CONTENTS
食堂みやざき について
コンセプト
鴨川沿い、木屋町の路地裏に静かに佇む〈食堂みやざき〉。
町家を活かした奥行きある空間で供されるのは、〈食堂おがわ〉の流れを汲む、端正な和のコース料理。
出汁の香り、火入れの温度、器の余白まで、静けさの中に確かな美意識が宿る料理が並びます。
日常の延長にある、肩肘張らない“ちょっと特別な夜”。
京都らしい静謐さと温かみが同居する、木屋町の隠れ家です。
大将について
店主・宮崎さんは、京都の人気店〈食堂おがわ〉で長年修業を重ね、
現在の〈食堂みやざき〉を、“支店的な立ち位置”として任された料理人。
おがわ直伝の技術と所作を礎に持ちながら、店全体には宮崎さんならではの柔らかさと包容力が滲みます。
真面目で実直。けれど決して堅苦しくなく、穏やかな語り口と的確な料理の温度感が心地よい。
「毎日でも食べられるような、気負わない和食を」という姿勢に、
信頼されて任された理由と、積み重ねてきた年月の重みを感じさせる料理人です。
レストランの評価
〈食堂みやざき〉は、開店からまだ数年ながら、京都の食通や業界関係者の間でじわじわとその名を広げている一軒。
ミシュランなどの華々しい星はまだ掲げていないものの、
「食堂おがわの流れを汲む実直な料理」「静かに丁寧を貫く姿勢」が、料理人仲間や常連から高く評価されています。
一見の訪問よりも、紹介や貸切会などで訪れる方が多いことからも、
その信頼と満足度の高さが伺えます。
奇をてらわず、派手な話題にも頼らない。
それでも通い続ける人がいるという事実こそが、〈食堂みやざき〉の実力を物語っています。
ダイニングプレリュード
外観 & エントランス
町家をそのまま活かした風情ある佇まいは、初めてでもどこか懐かしさを覚える趣きです。
塗り壁の外壁に無垢の木枠、そこにかかる真っ白な暖簾。
控えめに記された筆文字の店名が、凛とした静けさを纏っています。
エントランス横には、盆栽や鉢植えが丁寧に配され、
どこか日常の延長線上にある“生活と料理の空気”を感じさせる空気感。
そして、玄関をくぐるとすぐに現れるのはカウンター席。
細いアプローチを抜けていくこの“序章”のような動線が、すでにこの店の静謐な物語を物語っています。
ダイニングスペース
〈食堂みやざき〉の主役とも言えるのが、1階に広がる美しいカウンター空間。
天然木の一枚板を贅沢に使ったL字型のカウンターは、まるで料理と客人をやさしく包み込むような形状。
その中央で料理を組み立てる大将の所作を、目と音でじっくりと楽しめる、まさに“ライブ感”のある席です。
厨房との境界はなく、五感すべてで料理が出来上がる過程に浸れる贅沢な時間。
壁は土壁風のあたたかみある仕上げで、控えめな照明が木の質感を際立たせます。
店内は決して広くはないものの、その分一体感と集中力が高く、
料理人と客人との間に、ごく自然な信頼感が流れるような空間設計。
背筋が伸びるような緊張感と、どこか居心地の良い距離感が共存する、
〈食堂みやざき〉らしさが凝縮されたダイニングスペースです。
メニュープレゼンテーション
黒板にはその日の料理がずらりと並んでいますが、実際には季節や仕入れに合わせて組まれたおまかせコーススタイル。温かみのあるカウンターで、大将と会話を楽しみながらゆったりと食事ができます。
スタータードリンク:すだちサワー
カウンターに着き、まず手にしたのは、貸切会での定番となっている爽やかなサワー。
この日は、丸ごとのすだちが浮かんだ「すだちサワー」を選択。
涼しげなグラスに弾ける炭酸と、やわらかな酸味。口に含むと、すだちの香りがふわりと立ち上り、
その後にくる心地よい苦みが、静かな食欲を優しく目覚めさせてくれます。
背景には磨き上げられたカウンターと、仕込みに動く料理人の姿。
一杯目から、この店の空気感に自然と引き込まれていく。
派手さではなく、誠実な一杯。そんなスタートにふさわしいドリンクでした。
実際に味わった料理
百合根入り 茶碗蒸し
コースの始まりに登場したのは、湯気の立つ小さな器に仕込まれた茶碗蒸し。
出汁の香りがふわりと立ち上がる瞬間、自然と背筋が伸びます。
中には、ほっくりとした甘みの百合根と、贅沢な塩辛味を持つ「このわた」。
やわらかな卵地のなかで、百合根のほのかな甘みとこのわたの凝縮された旨みが静かに交差し、
口の中でゆるやかにひとつに溶け合っていきます。
シンプルな見た目に反して、奥行きのある味わい。
素材同士の対話を大切にする〈食堂みやざき〉らしい、“静かに心を打つ”一品でした。
スナップえんどうの胡麻和え
瑞々しい緑が目に鮮やかな、スナップえんどうの胡麻和え。
丁寧に筋を取り、軽やかに茹でられたえんどうは、噛めば甘みが弾け、春の青さをそのまま閉じ込めたような味わい。
その上からかけられた胡麻だれは、滑らかで香り高く、ほんのり酢を効かせた軽やかな仕上がり。
仕上げにふわりと添えられた柚子の皮が香りの余白を生み、口の中に爽やかな余韻を残します。
涼しげなガラスの器に盛られた一皿は、見た目にも季節を映し出すよう。
素材の力と和の引き算の妙が光る、静かな存在感の前菜でした。
とうもろこしとごぼうのかき揚げ
香ばしい香りとともに供されたのは、黄金色に揚がった小さなかき揚げ。
シャリッと音を立てる衣の中に、ほくほくと甘いとうもろこしと、香り高いごぼうがぎゅっと詰まっています。
ごぼうの土っぽさと香ばしさ、とうもろこしの瑞々しい甘み。
この対照的なふたつの食材を、軽やかな衣が絶妙にまとめ上げ、噛むたびに食感と香りのリズムが心地よく広がります。
余計な油っぽさは一切なく、冷めてもなおサクサクとした食感が持続。
器に敷かれた和紙に、ほんのりと残る油のあとさえも、上品な印象を添える一皿でした。
貝の旨煮と冬瓜
艶やかな煮汁をまとって供されたのは、ふっくらと炊かれた貝と冬瓜の組み合わせ。
器に盛られた瞬間から、優しくも力強い海の香りが立ち上ります。
貝は身が締まりすぎず、絶妙なやわらかさを保った火入れ。
口に含むと、ほんのり甘く、濃すぎない味つけが貝の持つ旨みを引き立ててくれます。
合わせられた冬瓜は、出汁をたっぷり含んでとろりとやわらか。
煮汁にほんの少し柚子皮を添えることで、全体に爽やかな香りが広がり、余韻を軽やかに整えています。
シンプルながらも、ひとつひとつの火入れと味の染み加減に技を感じる一皿でした。
お造り:鱧と烏賊
京都の夏を象徴するような一皿、鱧と烏賊のお造り。
淡く白い器に、ふっくらと骨切りされた鱧の繊細な身と、艶やかな烏賊が美しく並びます。
鱧は軽く湯引きされ、口に含むとほろりとほどける柔らかさ。
骨切りの技が冴え、細かな歯触りのなかにほんのりとした甘みと上品な脂を感じます。
対する烏賊は、ねっとりと舌に絡むような柔らかさの中に、澄んだ旨みが広がり、
それぞれに異なるテクスチャが口の中で静かに響き合います。
添えられた山葵は香り高く、醤油の加減でその魅力をより一層引き立ててくれる。
素材と技、季節を感じる、まさに〈食堂みやざき〉らしい静かな存在感を放つお造りでした。
定番:からすみ餅(手渡し)
〈食堂みやざき〉の定番とも言える一品、「からすみ餅」。
この日は手渡しでサッと差し出され、その粋な演出に自然と背筋が伸びる瞬間。
パリッと香ばしい焼き海苔にくるまれているのは、もっちりとした餅と、ねっとりと濃厚なからすみ。
熱でとろけたからすみの塩気とコクが、餅のやさしい甘みと混ざり合い、口の中に深い余韻を残します。
潔く、ごはんも出汁も添えず、素材とタイミングだけで勝負する潔さ。
一瞬で食べ終えるからこそ、その記憶は強く残る。
カウンターでのライブ感、緊張と遊び心の絶妙なバランスを象徴するような、〈食堂みやざき〉らしいひと品です。
木の芽香る にゅうめん
コースの終盤に登場したのは、ほっとするようなやさしい出汁の香りとともに供されるにゅうめん。
薄く澄んだ出汁の中に、つるりと細い素麺と柔らかなわかめ。
その中央には、爽やかな香りをまとった木の芽がふわりと添えられています。
昆布と節で丁寧にひいた出汁は、口に含むとやさしく広がり、
そこに木の芽のほのかな青い香りが加わることで、余韻まで清らかに引き締まる印象に。
重ねてきた料理の記憶をそっと包み込むような、静かな一杯。
最後の最後まで、細部に“香り”という余白がある。
そんな〈食堂みやざき〉の余韻を、やさしく閉じてくれるにゅうめんでした。
稚鮎の塩焼き
カウンターで始まる、串打ちの静かな所作。
目の前で一本ずつ串を打たれた稚鮎が、丁寧に焼台へと運ばれ、じっくりと炙られていく様子を見守る時間もまた、〈食堂みやざき〉でのひとつの楽しみ。
香ばしく焼きあがった稚鮎は、皮はパリッと、中はふっくらと柔らか。
ほろ苦さを含んだ若い内臓の旨みと、身の清らかさが絶妙なバランスで重なり合い、
口にすれば一気に“川の季節”が広がるような鮮烈な一口。
盛りつけられたのは、古伊万里風の器。
焼き目の美しさが映える絵付けとともに、日本の夏の情緒がそっと添えられます。
串打ち三年、焼き一生——。
そんな言葉を思い出させるような、火入れの妙と素材の持ち味が生きた、印象深い焼き物でした。
ドリンク:みやボール(シークヮーサーハイボール)
常連の間ではすっかりおなじみ、店主・宮崎さんの名前に由来する〈みやボール〉。
ハイボールをベースに、フレッシュなシークヮーサー果汁を加えた一杯で、爽やかな酸味と控えめな苦味が絶妙なバランス。
見た目はシンプルながら、後味にほんのりと残る柑橘の香りが、料理の余韻と心地よく重なります。
食中にも食後にも合う味わいで、リピーターが多いのも頷ける一杯。
「みやボール、いっときます?」
そんな一言がカウンター越しに聞こえてきたら、もうそれは〈食堂みやざき〉の空気にすっかり包まれている証拠かもしれません。
手羽唐
〈食堂みやざき〉の名物のひとつ、「手羽唐」。
鶏の手羽先にしっかりと味を含ませ、香ばしく揚げられた一品は、コースのなかでも異彩を放つ存在。
カリッと揚がった皮の中には、旨みがぎゅっと詰まったジューシーな肉質。
骨まわりの肉も丁寧に処理されており、食べやすさも計算された仕上がりです。
山葵を少しつけて食べると、脂の旨みがスッと軽くなり、後口に抜けの良さが生まれます。
和のコースの中にふと差し込まれる“ひとくちの力強さ”。
思わずお酒が進んでしまう、食欲を刺激する定番の一皿でした。
口直し:トマト・水茄子・胡瓜の冷製出汁
揚げ物や焼き物を経たコース終盤、さっと供されたのは、
トマト・水茄子・胡瓜をさっぱりと冷やした出汁でいただく口直しのひと品。
トマトのやさしい酸味、水茄子の瑞々しさ、胡瓜の青い香り。
それぞれの個性をほんのり効かせた出汁がすっと包み込み、火照った身体に静かに染み渡っていきます。
“味を整える”だけでなく、“気分も切り替える”ような、静かで清らかな小休止。
夏の和食ならではの余白の美が感じられる一杯でした。
脂ののった鱸の煮付け
とろりとした艶を纏い、しっかりとした濃口の煮汁に浮かぶのは、脂ののった鱸(すずき)の煮付け。
添えられた牛蒡や根菜が、主役の味わいをぐっと引き立てます。
口に運ぶと、まず感じるのはふっくらとした身の厚み。
脂がじんわりと溶け出し、濃いめの甘辛煮汁と絡んで極上の一体感に。
身がやわらかすぎず、崩れすぎない火入れも絶妙で、最後まで丁寧に楽しめる構成。
どっしりとした味わいでありながら、添えられた山椒や牛蒡の香りが重さを残さず、
コース中盤にしっかりとした“柱”のような存在感を放っていました。
卵黄と煮付けのタレをかけたご飯
コースの締めは、やっぱり白ごはん。
そこにとろんと卵黄、そして鱸の煮付けで使われた濃厚なタレがひとさじ。
ぐるっと混ぜれば、もう説明いらずのうまさ。
濃厚だけど重たすぎず、甘辛とコクのバランスが絶妙。
最後の最後で“あの煮付け”がもう一度よみがえるような、しみじみ嬉しい締めごはんでした。
ご飯のお供:ふわふわ卵焼き
炊きたてごはんと一緒に出てきたのは、ふわっふわに焼き上げられた卵焼き。
箸を入れると、しゅわっと空気が抜けるようなやわらかさで、
ほんのり出汁の香りが漂う、シンプルだけどしっかり“おかず”な一品。
甘さは控えめで、ごはんとの相性抜群。
卵かけごはんに夢中になりつつも、合間にこの卵焼きがあると、また箸が進む。
最後まで「ごはんを美味しく食べさせる」構成にぬかりなし。
小さな一皿にも、大将の気遣いがちゃんと詰まってました。
ご飯のおかわり:蕗の薹ご飯・みやカレー
白ごはん+卵黄で大満足…のはずが、やっぱりおかわり。
まずは春の香りをふわっと感じる〈蕗の薹ご飯〉。
ほろ苦さと炊き立ての米の甘み、そこに添えられた山椒香る葉っぱ味噌がピタッとはまって、一口ごとに春の景色が広がるよう。
さらに、ちりめん山椒をのせた“みやカレー”も登場。
スパイスが効いたキーマ寄りのとろりとしたルゥに、山椒の爽やかな辛みが重なり、ごはんが止まらない。
和食の店なのに、ちゃんとカレーが記憶に残るという不思議な魅力。
ごはんものだけでもひとつのストーリーがある。
そんな“ご飯の底力”を見せつけられる後半戦でした。
まとめと感想
京都・木屋町の細い路地を抜けた先にひっそりと佇む、予約困難な人気店〈食堂みやざき〉。
常連さんで賑わうカウンター。この日は貸切会にお邪魔し、ゆったりと流れる夜を過ごしました。
季節の香りと食感を丁寧に重ねた料理たちは、どれも素朴でありながら芯があり、
余白と緊張感が同居する、京都らしい和食の世界。
ひと皿ごとの温度やタイミング、添えられた言葉や間が心地よく、
食事であると同時に、静かで豊かな体験でもありました。
そしてやっぱり、大将・宮崎さんとの楽しい会話と美味しい料理が最高。
記憶に残る、いい夜でした。
予約とアクセス情報
〈食堂みやざき〉は完全予約制。
紹介制というわけではありませんが、席数が限られているため、常連さんの予約で埋まってしまう日も多く、かなりの人気店です。
場所は木屋町通りから細い路地に入り、少し奥まったところ。
鴨川近くの静かな町家が舞台です。
最寄駅は京阪「祇園四条駅」または阪急「京都河原町駅」から徒歩5分ほど。
※最新の営業日や予約方法は、公式インスタグラムなどでの確認が確実です。
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