夜香木-YAKOBOKU- について
コンセプト
熊本・上乃裏にひっそりと佇む「BAR 夜香木」。
扉を開けると、まるで時が緩やかに流れるような静謐な空間が広がります。
屋号にもなっている“夜香木(やこうぼく)”は、夜に芳香を放つ花。
その名のとおり、昼の喧騒から切り離された「夜だけに咲く香り」を大切にした、感性に訴える一軒です。
カウンターのみのシンプルな構成ながら、薄暗く落ち着いた照明、控えめなジャズ、磨き込まれたグラス…
一切の無駄を削ぎ落としたその空間には、店主の美意識が隅々まで行き渡っています。
クラシックカクテルを中心に、季節の果物や和素材を取り入れた創作も。
派手さではなく、香りや余韻、口あたりに静かに驚きを仕込んだ一杯一杯は、まさに“夜の香り”そのもの。
マスターについて
熊本「夜香木」のマスター、木場進哉さんは、2021年に世界最大級のカクテルコンペティション「Diageo World Class」で日本チャンピオンに輝いた実力派バーテンダー。
熊本県長洲町出身。高校卒業後、酒販店でのアルバイトを経てバーテンダーの道へ。22歳で上京し、東京・丸の内の「リゴレット」で経験を積んだ後、29歳でシンガポールに渡り、スピークイージー「CACHÉ」にて約5年間活躍。
2019年に帰国し、2020年1月に築約150年の旅館をリノベーションしたバー「夜香木」をオープン。
2023年には、夜香木が「Asia’s 50 Best Bars」で84位にランクインし、九州初の快挙を達成。
地元・熊本の素材を活かしたカクテル作りに情熱を注ぎ、国内外から注目を集めています。
BARの評価
マスター木場進哉さんは前述の通り、2021年には国際コンペティション Diageo World Class Japan で日本一に輝き、世界大会のファイナリストも経験。
そしてバーそのものも、急速に注目を集めています。
2023年には九州として初めて Asia’s 50 Best Bars の51〜100位リストにランクイン(第84位)。
さらに2025年には、初ランクインにもかかわらず鮮烈な 第25位 という快挙。
香りと構成の精緻さ、土地へのリスペクト、洗練された所作。
そのすべてが評価され、「夜香木」は今や熊本を代表するバーとして、世界の名所たちとも肩を並べています。
バー・プレリュード
外観・エントランス
古き良き旅館の風情を残す建物。その木の引き戸をそっと開けると、
「夜香木」という名にふさわしく、屋号が示す“夜に香る木のような静謐さ”が漂う空間が広がります。
初めて訪れた人は、引き戸の存在そのものに気づかず通り過ぎてしまうこともあるほど控えめな佇まい。
だからこそ、引き戸が静かに開く瞬間の“特別感”は、この場所ならではの美しい儀式のようです。
木肌の柔らかな質感と夜の闇に包まれたエントランスから漏れる灯りは、
まちの喧騒とは異なる“時間の層”へと誘う入り口。ここに導かれて、中に一歩足を踏み入れた瞬間から、静かな夜物語が始まります。
バーエリア
引き戸を開けて店内に足を踏み入れると、
正面には無垢の木がやさしく照明を反射する、清らかな一枚板のカウンターが伸びている。
店内は左右に分かれた構造で、右手にはオープンスペースのメインカウンター、
左手にはわずか4席の半個室のようなカウンター席が用意されている。
この左側の小さな空間は、まるで「静けさをひとり占めできる場所」。
他の声や視線から緩やかに切り離されており、会話を控えめに楽しみたい時や、
集中してグラスと向き合いたいときにも最適だ。
壁や什器の質感はあくまで静かで抑制的。
店全体に過剰な装飾はなく、むしろ“香りが浮かび上がる余白”としての空間設計がなされている印象を受ける。
静寂の中にある温もり。
このバーを特別なものにしているのは、カクテルだけではなく、
そうした音や視線の設計までも含めた、空間全体の感性だと感じた。
実際に味わったお酒
スタートの一杯:「Yokoboku(夜香木)」
一夜のはじまりにふさわしい、店の名を冠したシグネチャーカクテル「Yokoboku」。
“夜にしか咲かない花”をテーマに、香りのレイヤーを丁寧に重ねた一杯です。
ベースは、ボタニカルの輪郭が美しいタンカレーNo.10。
そこへ、スノージャスミンの香りを重ね、アップルソーダで軽やかに仕上げながら、
シトラスアガペハニーのやわらかな甘みと、マーガオ(馬告)のスパイスが奥行きを添えています。
ふわりと泡立つ表面から立ちのぼる香りは、確かに“花が咲いた”ような幻想的な余韻。
口に含むと、柔らかく甘く、そしてどこか神秘的なニュアンスが広がり、
その静かな華やかさに、夜の世界へと引き込まれるような感覚になります。
土のぬくもりを感じる陶器の器もまた、自然と人が溶け合う「夜香木」の世界を映し出していました。
香ばしさと深みの一杯:「Pistacchio & Espresso」
2杯目に選んだのは「Pistacchio & Espresso」。
ピスタチオやエスプレッソといった素材から想像する“甘い系”のカクテルとは異なり、
こちらはむしろ、香ばしさとビター感を主体にした、大人の味わい。
ベースは熊本のクラフト焼酎「大石」。
そこにピスタチオのナッティな風味、エスプレッソの苦味、
発酵カカオシロップのほのかな酸とコクが加わり、奥行きある一杯に。
クルミとミルクが口当たりを柔らかくし、トップのカカオニブとピンクペッパーが最後に香りを引き締める。
滑らかさの中に芯のある、緻密な構成力を感じさせるカクテルでした。
甘くなく、軽やかでもない。
だからこそ、しっかりと印象に残る“食中~食後の間”に寄り添う、非常にセンスある一杯。
遊び心と土地の誇りを一杯に:「Kumamon Sling 2」
締めの一杯は、その名も「Kumamon Sling 2」。
熊本県民ならずとも思わず微笑んでしまう、“くまモン”をモチーフにしたシンガポールスリングのネオアレンジです。
使用されているのは、熊本のクラフトジン「ベアーズブックジン」。
そこへ紫蘇のコンブチャやクランベリーのコーディアル、パイナップルなどの果実味が重なり、
仕上げはトニックウォーターで爽やかに引き締め。
可愛らしいネーミングに反して、その味わいはしっかり大人。
紫蘇の酸味と発酵由来の複雑な余韻が、カクテル全体に独特の深みを与え、
見た目のポップさと、香味の奥行きとのギャップに、思わず唸る仕上がりでした。
熊本らしさ、遊び心、技術力。すべてが詰まった一杯。
まとめと感想
熊本・上乃裏の「BAR 夜香木」。
香り、余韻、静けさをテーマにしたこのバーは、ただ“飲む”だけでなく、五感で“感じる”ことを教えてくれる場所でした。
カウンターに腰を下ろした瞬間から、まるで時間が緩やかにほどけていくような空気感。
照明の落とし方、器の選び、グラスの温度、添えるひと言の余白まで。
一杯ごとに丁寧に構成されたその世界は、まるで一皿一皿がストーリーを持ったコース料理のようでした。
空間自体もとてもスタイリッシュで落ち着いており、
それでいて決して気取らず、遊び心あるネーミングやビジュアルで心を和ませてくれる。
“夜の花”というテーマを軸に、静と動、美とユーモアのバランスが見事に取れた一軒です。
客層は海外からの旅行者も多く、新しく加わった台湾出身のトリリンガルのバーテンダーの存在も印象的。
国境や言葉を超えて、この空間を共有しようという気概が感じられ、
「熊本のバーカルチャーの今」を象徴するような、温度ある場所だと感じました。
また次の季節に、香りの変化を追いに訪れたい。
そんな余韻を残してくれる、忘れがたい夜になりました。
予約とアクセス情報
予約方法
営業時間中、特に夜の人気時間帯は混みあうため、確実に訪れたい方は 20:00までに電話での予約が推奨されます。予約は開店から20:00まで対応可能で、以降は予約受付が終了となります。
アクセス情報
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住所:熊本県熊本市中央区南坪井町5-21 1F
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最寄駅:熊本市電「藤崎宮前駅」から徒歩3分ほど。また「水道町駅」や「通町筋駅」からも徒歩約8分。
営業時間・定休日
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営業時間:18:00〜24:30(ラストオーダー24:00。
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定休日:不定休。月に1〜2回ほど休業日があり、Instagram等での告知が基本
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