ん中でカットされた断面が美しい一品。
衣の内側にしっかりと閉じ込められた水分が熱を保ち、箸を入れるとふわりと湯気が立ちのぼる。

口に含むと、とろりととろける果肉の甘さと、しっとりと広がる出汁のような旨み。そこにふわっと効いた辛子が絶妙なアクセントを添える。
さらに、勧められたとおり少し醤油を垂らしてみると、その塩気が甘みを引き立てて驚くほど美味しい

火入れ、味付け、提供の仕方まで、すべてに丁寧さが行き届いた一皿。

有明海 シャク

有明海で獲れたシャク(クルマエビ科の一種)を、丸ごと殻ごと天ぷらに。

薄衣をまとった赤い姿は存在感たっぷり。ひと口かじると、殻の香ばしさとともに、頭部からあふれる味噌と卵の濃厚な旨みが一気に広がる。

味噌は深みがありながらクセがなく、卵はねっとりとコクを添えて、全体に力強い海の風味を加えている。
胴の身はふわっとやわらかく、香ばしい殻との対比もまた楽しい。

まさに“丸ごと食べてこそ”のシャク。インパクトも満足感も抜群の一品。

熊本「南海緑」のグリーンピース

一度潰して裏ごしし、滑らかに仕立ててから再び丸めて天ぷらに。

衣をまとった丸い姿はふっくらと可愛らしく、口に含むと中から熱々の青い香りが広がる。
豆そのものの甘みとほっくりした旨みが凝縮され、素材の力強さを感じさせるひと品でした。

ハトシ

続いて供されたのは、長崎の郷土料理として知られるハトシ
ふわふわの海老のすり身をパンで挟み、丁寧に揚げたひと品。

注目すべきは、揚げた直後にすぐ出さず、しっかりと油が切れるまで時間を置くという仕事ぶり。
そのおかげで、衣はさっくりと軽く、パンの香ばしさとすり身のふんわり感が際立っている。

口に含むと、外はサクッ、中はじゅわっと。油の重さを感じさせず、驚くほど軽やかな仕上がり。
素材と油、そして“待ち”の時間まで計算された、完成度の高いひと皿。

山芋の細切りとじゅんさい

ガラスのように透き通った出汁の中に、じゅんさいと山芋の細切り。
じゅんさいのぷるりとした食感と、山芋のしゃきっとした歯触りが静かに響き合う。

口に運ぶと、清涼感とわずかな粘りが広がり、夏の一皿らしい瑞々しさを残していきます。
派手さはないけれど、素材の持つ涼やかさをそのまま器に映したような、静謐な一品でした。

熊本 植木町 ヤングコーン

熊本・植木町から届いた髭つきのヤングコーン。
丸ごと揚げられた姿で供され、衣の香ばしさと若い実の瑞々しさが合わさって、とうもろこし本来の甘さが際立ちます。
ひげまで丁寧に揚げられていて、サクッと軽い食感がまた楽しい。

提供の際には、大将が食べやすい大きさに切り分けてくださるので、揚げたての熱を逃さず頬張れるのも嬉しいひと手間でした。

 

天草の鱧

天草の鱧は、衣の中にふんわりとした身を閉じ込め、かみしめるとじわりと脂の甘みが広がる。
仕上げに振られた塩と青柚子がその旨みをきりっと引き締め、余韻に清涼感を残してくれる。
油を纏いながらも軽やかで、夏らしい一皿でした。

天草 新じゃが × イカ墨塩辛バター

ほくほくと香り立つのは、天草産の新じゃが
このじゃがいも、なんと1時間ほどかけてじっくり火入れしてから天ぷらに。

中はしっとり、外はほんのりサクッと。じゃがいも本来の甘さが引き立つこのひと皿に添えられるのが、インパクト抜群のイカ墨入り塩辛バター

とろりとしたバターに、塩辛の旨みとイカ墨の深いコク。
じゃがいもにつけて口に運べば、甘み・塩気・コクが絶妙に混ざり合い、思わず唸るおいしさ。

正直、このバターだけで酒が飲める。そんな危うさすら感じる、記憶に残る組み合わせ。

対馬 穴子

天ぷらのラストを飾るのは、対馬産の穴子

揚げ上がったばかりの一本を、大将が目の前でカットしてくれる。
その瞬間、ふわっと立ち上がる湯気と香りに、思わず息をのむ。

衣はごく軽く、中の身はふわふわ。
脂のりも絶妙で、何もつけずとも旨みがじんわり広がる。

勧められたのは、醤油とレモンの食べ方。
醤油をちょんとつけて甘みを際立たせても良し、レモンを搾ってさっぱりと仕上げるのもまた良し。

最後まで抜かりなく、“締めの穴子”としての完成度が高い一皿。

熊本 岩牡蠣

天ぷらの合間に供された、熊本産の岩牡蠣

見た目にもふっくらとした大ぶりの身で、箸で持ち上げるとずっしりとした重みが伝わる。
ひと口含むと、濃厚なクリーミーさとミネラル感が一気に広がり、口の中が一瞬で“海”に染まるよう。

まろやかな甘みとわずかな塩気、そしてあと引く余韻。
調味は極力控えめで、素材そのものの力強さがダイレクトに伝わる一品。

天ぷらとは違うベクトルの“海の旨み”が加わり、コース全体の奥行きがぐっと深まった。

締めの天丼(小)

コースの最後に選んだのは、天丼(小)

小ぶりな丼に、かき揚げを中心とした天ぷらが軽くのせられ、さらりと甘辛のタレがかけられている。
油の重さをまったく感じさせず、サクッとした衣とご飯の相性が抜群。

口に運ぶと、タレの香ばしさと天ぷらの香りがふわっと広がり、コースを締めくくるにふさわしい満足感。
ご飯の炊き加減もほどよく、最後までぬかりのない仕事ぶりがうかがえる。

食後の余韻に寄り添う、控えめながら心に残る一杯だった。

デザート & フィナーレ

熊本 阿蘇 無農薬さつまいもの天ぷら × ブランデー

締めに登場したのは、熊本・阿蘇産の無農薬さつまいもを使った、ちょっと変化球なデザート仕立ての天ぷら

皮ごと揚げられたさつまいもは、外はカリッと、中はねっとりとした濃厚な甘み。
火入れの加減が絶妙で、芋の蜜がじんわりとにじみ出るような仕上がりに。

ここに添えられるのが、香り高いブランデー
少量をかけていただくと、甘さに深みと艶やかさが加わり、一気に“大人のデザート”に変わる。

食事の締めとしてはもちろん、食後酒のような余韻すら感じさせる一皿。
最後まで、揚げと香りをテーマに貫かれた構成に唸らされる。

まとめと感想

熊本・新市街、雑居ビルの2階にひっそりと構える、カウンター9席の天ぷら専門店。

天草や阿蘇の素材を中心に、揚げたてを一品ずつ供するスタイルは、老舗らしい芯のある構成。
三代目が手がける天ぷらは、火入れ・香り・供し方すべてに無駄がなく、穏やかながらも揺るぎない自信を感じさせる。

印象的だったのは、素材の持ち味を生かすだけでなく、新しい表現にも積極的に取り組んでいること。
イカ墨入り塩辛バターを添えた新じゃがや、ブランデーをかけて楽しむさつまいもの天ぷらなど、発想の幅広さが際立つ。

“間”の美しさや、目の前で仕上がるライブ感も魅力のひとつで、ただ食べるだけでなく、体験として記憶に残る。
熊本の風土と技の積み重ね、そして柔軟な感性が共存する、特別な天ぷら時間でした。

 

予約とアクセス情報

【営業時間】
17:00~21:00(ラストオーダー 21:00)

【定休日】
日曜日

【予約方法】
完全予約制。電話または一休.comレストラン等の予約サイトにて受付。
(カウンター9席のみのため、早めの予約が確実です)

【アクセス】
熊本市電「辛島町駅」より徒歩約2分。
フジモトビルの2階、控えめな外観のため見落とし注意。
階段を上がってすぐ左手に店舗入口があります。

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MIZUMACHI
「知られざる美食の旅へ—心と五感で味わう特別なひとときを」

BISHOKU QUESTは、全国の厳選された美食スポットを巡るグルメ探求プロジェクトです。
地元の食材を活かした料理、シェフのこだわりが詰まった隠れ家的なレストラン、食を通じて地域の文化や歴史を体験できる場所を厳選してご紹介。
味わうだけでなく、その土地ならではの空気やストーリーを感じる特別な食の旅をご提案します。

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