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The Chairman(大班樓)について
コンセプト
香港・中環の「The Chairman(大班樓)」は、広東料理の本質に真っ直ぐ向き合うレストラン。派手なプレゼンテーションや融合的な要素ではなく、素材そのものの味わいを最も純粋な形で引き出すことを信条としている。
基本理念は「最良の素材」「最適な調理法」「最も自然な調味」。伝統的な広東料理の技法を土台にしながらも、地元の漁師や生産者との関係を築き、旬の食材や熟成・発酵などの時間の要素を重ねていく。自家製の干し肉や漬け込み、熟成した酒粕や陳皮など、古くから受け継がれる保存の知恵を現代の感覚で再構築しており、料理はどれも土地の記憶と手仕事の蓄積を感じさせる。
輸入食材に頼るのではなく、香港とその周辺で採れるものを使うことにこだわり、地域に根ざした“現代の広東料理”を提示している。華やかさよりも静かな説得力で、世界の舞台に広東料理の真価を伝える存在となっている。

オーナーの Danny Yip(葉志明)氏
オーナーの Danny Yip(葉志明) は、料理人としての経歴よりも先に、食を通じて文化を掘り下げてきた人物。オーストラリアでレストランを経営した後、香港に戻って The Chairman を創業した。彼にとって料理は単なるビジネスではなく、土地と素材、そして人の記憶をつなぐ営み。
「広東料理を、世界が正当に評価する“グレートキュイジーヌ”のひとつに」という思いのもと、研究と実践を重ねている。2024年には Asia’s 50 Best Restaurants の Icon Award を受賞し、その理念と活動が国際的にも認められた。
シェフの Kwok Keung Tung(郭強東)氏
キッチンを率いるのは、創業当初から Yip を支える Kwok Keung Tung(郭強東)。表舞台に立つことを好まず、日々の仕事の中で料理の完成度を磨き続ける職人肌の料理人だ。素材の扱いと火入れにおいて極めて緻密で、The Chairman の味を支える屋台骨。Yip との関係は「オーナーとシェフ」というよりも、理想の広東料理を共に探る“研究仲間”のような距離感で、二人の信頼関係がこの店の強さを形づくっている。
レストランの評価
Asia’s 50 Best Restaurants ― 軌跡と頂点
2013年の初回リストから継続してランクインし続けており、その歩みはそのままアジアの広東料理の再評価の歴史と重なる。
最初の頂点は2021年。香港のレストランとして初めて「Asia’s 50 Best Restaurants」第1位を獲得した。しかしコロナ禍の最中での受賞だったため、授賞式で直接トロフィーを受け取ることは叶わなかった。
その後も存在感を保ち続け、2025年(ソウル開催)では前年の4位から2位へと順位を上げ、香港内での「ベストレストラン」称号を堅守した。
そして2026年3月25日、香港で初めて開催された授賞式の場で、The Chairmanは再び頂点に返り咲いた。2021年以来となるアジア第1位を奪還し、「The Best Restaurant in Asia 2026」に輝いた。ステージに立ったダニー・イップは「前回1位になったのはコロナ禍で、ステージに上がれなかった。今回は香港で、そして1位。これ以上ないほど嬉しい」と喜びを語った。
また授賞式では、17年間チームを支え続けた「ヴィンテージチーム」への感謝が述べられ、ステージ4のがんと闘いながらも式に出席したソムリエのアンブロース・チャンが舞台に上がる感動的な場面もあった。
The World’s 50 Best Restaurants
世界ランキングでも、その存在感は年々増している。2019年に初登場(41位)を果たして以来、着実に順位を上げ続け、2025年(トリノ開催)では世界19位を記録。前年の24位から5つ順位を上げた。
ミシュランガイド
The Chairmanはミシュランの星を10年以上にわたって保持し続けており、The 50 Bestの躍進と相まって、世界規模での知名度をさらに高めてきた。
個人賞
2024年にはオーナーのダニー・イップがAsia’s 50 Best RestaurantsのIcon Awardを受賞。長年にわたる香港の食文化への貢献が、業界全体から正式に称えられた。

ダイニングプレリュード
外観・エントランス
The Chairman(大班樓)は、かつては中環・Kau U Fong(九如坊)あたりの年季の入ったビルに構えていたが、2022年に中環ウィリントン通り198番地、The Wellington(威靈頓大廈/The Wellington ビル)3階へ移転した。
移転後のファサードは、以前のクラシックな趣を引き継ぎつつも、照明や素材感が更新され、モダンと落ち着きを兼ね備えた佇まいになっている。
入り口はガラス扉と控えめなサインを備えており、ビルの共用部から店へと導かれる動線も以前より洗練されている印象。扉を入るとまず狭めの前室があり、その先に客席へと続く通路が続く構成だ。移転を機に、照明・色調・素材の選定にも手が入り、青緑やグレートーンを基調とした壁面や温かみのある間接光が取り入れられて、以前の白基調・王朝的照明から現代性を帯びた印象へと変化している。
移転によって規模はやや小さくなったとのレビューもあるが、その分、細部の演出と導線設計に余白を残し、訪問者を静かに誘う構えになっている。

ダイニングスペースについて
移転後の The Chairman(大班樓)は、中環・The Wellington(威靈頓大廈)3階に位置し、以前の店舗よりも静謐で洗練された空間へと生まれ変わっている。旧店舗の温かみある木調やクラシカルな中国家具の雰囲気を踏襲しつつも、全体のトーンはより落ち着いたモダンスタイル。余白のある配置と柔らかな照明が印象的で、華美さを抑えた上質な空気が流れている。
店内は30席ほどと小規模で、個室は設けず、すべてがオープンなレイアウト。テーブル間の距離がしっかり確保され、ゲスト同士の会話が静かに混ざり合う程度の音量に保たれている。壁には中国画や古陶器を思わせる装飾がさりげなく配されており、過剰な演出を避けた“静かな格式”を感じさせる。
スタッフの動きも極めて控えめで、サービスのテンポは落ち着いている。料理を運ぶ所作や声のトーンに至るまで統一感があり、全体が一つのリズムで進んでいくような感覚。窓からは中環の街並みが覗くが、外の喧騒とは切り離されたような穏やかな空間で、料理に集中できる環境が整っている。
移転によって店舗規模はわずかにコンパクトになったものの、むしろこの密度が店の世界観をより明確にしており、料理と空間が一体となってThe Chairmanらしい“静かな重み”を感じさせるダイニングへと仕上がっている。

メニュープレゼンテーション
The Chairman(大班樓)のメニューは、コース形式ではなく、アラカルトを軸に組み立てられている。だがその構成は極めて計算されており、季節や仕入れの状況に応じて日々微調整される“生きたメニュー”といえる。書面上のメニューには限られた料理名しか記されておらず、実際は常連客や訪問時期によってまったく異なる体験になることも多い。
料理の中心にあるのは、地元産の食材を使った現代的な広東料理。前菜からメイン、締め、デザートまで一貫して“軽やかさ”と“旨味の重層”を意識した構成になっている。発酵や熟成の要素を自然に取り入れながら、ソースの使い方や香りの出し方で各皿に深みを与えるのが特徴だ。この日は、予約者のリクエストに合わせて特別に組まれたスペシャルコースを体験。

実際に味わった料理
香港を代表する名店「The Chairman(大班樓)」。“素材を活かすこと”を何よりも大切にし、化学調味料を使わず、伝統的な広東料理に現代的なセンスを融合させることで、世界中の美食家を魅了してきました。
そんなThe Chairmanで味わったコースを、一皿ずつ丁寧に振り返ります。
Barbecued Lamb Belly and Abalone Roll
最初の一皿から、まるで舞台の幕が上がるような華やかさ。香ばしく炙られたラムバラの香りと、柔らかなアワビの海の風味が見事に重なり合います。
脂の甘みは驚くほど上品で、ひと口食べるごとに舌の上でゆっくりと溶けていく。アワビの弾力とラムのとろける食感、そのコントラストが楽しく、前菜でありながら“旨味の深層”を感じさせるような仕立てです。

15-Year Aged Tangerine Peel Beef Ball
十五年熟成の陳皮(乾燥みかんの皮)を使った牛肉団子スープ。澄んだスープから立ち上る香りは穏やかで、飲むほどに滋味深く身体に染み渡ります。牛肉団子は驚くほどふんわりと仕上げられ、陳皮の香りとともに優雅な余韻を残します。

Thick Cut Chairman Style Char Siu
The Chairmanの代名詞とも言われる厚切りチャーシュー。厚めにカットされた豚肉は、表面がカラメリゼされ、蜜のような艶が輝いています。一口噛むと、甘み、塩気、そして旨味が絶妙に混ざり合い、口の中でとろけていく感覚。これぞ“肉の芸術”。

Aged Pigeon Roasted with 5 Spices
五香粉をまとわせてローストされた熟成鳩。皮はパリッと香ばしく、肉はしっとりとジューシー。噛むごとにスパイスの香りが広がり、深みのある味わいに思わずうっとりする一皿です。

Fresh Water Crab Roes with Pomelo Skin and Water Melon
川蟹の卵を使った濃厚なソースに、冬瓜と柑橘の皮を合わせた繊細な料理。蟹のコクと冬瓜の柔らかさ、そしてポメロピールの苦みが絶妙に重なり、静けさの中に複雑な旨味が広がります。
Steamed Fresh Flowery Crab with Aged ShaoXing Wine & Flat Rice Noodles
The Chairmanの看板料理。紹興酒で蒸し上げた花蟹の香りがふわっと広がり、下に敷かれた米粉麺が蟹の旨味を余すところなく吸い取っています。香りと旨味の共演、まさに至福のひととき。

Aged and Pickled Lemon, Mandarin Peel, and Pork Mince Stir-fried with Mud Crab
発酵レモンと陳皮、豚ミンチで炒めたマッドクラブ。酸味・塩気・甘みが絶妙なバランスで絡み合い、発酵の香りが広がる奥深い味わい。食べるほどにクセになる一皿です。

Steamed Grouper Fish Head with Fermented Chilli
発酵唐辛子で蒸し上げたハタの頭。辛さの中に旨味とまろやかさがあり、ぷるぷるとした頬肉が絶品。発酵の力で辛味が旨味へと変化する、印象的な料理です。

The Whole Roasted Crispy Skin Goose
黄金色に輝く皮が美しい、ガチョウの丸焼き。外はパリッと、中はジューシー。噛むたびに肉汁と香りが溢れ出します。The Chairmanの火入れ技術の高さが際立つ逸品です。

Fish Maw, Shredded Chicken and Mushroom Thick Soup
花膠(魚の浮き袋)、鶏肉、椎茸が入ったとろみスープ。穏やかな味わいが体を包み込み、メイン料理の余韻を優しく締めくくります。

Claypot Rice with Spareribs, Preserved Sausages, and Dried Shrimp
熱々の土鍋で炊かれたご飯。スペアリブ、腸詰、干しエビの旨味が染み込み、底にできた香ばしいおこげがたまらない。卵黄を混ぜれば、まろやかさが加わり完璧。

デザート & フィナーレ
Dessert Trio
最後のデザートは3種の盛り合わせ。
・Roselle Ice Cream:ハイビスカスの花の酸味が爽やか。
・Egg Yolk Pastry:塩気と甘みが共存する伝統的な焼き菓子。
・Layered Sweet Cake:黒糖とココナッツの層が美しい、もっちりした香港スイーツ。

まとめと感想
The Chairman(大班樓)のコースは、ひと皿ごとの完成度はもちろん、全体の流れの設計が見事だった。香りや温度、食感の変化が綿密に構成され、最初から最後まで「素材が語る」ことを徹底している。派手さや技巧を誇示することなく、静かな緊張感の中で味の深みと余韻を積み重ねていくような時間だった。
特に印象的だったのは、発酵や熟成の使い方が主張ではなく“陰影”として生きている点。陳皮、発酵レモン、紹興酒──それぞれが皿の背景で呼吸し、料理全体に立体感を与えていた。旨味の濃度を上げながらも後味は驚くほど軽く、油分や調味のバランス感覚が際立っていた。
空間やサービスにも一切の無駄がなく、会話のテンポや皿の出し方、器の温度までが丁寧に調整されている。スタッフの動きは控えめながら的確で、ゲストが料理に集中できるように整えられているのが伝わってきた。
The Chairman の魅力は、“奇をてらわずに記憶に残る”という稀有なバランスにある。華やかな演出ではなく、素材と技術の積み重ねで静かに心を掴む。その余韻は、食後も長く続く──まさに、香港の食文化が持つ深さと誇りを体現した一軒だった。
予約とアクセス情報
予約方法
- The Chairman は オンライン予約のみ を受け付けており、電話での通常予約受付はしていないようです。
- 予約時には、フルネーム、電話番号、メールアドレスの提供が求められます。
- また、予約の確認メールを受け取ること、場合によってはデポジット(予約金)を支払う必要がある場合もあるとされています。
- 予約枠は 四半期ごと(3か月単位) で公開されるとの情報もあり、たとえば 7〜9 月分は6月の1日から予約開始、というような方式が取り上げられています。
- 予約後、レストラン側から 3日前にメニューを確定するための連絡 が入る体制になっており、ランチ・ディナーともこの方式で運営されています。
- 予約人数を増減する必要が生じた場合は、最低72時間前までに通知 が必要で、それを過ぎるとデポジットの返金ができない可能性があるとの規定もあります。
- 無断不参加(No-show)扱いとなると、支払ったデポジットは没収される扱いとなることも明記されています。
- なお、非常に予約が取りにくいという評判が広く伝わっており、「予約枠公開と同時にアクセスを試みる」「複数デバイスでアクセスを試す」などの戦略を採る人もいます。
アクセス情報
- 現在の住所は 香港・中環(Central)、The Wellington(威靈頓大廈)3階、198 Wellington Street, Central。
- 移転は 2022年に行われており、以前より席数を削減して料理や設備に注力する構成になった旨が公式にも案内されています。
- 地下鉄駅やランドマークからのアクセス具体例は見つかりませんでしたが、中環エリアであれば公共交通網(MTR/バス等)から歩いてアクセス可能な立地と考えられます。
営業時間
- The Chairman の営業時間は以下のようになっています:
ランチ:12:00 〜 15:00
ディナー:18:00 〜 23:00 - これは週7日共通の時間帯として案内されています。
- ミシュランガイドには「12:00-15:00」「18:00-23:00」という表記で掲載されています。
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